【研究成果】歯周病原菌が非アルコール性脂肪性肝炎の病態を増悪させるメカニズムを解明

本研究成果のポイント

  • 口腔から感染した歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis(P.g.)(注1)が肝臓に到達し、肝星細胞(注2)や肝細胞(注3)からのTGF-β1 (線維化促進因子)(注4)やGalectin-3(免疫調整物質)(注5)の産生を介して、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)(注6)の病態を進行させることを明らかにしました。
  • これまでの研究により示唆されていたP.g.感染による非アルコール性脂肪性肝炎の病態増悪のメカニズムを解明しました。

概要

近年、食文化の欧米化に伴う肥満率の増加が深刻な社会問題となっています。特に、肥満に伴う肝臓の病気の1つである非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)は、その10-20%が肝硬変や肝癌に移行するため、病態の解明が重要です。これまでの研究により、歯周炎(注7)がNASHの病態を増悪させることが示唆されていましたが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。

広島大学大学院医系科学研究科口腔顎顔面病理病態学研究室 宮内睦美教授、高田隆名誉教授を中心とした研究チームは、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis(P.g.)歯性感染マウスモデルを用い、口腔から感染させた歯周病原細菌が肝臓に感染し、Gingipain(注8)やLipoprotein/LPS(注9)によるTGF-β1やGalectin-3の産生を誘導し、肝臓の線維化を引き起こすことを明らかにしました。今後、歯科的治療介入による効果の検討や歯周病原細菌やその産生物をターゲットにした診断/治療方法の開発が期待されます。

本研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

用語解説

(注1) Porphyromonas gingivalis
歯周炎の原因菌として有名な細菌であり、歯周病原性細菌と呼ばれています。この細菌は歯周病局所ばかりでなく動脈硬化症病変などからも見つかっており、動脈硬化や早産、糖尿病、関節リウマチなどの全身疾患にも関与していると考えられています。

(注2) 肝星細胞
肝臓の構成細胞の1つで、炎症後の組織修復の際に活性化されることが知られており、肝臓の線維化の中心を担うとされています。

(注3) 肝細胞
肝臓の主たる構成細胞で、肝臓の70-80%を占めます。代謝や消化等の役割を有しています。

(注4) Transforming growth factor-β1(TGF-β1)
増殖因子の1つで、多くの臓器に発現しており、他の多数のシグナル経路と同様に組織発生や細胞分化において極めて重要な役割を果たすことが知られています。線維化を亢進する強力な因子としても知られています。

(注5) Galectin-3
β-ガラクトシドに親和性を持つ糖認識ドメインを有するガレクチンファミリーの1つであり、白血球の機能調整機能などを有する免疫調節因子として感染や炎症に関わる他、癌細胞に血管新生を誘導し、腫瘍細胞のアポトーシスを制御することが報告されています。我々の研究室では、P.g.感染による早産予測因子としても着目しています。

(注6) 非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)
アルコールや肝炎ウイルスの感染といった原因がなく、肝臓に脂肪沈着や炎症、線維化といった変化を生じる病気。

(注7) 歯周炎
細菌の感染によって引き起こされる歯周組織の炎症性疾患です。歯肉溝部に多くの細菌が停滞し(歯垢)歯肉の辺縁が炎症を起こし、発赤や腫脹が現れる。進行すると歯根膜や歯槽骨が破壊され、最終的に歯が抜け落ちる。

(注8) Gingipain
P.g.が産生するタンパク質分解酵素で、病原因子の1つです。菌体表面や菌体外に分泌されてタンパク質を分解し、組織の破壊を引き起こします。

(注9) リポプロテイン(Lipoprotein)/リポポリサッカライド(LPS)
LPSはグラム陰性菌の細胞壁表層にある脂質と多糖の複合体のことで病原因子の1つです。LPSは動物に対して毒素活性をもち、内毒素と呼ばれています。Lipoproteinは、細菌の構成成分の1つで、LPSと同様な種々の免疫生物学的活性を有しています。

 

図:P.g.によるNASHの病態進行メカニズム

図:P.g.によるNASHの病態進行メカニズム

論文情報

  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 論文タイトル: Odontogenic infection by Porphyromonas gingivalis exacerbates fibrosis in NASH via hepatic stellate cell activation
  • 著者名: Atsuhiro Nagasaki, Shinnichi Sakamoto, Chanbora Chea, Eri Ishida, Hisako Furusho, Makiko Fujii, Takashi Takata* and Mutsumi Miyauchi*
    *Corresponding author(責任著者)
  • DOI: https:doi.org/10.1038/s41598-020-60904-8
     
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科
歯学分野 口腔顎顔面病理病態学研究室
教授 宮内 睦美

TEL: 082-257-5632
E-mail: mmiya*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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