大学院統合生命科学研究科 浮穴和義教授

広島大学では、「特に優れた研究を行う教授職(DP:Distinguished Professor)及び若手教員(DR:Distinguished Researcher)」の認定制度を2013年2月1日に創設しました。DPは重点的課題に取り組むべき研究を行う特に優れた教授職、DRは将来DPとして活躍しうる若手人材として、研究活動を行っています。

浮穴和義教授 インタビュー

先生の専門分野について教えていただけますか?

私の専門分野は、脳内ホルモンの探索や生理機能解析を行う学問分野である神経内分泌学というもので、ホメオスタシス(生体恒常性)のメカニズムに興味を持っています。ホメオスタシスとは、体内で体温や血糖値レベルなどを一定に保つ仕組みのことですが、私は特に摂食行動などのエネルギーホメオスタシスに関心があります。

このエネルギーホメオスタシスに関して、2008年に、動物の体重増加に関わる分泌性のペプチド因子であるneurosecretory protein GL (NPGL)の前駆体遺伝子をニワトリの脳から発見しました。

先生の研究の実用的な目的はどのようなものでしょうか?

NPGLの生物学的な機能をつきとめたいと思っています。ニワトリやラット、マウスにNPGLを注入すると、脂肪がついて体重が増えるのです。

現在、肥満は世界的な問題となっています。私たちの研究は、この問題の解決に貢献できると思っています。日本人には肥満の方はそれほど多くはありませんが、内臓脂肪や脂肪肝といった「隠れ肥満」が大きな問題になっています。

これまでで一番驚かれた結果は何でしょう?

NPGLが脂肪の蓄積を誘導することを発見したのですが、摂食行動が変化した動物もいたのに対し、ラットでは摂食量が普段と変わらないのに体重が増加したことですね。ラットで摂食量が増えないにも関わらず体重が増加した原因は、ブドウ糖を脂肪に変えるメカニズムの亢進でした。このことから、高カロリー食摂食時のNPGLの過剰作用が肥満の原因ではないか、と考えました。

研究の難しい点は何でしょうか?

NPGLの研究を進めるためには、有機合成化学、生理学、内分泌学など、さまざまな専門分野の知識が必要になります。そのため、日本や米国などの多くの研究者との協力が必要になります。

2017年にインタビューさせていただいた時から変化はありましたか?

2017年以降、NPGLに関する論文を5本出版しました。また、国際学術雑誌に投稿中の論文も、何本かあります。

研究課題に対する情熱は変わりませんか?

変わりないですね。相変わらず、充実した研究生活を送っています。NPGLの生理機能や、NPGLのパラログ(遺伝子重複によって生じた相同性を持つ遺伝子)であるNPGMの機能もまだよく分かっていないですし、まだまだやるべきことはたくさんあります。

前回インタビューした時、本能的な行動に興味があるとおっしゃっていましたが、この点について研究するチャンスはありましたか?

現在も、本能行動の一つである摂食行動を含むエネルギー代謝調節に注目しています。先に述べた通り、動物によっては摂食行動がNPGLで変化しますが、変化しない動物もいます。肥満は主に過剰なエネルギー摂取が原因ですが、肥満と神経調節の関係についてはまだよくわかっていません。NPGL研究を足掛かりとして、エネルギー代謝を制御する未知の脳内生理活性物質やその生体調節機能に関わる神経ネットワークを発見したいと思っています。

ここ数年で研究活動にどのような変化がありましたか?

国際学術雑誌のeLifeに論文を発表した後、NPGLの研究をさらに進めるための助成金をいくつか獲得することができました。また、小タンパク質であるNPGLをより簡単に効率的に産生できる新しいペプチド合成装置も入手しました。

さらに、2017年にEndocrinology(内分泌学)誌に出版した論文が、翌年、国際内分泌学会発行ジャーナルの特集号の記事のひとつに選ばれました。これは、非常に優れた論文であると国際的にも評価されたことを意味します。我々の研究チームや研究分野にとって大きな驚きでした。

個人的には、DRからDPに連続して任命されたことがうれしかったですね。

未来の研究者や学生の皆さんにアドバイスはありますか?

自分の興味があることを見つけ、ためらわずに挑戦してください。夢を見つけて、決して諦めないでください。人生七転び八起きです!

この記事のオリジナルは、広島大学サイエンスコミュニケーションフェローのEmma Buchetによる英語インタビュー記事です。

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