• ホームHome
  • 大学院医系科学研究科
  • 【研究成果】治療前の骨格筋量と炎症・免疫指標が口腔癌患者の 予後に影響することがわかりました

【研究成果】治療前の骨格筋量と炎症・免疫指標が口腔癌患者の 予後に影響することがわかりました

本研究成果のポイント

 口腔癌患者において治療前の骨格筋量の測定と、炎症・免疫指標を算出したところ、骨格筋量が低く、炎症や免疫状態が悪い患者は予後が悪いことを明らかにしました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科口腔腫瘍制御学の山﨑恵里佳大学院生、柳本惣市教授、山崎佐知子助教らの研究グループは、口腔がん患者の治療前の骨格筋量と炎症指標から、低骨格筋量、高炎症・低免疫状態は予後に悪い影響を及ぼすことを見出しました。
 これまでの研究から、骨格筋量の低い状態、いわゆるサルコペニアの患者は肺癌や食道癌、直腸癌など、いずれの癌においても予後が悪いことが示されてきました。一方で、口腔癌においての報告は少なく、今回私たちは、口腔癌の患者さんを対象に、骨格筋量や炎症・免疫指標が予後に及ぼす影響について検討しました。

 本研究成果はElsevierから出版されている「International Journal of Oral & Maxillofacial Surgery」に 2026年10月1日に掲載されました。
また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 

論文情報

・掲載雑誌:International Journal of Oral & Maxillofacial Surgery
・論文タイトル:Skeletal muscle mass and inflammation-based prognostic score as prognostic factors in oral cancer
・著者:Erika Yamasaki1, Sachiko Yamasaki1, Mariko Naito2, Obayashi Fumitaka1, Nanako Ito1, Souichi Yanamoto1
1:広島大学大学院医系科学研究科 口腔腫瘍制御学
2:広島大学大学院医系科学研究科 口腔保健疫学

背景

 サルコペニアとは、病気や加齢が原因で筋肉量や筋力が低下する疾患です。
 サルコペニアの方が癌になると、生存率や治療完遂率が通常より下がる(=予後が悪化する)といわれています。一方で、口腔がんでの同様の報告はこれまでに多くありませんでした。サルコペニアには一次性と二次性があり、加齢以外に明らかな原因がない場合を一次性サルコペニア、加齢以外の原因(運動不足や疾患、栄養障害)が関与する場合を二次性サルコペニアと分類します。口腔がんの患者さんにおいては、一次性サルコペニアに嚥下障害が合併しやすく、さらに腫瘍による栄養障害や経口摂取困難が重なり、筋肉量減少が悪化し、二次性サルコペニアを引き起こす可能性があります。
 日本人高齢者を対象としたサルコペニア有病率は、男女とも年齢とともに増加し、75〜79歳は男女ともに約22%、80歳以上は男性で32.4%、女性で47.7%となります。がん患者が治療のために入院する急性期病院では、高齢者患者の約15%に新たにサルコペニアが発症するとされ、体の弱い高齢患者のサルコペニア発症に対する入院の影響を調べることは、複雑な問題であると同時に重要なテーマです。
 そこで本研究では、「口腔がん患者も治療前の骨格筋量や炎症・免疫状態によって、予後に影響があるのではないか」と考え、その影響について検討しました。

研究成果の内容

 本研究では、2010年〜2019年に当科で診断された口腔がんの患者285人を対象に、骨格筋量(脚や腕などの自分の意志で動かせる筋肉)や炎症指標(体内で異常が発生している箇所とその度合いを示す指標)と予後との関係を検討しました。その結果、骨格筋量が少ない患者さんでは治療後に生存した期間が短く、複数の炎症指標(高NLR・高PLR・低LMR・低PNI・高mGPS)とも関連していました。さらに性別といった他の要因を除いても、骨格筋量や炎症指標が予後を予測する重要な因子であることが示されました。
 また、がんの進行度によって骨格筋量や炎症指標の関係が異なることも明らかになりました。早期がんでは免疫状態が良好な患者さんでは筋量が保たれる傾向があり、進行がんでは炎症が強いほど筋量の低下が顕著でした。一方、進行がんでも免疫状態が良好な場合には筋量が維持される例もありました。
 本研究は、骨格筋量と炎症指標の両方が、口腔がん患者の予後に深く関わることを示唆しており、治療前の炎症コントロール、栄養状態の改善、リハビリテーションなど、多角的に早期介入することで、治療後の生存率向上や術後回復の改善に寄与する可能性が明らかになりました。

今後の展開

 口腔がんにおいても、骨格筋量や炎症指標を含めた全身評価は、従来の口腔がん治療による腫瘍制御に加えて、予後を捉える重要な視点となります。本研究結果から、骨格筋量や炎症・免疫指標が予後を予測する重要な因子であることがわかりました。今後は、口腔がん診療にサルコペニア評価を組み込み、治療前からの評価と介入を通じて、それぞれの状態に適した治療戦略を構築していくことが求められます。

参考資料

・治療前の造影CT画像
 第3頸椎のスライスを用いて両側の胸鎖乳突筋面積を測定し、骨格筋量とした。

・骨格筋量(SMM:Skertal Muscle Mass)の生存曲線
 高骨格筋量の患者よりも低骨格筋量の患者は生存率の低下を認める。

用語説明

*1 NLR:Neutrophil Lymphocyte Ratio (好中球/リンパ球比)

*2 PLR:Platelet Lymphocyte Ratio (血小板/リンパ球比)

*3 LMR:Lymphocyte Monocyte Ratio (リンパ球/単球比)

*4 PNI:Progress Nutrition Index
   PNI=10 x Alb値(g/dl) + 0.005 x 総リンパ球数

*5 mGPS:modified Glasgow Prognostic Score
     CRP値とAlb値のcutoff値を用いて3群間に区分した指標

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 口腔腫瘍制御学
博士課程4年生 山﨑 恵里佳
助教 山崎 佐知子
Tel:082-257-5667
E-mail:erikaya*hiroshima-u.ac.jp
      sayamasaki*hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


up