• ホームHome
  • 大学院医系科学研究科
  • 【研究成果】独自開発プライマーセットを用いたサンガーシーケンシング法は、新型コロナウイルス変異株の大規模スクリーニングに有用である

【研究成果】独自開発プライマーセットを用いたサンガーシーケンシング法は、新型コロナウイルス変異株の大規模スクリーニングに有用である

本研究成果のポイント

  • 本研究では、2020年9月1日から2021年5月25日までの期間中に診断のために採取され、残余検体の本研究への利用同意を得た広島県のCOVID-19感染者の唾液または咽頭ぬぐい液、計734サンプルを用いて、新型コロナウイルス変異株スクリーニング方法の検討を行いました。
  • 独自開発プライマーセットを用いたNested RT-PCR*1により標的スパイク遺伝子を増幅後、サンガーシーケンシング法*2により遺伝子の配列を解読し変異株スクリーニングを試みました。
  • その結果、独自開発プライマーセットによるゲノム配列の読取率は、96.9%-100%と高率であり、スクリーニング対象の709分離株のうち、48分離株が変異を有し、そのうち、26株がB.1.1.7(アルファ株)、7株がE484K変異株、15株がその他の稀な変異株であることが明らかになりました。
  • 本研究において用いたサンガーシーケンシング法は、既知のSARS-CoV-2変異株だけでなく、未知の変異も迅速かつ安価に検出できることから、変異し続けるウイルスを即時に把握するための有効なスクリーニング法として期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科の高橋和明研究員、Ko Ko助教、永島慎太郎助教、田中純子教授らの研究グループは、広島県内の医療機関ならびに行政機関にて採取されたCOVID-19感染者の唾液または咽頭ぬぐい液、計734サンプルのウイルス遺伝子を解析しました。独自開発プライマーセットを用いたNested RT-PCR*1により標的スパイク遺伝子を増幅し、サンガーシーケンシング法によるゲノム解析を試みた結果、低ウイルス量の検体も含め、効率的な変異株の検出に成功しました。次世代シーケンシング (NGS)*3法を用いた結果と比較検証したところ、検出されたウイルス遺伝子配列は100%一致し、同法の精度が確かめられました。
本研究は、広島大学・広島県 官学連携による検査研究体制構築事業、ならびに国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する疫学調査等の推進に関する研究」の一環として行われました。なお、個人情報は匿名化等により保護されており、本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得ています(承認番号E-2122、E-2124)
本研究成果は、Scientific Reports誌に掲載されました(2月14日)。

図1:主な新型コロナウイルス変異株とプライマー設計

B.1.1.7(アルファ株)、B.1.351(ベータ株)、P.1(ガンマ株)、B1.617.2(デルタ株)、B.1.617.1(カッパ株)、C.37(ラムダ株)およびB.1.1.529(オミクロン株)の分類基準を示しています。これら全ての変異はスパイク領域にあり、新型コロナウイルスの標的フラグメントはプライマーセットhCoV-Spike A、hCoV-Spike-B、hCoV-Spike-Cにより増幅され、ゲノム配列が解読されます。

用語解説

*1:Nested RT-PCR
2セットのプライマーを使用し2段階でPCRを行うことで、目的の遺伝子に対する特異性を高め、低発現の遺伝子を検出する方法。

*2:サンガーシーケンシング法:
DNAの塩基配列を決定する方法のひとつ。1977年にFredric Sangerによって開発された第1世代のシーケンス方法。少数のターゲットの場合、迅速で費用対効果が高い。

*3:次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing, NGS)
DNAの塩基配列を決定する方法のひとつ。第二世代のシーケンス方法。数百万から数十億もの膨大なシーケンシング反応を同時並行して実行することで配列決定の処理量を飛躍的に増大させた技術。時間がかかり、費用が高額。

論文情報

  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 論文タイトル: Mass screening of SARS-CoV-2 variants using Sanger Sequencing Strategy in Hiroshima, Japan
  • 著者名: Ko Ko1, Kazuaki Takahashi1, Shintaro Nagashima1, Bunthen E1,2, Serge Ouoba1,3, Md Razeen Ashraf Hussain1, Tomoyuki Akita1, Aya Sugiyama1, Takemasa Sakaguchi4, Hidetoshi Tahara5, Hiroki Ohge6, Hideki Ohdan7, Tatsuhiko Kubo8, Nobuhisa Ishikawa9, Toshiro Takafuta10, Yoshiki Fujii11, Michi Mimori12, Fumie Okada13, Eisaku Kishita13, Kunie Ariyoshi14, Masao Kuwabara15, Junko Tanaka1*
    1 広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
    2 Payment Certification Agency, Ministry of Health, Cambodia
    3 Unité de Recherche Clinique de Nanoro (URCN), Nanoro, Burkina Faso
    4 広島大学大学院医系科学研究科 ウイルス学
    5 広島大学大学院医系科学研究科 細胞分子生物学
    6 広島大学病院 感染症科
    7 広島大学大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学
    8 広島大学大学院医系科学研究科 公衆衛生学
    9 広島県立病院
    10 広島市立舟入市民病院
    11 広島市衛生研究所
    12 広島市健康福祉局
    13 広島県健康福祉局
    14 広島県立総合技術研究所保健環境センター
    15 広島県感染症・疾病管理センター
    * Corresponding author(責任著者)
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-04952-2
【お問い合わせ先】

広島大学 大学院医系科学研究科 
疫学・疾病制御学
助教 Ko Ko
教授 田中 純子
Tel:082-257-5160
FAX:082-257-5164
E-mail:jun-tanaka*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


up