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本研究成果のポイント
- 以前に我々はヘリコバクター・ピロリ菌除菌後、胃癌の表層に正常粘膜上皮に近い低異型度の上皮(epithelium with low grade atypia: ELA)が発生することを報告しています (Ito M, et al. Pharmacol Ther 2005, Kitamura Y, et al. Helicobacter. 2014)。
- しかしながら、この上皮がどのように発生するのか(癌の一部が変化したのか、正常粘膜が癌表層を被覆したのか)はわかっていません。このため我々は、次世代シークエンサーを用いた癌遺伝子パネル検査を行うことによってELAが癌由来であることを証明しました。
- この発見は癌細胞がピロリ菌がなくなることにより正常な上皮の形態に戻ることを示しており、除菌後の胃癌の発見がしにくい要因を明らかにしたことで、正常に見える上皮の下の癌の見落としの減少につながることが期待されます。
概要
胃癌の主な原因は、ヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori:Hp)の感染であることが確認されています。Hp除菌治療の普及などに伴い胃癌発生は減少していますが、一方で除菌後に発見される胃癌が問題となっています。
除菌後胃癌は、内視鏡で発見が困難であることが特徴とされています。この原因の一つとして、我々は以前に、除菌治療により正常上皮に近い異型度の低い上皮(epithelium with low grade atypia: ELA)が胃癌の表層を覆う現象が起こることを報告しています。このELAは、癌の一部が変化したものなのか、正常粘膜が癌表層を被覆したものか議論されていました。
広島大学大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学 (茶山一彰教授)の卜部祐司助教・伊藤公訓准教授・田中信治教授を中心とした研究チームは癌組織・正常粘膜組織・ELAを切り出し、約100の癌遺伝子を次世代シークエンサーにてdeep sequencing(注1)を行うことによって、ELAが癌由来の組織であることを証明しました。
本研究の成果により、胃癌が胃内環境の変化によって、後天的に病理学的・肉眼的に形態変化を起こす可能性が示唆されました。
本研究成果は「Journal of gastroenterology」オンライン版に掲載されました。
【用語解説】
(注1) 次世代シークエンサーを用いてDNA/cDNAを高重複度で塩基配列解析を行うこと。特定の部位に限って解析をする場合、数百から数千回の重複度で読むことも可能であり、腫瘍内細胞クローンの多様性を検定可能である。
論文情報
- 掲載雑誌: Journal of gastroenterology
- 論文題目: Genomic landscape of epithelium with low-grade atypia on gastric cancer after Helicobacter pylori eradiation therapy
- 著者: Kazuhiko Masuda & Yuji Urabe, Masanori Ito, Atsushi Ono, Hayes Clair Nelson, Koki Nakamura, Takahiro Kotachi, Tomoyuki Boda, Shinji Tanaka, Kazuaki Chayama*
*Corresponding author(責任著者) - DOI:10.1007/s00535-019-01596-4
- 論文掲載ページ (Journal of gastroenterologyに移動します)
- 広島大学研究者総覧 (茶山 一彰 教授)
- 広島大学研究者総覧 (田中 信治 教授)
- 広島大学研究者総覧 (伊藤 公訓 准教授)
- 広島大学研究者総覧 (卜部 祐司 助教)
- 広島大学大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学教室ホームページ
広島大学大学院医系科学研究科
助教 卜部 祐司