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【研究成果】SARS-CoV-2オミクロン株は、ウイルスの病原性を弱め、ヒト集団での増殖力を高めるよう進化した

 発表者

佐藤 佳(東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野准教授)

※研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」(注1)メンバー
福原崇介(北海道大学大学院医学研究院 教授)
松野啓太(北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 講師)
田中伸哉(北海道大学大学院医学研究院 教授)
鈴木理滋(北海道大学大学院医学研究院 助教)
山岨大智(東京大学医科学研究所 博士研究員)
木村出海(東京大学医科学研究所 大学院生)
王磊(北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)特任助教)
岸本麻衣(北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 大学院生)
伊東潤平(東京大学医科学研究所 特任助教)
入江崇(広島大学 大学院医系科学研究科 准教授)
池田輝政(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター 准教授)
澤洋文(北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 教授)
吉村和久(東京都健康安全研究センター 所長)
佐藤佳(東京大学医科学研究所  准教授)

本研究成果のポイント

  • 昨年末に南アフリカで出現した新型コロナウイルス「オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)」(注2)は、全世界に伝播し、現在のパンデミックの主たる原因変異株となりつつある。
  • ハムスターを用いた感染実験の結果、オミクロン株は、従来株やデルタ株(注3)よりも低い病原性を示すことを明らかにした。
  • オミクロン株のスパイクタンパク質(注4)の細胞融合活性(注5)は、従来株やデルタ株に比べて顕著に低かった。
  • オミクロン株のヒト集団内における増殖速度は、デルタ株に比べて2〜5倍高かった。

概要

東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」は、新型コロナウイルスの「懸念される変異株(VOC:variant of concern)」(注6)のひとつである「オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)」が、従来株に比べて病原性が低いことを明らかにしました。また、オミクロン株のスパイクタンパク質の細胞融合活性は、従来株やデルタ株に比べて顕著に低いことを明らかにしました。また、数理モデリング解析により、オミクロン株のヒト集団内における増殖速度は、デルタ株に比べて2〜5倍高いことを明らかにしました。
 本研究成果は2月1日、英国科学雑誌「Nature」オンライン版で公開されました。

発表内容

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2022年1月現在、全世界において3億人以上が感染し、500万人以上を死に至らしめている、現在進行形の災厄です。現在、世界中でワクチン接種が進んでいますが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、流行動態の関連についてはほとんど明らかになっていません。
2020年以降、新型コロナウイルスが、その流行の過程において高度に多様化し、さまざまな新たな特性を獲得していることが明らかとなっています。昨年末に南アフリカで出現した新型コロナウイルス「オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)」は、11月26日に命名されて以降、またたく間に全世界に伝播しました。2022年1月現在、オミクロン株は、日本を含めた世界の多数の国々におけるパンデミックの主たる原因変異株となりつつあります。
本研究では、オミクロン株のウイルス学的特徴を明らかにするために、まず、培養細胞を用いた感染実験を行いました。その結果、オミクロン株は、従来株やデルタ株よりも、細胞融合活性が低く、新型コロナウイルスに感染した細胞が示す合胞体(注7)をほとんど形成しないことを明らかにしました(図1)。次に、ハムスターを用いた感染実験の結果、オミクロン株は、従来株やデルタ株に比べ、体重減少や呼吸機能の異常という病徴が顕著に低いことを明らかにしました(図2)。
次に、研究チームは、世界各国のウイルスゲノム取得情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロン株の増殖率を推定しました。その結果、オミクロン株のヒト集団での増殖速度は、デルタ株に比べて2〜5倍高いことを明らかにしました(図3)。
本研究により、オミクロン株は、従来株やデルタ株よりも病原性が低いことが明らかになりました。しかし、仮に弱毒化していたとしても、オミクロン株の感染による有症化・重症化のリスクはゼロではありません。加速的な流行拡大によって、また第5波のような医療逼迫が起きてしまう恐れもあり、引き続き感染対策を続けることが肝要です。
現在、「G2P-Japan」では、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な正常解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでいます。G2P-Japanコンソーシアムでは、今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進します。

本研究への支援

本研究は、佐藤 佳准教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(20fk0108413、20fk0108451)、科学技術振興機構 CREST(JPMJCR20H4)などの支援の下で実施されました。

図1 新型コロナウイルス感染による合胞体形成

VeroE6/TMPRSS2細胞(新型コロナウイルスが効率良く感染する細胞株)に、図中に示したウイルスを感染させ、感染後48時間において、新型コロナウイルスNタンパク質(図中緑)を染色したその結果、オミクロン株に感染した細胞は、従来株(B.1.1系統)やデルタ株に感染した細胞に比べて、合胞体をほとんど形成しないことを明らかにした。

図2 オミクロン株の病原性

オミクロン株(緑)、従来株(B.1.1系統、黒)、デルタ株(オレンジ)をハムスターに経鼻接種し、体重(左)、および、呼吸機能(Penh, Rpef, 皮下血中酸素濃度 [SpO2])を経時的に測定した。その結果、オミクロン株は、従来株やデルタ株に比べ、病原性が弱い(体重減少が少なく、呼吸機能の異常の程度も少ない)ことが明らかとなった。各図右上の数字は、重回帰検定による調整済P値を示す。

図3 ヒト集団内におけるオミクロン株の増殖率

上記7か国(南アフリカ、オーストラリア、デンマーク、ドイツ、イスラエル、英国、米国)で取得されたウイルスゲノムメタデータ(ウイルスの株、取得日、場所)を基に数理モデル解析して推定した、ウイルスの増殖率を示す。デルタ株の増殖率を1とした時の各株の増殖率をバイオリンプロットで示した。

用語解説

(注1)研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム・コンソーシアムとの国際連携も進めている。

(注2)オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念される変異株(VOC:variant of concern、注6)」のひとつ。現在、日本を含めた世界各国で大流行しており、パンデミックの主たる原因となる変異株となっている。

(注3)デルタ株
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念される変異株(VOC:variant of concern、注6)」のひとつ。オミクロン株の出現まで、パンデミックの主たる原因となる変異株となっていた。また、日本においては、昨年の第5波の原因変異株となった。

(注4)スパイクタンパク質
新型コロナウイルスが細胞に感染する際に、新型コロナウイルスが細胞に結合するためのタンパク質。現在使用されているワクチンの標的となっている。

(注5)細胞融合活性
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を介して、細胞どうしが融合する活性。

(注6)懸念される変異株(VOC:variant of concern)
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する変異株のこと。現在まで、アルファ株(B.1.1.7系統)、ベータ株(B.1.351系統)、ガンマ株(P.1系統)、デルタ株(B.1.617.2, AY系統)、オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)が、「懸念される変異株」として認定されている。伝播力の向上や、免疫からの逃避能力の獲得などが報告されている。多数の国々で流行拡大していることが確認された株が分類される。

(注7)合胞体
新型コロナウイルスに感染した細胞が、スパイクタンパク質を細胞表面に発現し、周囲の細胞と融合することによって形成される大きな細胞塊のこと。

論文情報

  • 掲載誌: 「Nature」2月1日オンライン版
  • 論文タイトル: Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant
  • 著者名: 鈴木理滋#, 山岨大智#, 木村出海#, 王磊#, 岸本麻衣#, 伊東潤平#, 森岡佑平, 直亨則, Hesham Nasser, 瓜生慧也, 小杉優介, 津田真寿美, 大場靖子, 佐々木道仁, 清水凌, 川端涼子, 吉松組子, 浅倉弘幸, 長島真美, 貞升健志, 吉村和久, The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, 澤洋文, 池田輝政, 入江崇, 松野啓太*, 田中伸哉*, 福原崇介*, 佐藤佳*.
    (#Equal contribution; *Corresponding author)
  • DOI: 10.1038/s41586-022-04462-1
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(注: *は半角@に置き換えてください)


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