発表者
大阪公立大学大学院看護学研究科 石川 武雅講師、広島大学大学院医学系研究科 井村 春香キャリアアドバンスメントプロジェクト研究員、静岡大学教育学部 北澤 友美講師、奈良県立医科大学医学部看護学科 髙島 佳之講師
概要
本研究グループは、訪問看護師を対象に、一人暮らしの慢性心不全療養者を想定した訪問看護の事例課題を用いて、心不全等の診療ガイドラインや専門資料を学習したAIチャットを使用できる群(AI群)とできない群(非AI群)での比較実験を行いました。その結果、同AIを活用できる環境が、課題に取り組む際の看護師の精神的努力※を有意に低減させ、課題の難しさの軽減や回答への自信向上につながることを明らかにしました。
本研究成果は、2026年9月25日に国際学術誌「BMC Nursing」にオンライン掲載されました。
ポイント
① 訪問看護師105人の評価データをもとに、比較実験でAIチャットの活用効果を検証。
② AI群では、課題対応時の「精神的努力」が有意に低減。
③ 「課題の難しさ」についてはAI群で低く、「自分の回答が正しいという自信」についてはAI群で高い結果が示された。
研究者コメント
訪問看護では、療養者さんの自宅で限られた情報をもとに判断する場面が少なくありません。本研究では、診療ガイドライン等の情報へAIを介してアクセスできることが、訪問看護師の精神的努力とどのように関係するかを調べました。今回の結果だけでAIが看護判断の質を高めるとは言えませんが、必要な情報へのアクセス方法を考える上での一つの知見になったと考えています。今後は、回答の正確さや安全性も含めて検証していきたいと考えています。
研究の背景
訪問看護師は、療養者の自宅を訪問し、病状だけでなく生活環境や家族の状況なども踏まえながら、その場でさまざまな判断を行います。病院とは異なり、すぐに医師や他の看護師と相談できない場面も多く、限られた情報の中で自律的に判断することが求められます。また、診療ガイドラインなどの情報を確認したくても、場所や時間、業務量などの制約から、必要な情報をすぐに参照することが難しい場合があります。
近年、生成AIを医療や看護に活用する試みが広がっています。しかし、看護師が実際の判断に近い課題に取り組む際に、AIを介して診療ガイドライン等の情報へアクセスできることが、課題に取り組む際の精神的努力や難しさにどのように関係するのかは、十分に検討されていません。特に、訪問看護を対象とした実験的研究は限られています。
研究の内容
本研究では、訪問看護師140人を対象に、心不全などに関する10の診療ガイドラインや専門家向け資料を登録したAIチャットを利用できる「AI群」と、外部情報を参照せずに課題に取り組む「非AI群」に無作為に分け、課題に対する対応について比較しました。
両群には課題として、「一人暮らしの慢性心不全療養者を想定した同じ訪問看護の事例」を提示し、療養者の状態や生活状況の評価、訪問時に確認する内容、療養者・家族への対応などについて回答を求めました。課題終了後、主な指標として「この課題に取り組むためにどの程度の精神的努力が必要だったか(1~9点評価)」を測定したほか、探索的な指標として「この課題をどの程度難しいと感じたか」や「自分の回答がどの程度正しいと思うか」についても評価を得ました。
140名のうち、課題を完了していた105名のデータを解析した結果、精神的努力に対する評価の平均値は、非AI群で6.11点であったのに対し、AI群で5.10点となりました。訪問看護の経験年数などの違いを考慮した解析でも、AI群は非AI群より1.13点低い結果が示されました。また、探索的に評価した「課題の難しさ」についてはAI群で低く、「自分の回答が正しいという自信」についてはAI群で高い結果となりました。
なお、本研究では回答の正確性や安全性までは評価していないため、本研究結果から「AIを使えば看護判断の質が高くなる」と結論づけることはできません。また、非AI群が外部情報を参照しない条件であったため、今回観察された違いが「AI機能」によるものなのか、「ガイドライン閲覧」によるものかの区別は追加の検証が必要です。
期待される効果・今後の展開
限られた時間や情報の中で判断を行う必要がある訪問看護において、必要な情報へ効率よくアクセスできる仕組みは、今後の教育や業務支援を考えるうえで重要な研究課題となります。その意味で、AIチャットを介して診療ガイドライン等の情報にアクセスできる環境では、外部情報を参照しない環境と比べて訪問看護師の精神的努力が小さかったことは、意味のある知見だと考えています。
今後は、同じ診療ガイドラインを通常の方法で参照する場合とAIを介して参照する場合を直接比較し、AIを利用すること自体にどのような利点があるのかを検証する必要があります。また、精神的努力や自信といった本人の評価だけでなく、実際の回答の正確さ、必要な情報の網羅性、判断の安全性なども評価する予定です。また、実際の訪問看護に近い状況で検証することにより、AIを介した情報提供を安全かつ有用に活用できる条件を明らかにしていく必要があります。
資金情報
本研究は、公益財団法人フランスベッド・ホームケア財団 第36回研究助成(2025年度)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※ 精神的努力:課題に取り組むときに、「どのくらい頭を使ったと感じたか」を表す指標。本研究では、Paasが提案した評価方法を参考に、1点から9点までの9段階で評価した。点数が高いほど、課題に取り組むためにより大きな精神的努力が必要だったと感じたことを示す。
掲載誌情報
【発表雑誌】 BMC Nursing
【論文名】 Guideline-informed AI chat access and perceived mental effort in a simulated home-visit nursing task: a randomized controlled trial
【著者】 Takemasa Ishikawa, Haruka Imura, Tomomi Kitazawa, Yoshiyuki Takashima
【掲載URL】 https://doi.org/10.1186/s12912-026-05418-w
【お問い合わせ先】
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院看護学研究科
講師 石川 武雅 (いしかわ たけまさ)
TEL:06-6645-3548
E-mail:ishikawat*omu.ac.jp
広島大学大学院医系科学研究科
キャリアアドバンスメントプロジェクト研究員
井村 春香 (いむら はるか)
TEL:082-257-5383
E-mail:hyimura*hiroshima-u.ac.jp
【報道に関する問い合わせ先】
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:omu.koho*gmail.com
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