【研究成果】膠芽腫に関わる新たなタンパク質の発見~膠芽腫の診断と治療に新しい可能性~

本研究成果のポイント

  • 細胞増殖を抑制する働きをもつタンパク質を発見しました。このタンパク質の発現は、難治性の腫瘍として知られている膠芽腫で低下していました。
  • この発現低下は、タンパク質をコードする遺伝子のDNAメチル化が原因でした。DNAメチル化によってmRNAの転写が阻害され、タンパク質の発現が抑制されていることがわかりました。モデルマウスにおいてDNAメチル化修飾を取り除くと、そのタンパク質の発現が回復してがん細胞の増殖を抑制することに成功しました。
  • この研究成果は、治療法が確立されていない膠芽腫の根本的な治療法確立につながることが期待されます。

発表内容

【概要】
 広島大学大学院医系科学研究科分子細胞情報学 齋藤 敦 准教授、今泉 和則 教授、徳島大学先端酵素学研究所ゲノム制御学分野 片桐 豊雅 教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科創薬薬理学分野 金子 雅幸 教授らの研究グループは、細胞の増殖を抑制するタンパク質OASISを同定しました。OASISの発現は難治性腫瘍の一つである膠芽腫で低下していますが、その発現を回復させてがん細胞の増殖を抑制することに成功しました。本研究成果は、OASISが膠芽腫の新しい診断マーカーや治療標的となり、根本的な治療戦略の確立に繋がることが期待されます。
 本研究成果は日本時間5月13日(土)午前1時に、米国の学術雑誌Cell誌の姉妹誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されました。

【背景】
 細胞周期の進行にブレーキをかけ、細胞増殖を抑制する重要なタンパク質としてp53が知られています。p53はその機能から、がん抑制因子としても働きます。一方で、p53と同等レベルで細胞増殖を抑制する機能をもつタンパク質は未発見でした。細胞周期の制御に異常をきたすと様々ながんの発症に繋がります。その中でも膠芽腫は、脳腫瘍として知られる中枢神経原発悪性腫瘍のうちで最も頻度が高い難治性腫瘍です。一般的に放射線治療や抗がん剤投与などの維持療法が行われますが、5年生存率が約10 %、平均余命は約2年に留まっており、明らかな効果が認められる治療法は確立されていません。そのため、膠芽腫の有効な診断マーカーや治療標的の確定と、それらを元にした根本的治療戦略の確立が強く望まれています。

【研究成果の内容】
 OASISはアストロサイトで細胞老化が誘導される際に発現が増加するタンパク質として知られていました。その機能を詳細に調べると、p53と同等の細胞増殖を抑制する機能をもつことがわかりました(図A)。多くの膠芽腫患者や膠芽腫細胞においてOASISの発現が低下していることを見出しました。この原因は、DNAがメチル化とよばれる修飾を受けているためであることを突き止めました(図B)。モデルマウスを用いた実験において、エピゲノム編集という方法によってDNAメチル化修飾を取り除くと、OASISの発現が回復してがん細胞の増殖が抑制されました(図C)。

【今後の展開】
 DNAメチル化修飾の解除を標的とした治療薬はまだ存在しません。本法を改良してメチル化解除の高効率化を図り、患者に対する適用法を検討してがん細胞への選択性を高めることで膠芽腫の根本的な治療法確立に結び付くことが期待できます。また、OASIS遺伝子のメチル化を検出することで、膠芽腫の早期診断と治療標的の確定に繋がります。さらに膠芽腫以外のがん種でもOASIS遺伝子のメチル化を発見しており、今回の成果が様々ながん種の診断・治療戦略確立にも発展する可能性があります。

*DNAメチル化:DNAを構成する4つの塩基のうち、C(シトシン)にメチル基(CH3)が付加されること。プロモーター領域でDNAメチル化が起こると転写因子の結合が阻害され、下流遺伝子のmRNAの転写が抑制される。

論文情報

論文タイトル
p53-independent tumor suppression by cell cycle arrest via CREB/ATF transcription factor OASIS
著者
Atsushi Saito1,*, Yasunao Kamikawa1, Taichi Ito1, Koji Matsuhisa1, Masayuki Kaneko2, Takumi Okamoto2, Tetsuro Yoshimaru3, Yosuke Matsushita3, Toyomasa Katagiri3, Kazunori Imaizumi1,*  
  1:広島大学 大学院医系科学研究科
 2:長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科
 3:徳島大学 先端酵素学研究所
  *:Corresponding Authors
掲載雑誌
Cell Reports
DOI番号:10.1016/j.celrep.2023.112479

参考資料

*本研究は日本学術振興会科学研究費補助金ならびに文部科学省研究大学強化促進事業インキュベーション研究拠点「オルガネラ疾患研究拠点」の支援の下、遂行されました。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院医系科学研究科 齋藤 敦(さいとう あつし)
Tel:082-257-5131 FAX:082-257-5134
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徳島大学先端酵素学研究所 片桐 豊雅(かたぎり とよまさ)
Tel:072-641-9004(直通) FAX: 072-641-9812
E-mail:tkatagi*genome.tokushima-u.ac.jp

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