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【研究成果】隠れたがんを免疫に見つけさせる方法を発見 -EBウイルスの仕組みを応用した新たながん治療法の可能性-

本研究成果のポイント

  • EBウイルスのLMP1というタンパク質(※1)をがん細胞に作らせると、がん細胞を攻撃するキラーT細胞(※2)の働きが高まり、がんの増殖を抑えられることを明らかにしました。
  • 「Spi-B」と「IRF1」という2つのタンパク質をがん細胞に作らせることでも、キラーT細胞の働きが活発になり、マウスの実験でがんの増殖を抑えられることが分かりました。
  • 今回の発見により、従来の治療薬が効かないがんに対しても、免疫の力を利用した新たな治療法につながる可能性が示されました。今後は、Spi-BとIRF1をがん細胞に安全に届ける方法の開発を目指します。

論文情報

論文タイトル:Spi-B and IRF1 activate tumor immunogenicity downstream of the Epstein-Barr virus protein LMP1.

著者:山根慶大¹†、河野洋平¹、大木駿¹˒⁴、又吉克樹²、森原なぎさ³、東和志¹、大田祐誠¹、北嶋康雄¹、浅井知浩²、保田朋波流¹‡

所属:¹広島大学大学院医系科学研究科免疫学、²静岡県立大学薬学部薬学科医薬生命化学分野、³広島大学自然科学研究支援開発センター、⁴北九州市立大学国際環境工学部 †筆頭著者、‡責任著者

掲載誌:Cell Reports
 
DOI:10.1016/j.celrep.2026.117824

概要

 広島大学大学院医系科学研究科免疫学の保田朋波流教授らの研究グループは、エプステイン・バーウイルス(EBV)(※3)由来の分子LMP1が持つ免疫活性化作用を手掛かりに、免疫から逃れたがん細胞をキラーT細胞が見つけられるようにする治療法の開発に挑みました。
 LMP1をメラノーマや大腸がんなどのがん細胞に導入すると、キラーT細胞が、がんを認識するために必要なMHC class I分子(※4)やCD80の発現が増え、キラーT細胞を活性化しました。さらに、この作用を制御する因子としてSpi-BとIRF1を特定しました。
 Spi-BとIRF1をがん細胞に導入するだけでも、キラーT細胞の活性化とマウスでの腫瘍増殖抑制が確認されました。
 LMP1自体にはがんの増殖を促す作用もあるため、今後はSpi-BとIRF1をmRNAなどでがんへ届ける方法を検討し、免疫が反応しにくいがんへの新たな治療法につなげることを目指します。本研究成果はロンドン時間の2026年8月25日に国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。

図1 研究成果の概要:LMP1の働きを手掛かりにSpi-BとIRF1を特定

背景

 EBウイルスは主にB細胞に感染し、感染細胞の増殖を促す一方、感染細胞をキラーT細胞が見つけやすくする働きも持ちます。その中心となるLMP1は、MHC分子や共刺激分子を増やすことが知られていましたが、B細胞以外のがんでも同じ作用が働くかは不明でした。また、LMP1自体には細胞のがん化を促す作用があるため、そのまま治療に使うことは困難です。
 そこで、LMP1の免疫活性化作用を担う分子を特定し、より安全な治療への応用可能性を検証しました。

研究成果の内容

1.研究方法・手順
 マウスとヒトのメラノーマや大腸がんなどの細胞にLMP1を導入し、MHC class IやCD80の発現、キラーT細胞の反応を調べました。さらに、LMP1で変化する遺伝子を網羅的に解析し、候補となる転写因子(※5)を一つずつ欠損・導入して作用を比較しました。マウスでは、LMP1または候補因子を導入したがん細胞の腫瘍増殖と腫瘍内の免疫細胞を評価しました。

2.今回分かったこと・従来との違い
 LMP1を固形がん細胞に導入すると、MHC class IやCD80が増え、共培養したキラーT細胞が活性化しました。マウスのメラノーマにLMP1をコードするmRNAを投与すると腫瘍増殖が抑えられ、この効果はキラーT細胞を除くと失われました。また、LMP1は、がん細胞内で抑制されている内在性レトロウイルス由来の抗原を増やし、がんを認識するT細胞を増やすことも示しました。
 さらに、LMP1の下流でSpi-BがCD80、IRF1がMHC class Iの発現を高めることを突きとめました。Spi-BとIRF1の2因子だけをがん細胞に導入しても、キラーT細胞の活性化、腫瘍内への浸潤増加、腫瘍増殖の抑制が起こり、LMP1を使わずに免疫活性化作用を再現できました。

図2 Spi-B/IRF1導入でキラーT細胞が活性化し、腫瘍増殖を抑制する

今後の展開

 免疫チェックポイント阻害剤は、キラーT細胞が反応しにくいがんでは効果が限られることがあります。本研究で特定したSpi-BとIRF1をmRNAなどでがん細胞へ効率よく届け、MHC分子やCD80を増やして免疫反応を起こす方法を検討します。これらを達成することで、将来的に、治療が効きにくいがんに対する新たな免疫治療へつなげることを目指します。

研究助成

 本研究は、公益財団法人日本科学協会 笹川科学研究助成(課題番号:2023-4093)、JST 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(JPMJSP2132)、日本学術振興会 特別研究員奨励費(24KJ1735)、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP18H02669、JP19K22538、JP21H02751、JP24K11047、JP25H01061)、日本医療研究開発機構(AMED)P-PROMOTE(25ama221344)、日本学術振興会「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)(JPMJPF2010)、JST スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSFS1A8)、国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、ならびに放射線災害・医科学研究拠点共同利用・共同研究事業の支援を受けて実施されました。また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

用語解説

※1 LMP1:EBVが作る膜上の分子。感染細胞の増殖を促す一方、免疫が感染細胞を見つけるための分子も増やします。

※2 キラーT細胞:体内の異常な細胞を見つけて排除する免疫細胞です。

※3 エプステイン・バーウイルス(EBV):主にB細胞に感染するウイルス。多くの人が感染歴を持ち、通常は免疫によって感染細胞が抑えられています。

※4 MHC class I分子:細胞内のたんぱく質の一部を細胞表面に示し、キラーT細胞が異常を見分ける手掛かりとなる分子です。

※5 転写因子:複数の遺伝子の働きを調節し、細胞の性質を変える「スイッチ」のような分子です。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科免疫学 保田 朋波流
Tel:082-257-5175 FAX:082-257-5179
E-mail:yasudat*hiroshima-u.ac.jp


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