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【研究成果】小児COVID-19肺炎におけるⅠ型インターフェロン中和抗体の保有率を調査~同中和抗体は小児でも重症化の要因である~

研究成果のポイント

・I型インターフェロン(I型IFN)(*1)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(*2)などのウイルスに対する感染免疫に重要な役割を果たします。そのため、I型IFNの働きに問題がある場合にCOVID-19が重症化する可能性が高くなることが知られています。
・国内外の成人COVID-19を対象とした調査により、I型IFNに対する中和抗体(I型IFN中和抗体:*3)を保有している場合に重症化リスクが高いことが報告されています。他方、小児のCOVID-19重症例の1割程度にIFNに関連する遺伝子の先天異常が報告されていましたが、重症例自体が少なく、その他の病態は不明でした。
・そこで本研究では、小児COVID-19肺炎を対象にI型IFN中和抗体の保有率を調査しました。その結果、入院を要する肺炎症例の約10%で同中和抗体を検出しました。一方、COVID-19流行前の小児における保有率は約2%でした。以上より、小児でも同中和抗体が重症化の要因になっている可能性があります。
・小児においてもI型IFN中和抗体を測定することで重症化リスクを予想し、リスクに応じた予防や治療が実現する可能性が期待されます。

主な研究メンバー

<海外の研究グループ>
 ・Jean-Laurent Casanova(ロックフェラー大学[米国])
 ・Paul Bastard(イマジン研究所[フランス])

 <広島大学 研究グループ>
 ・岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授)
 ・浅野孝基(同助教、現:広島大学原爆放射線医科学研究所放射線ゲノム疾患研究分野 准教授)
 ・早川誠一(同診療講師)
 ・津村弥来(同研究員)
 ・谷口真紀(同大学院生)
 ・田中純子(広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 特任教授)

<東京医科歯科大学 研究グループ>
・森尾友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野 教授)
・貫井陽子(元同感染制御部 准教授、現:京都府立医科大学 感染制御・検査医学講座 教授)

概要

国際共同研究グループは、小児COVID-19肺炎患者(183例)、COVID-19流行前の小児(2,267例)、COVID-19流行期の日本人健常小児(249例)の血液を収集して、I型IFNに対する中和抗体の保有状況を調査しました。
その結果、小児COVID-19肺炎の約10.4%でI型IFNに対する中和抗体(I型IFN中和抗体)を保有することが判明しました。保有者の74%は最重症例(*4)でした。健常小児でのI型IFN中和抗体の保有率は約2%以下と低く、小児においても、同中和抗体の保有がCOVID-19重症化のリスク因子になると考えられました。
なお、本研究はAMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(研究代表者:岡田 賢)の支援により行われたもので、その研究成果は、2024年1月4日(木)、「Journal of Experimental Medicine」に公開されました。

論文情報

論文タイトル
Higher COVID-19 pneumonia risk associated with anti-IFN-α than with anti-IFN-ω auto-Abs in children
共著者
Paul Bastard、谷口真紀、浅野孝基、津村弥来、森尾友宏、田中純子、貫井陽子、早川誠一、岡田賢、Jean-Laurent Casanova*、そのほかに77名の研究者。
* Corresponding Author (責任者)
 

背景

 我々は、国際共同研究グループ(COVID HUMAN GENETIC EFFORT:CHGE)(*5)に参加し、COVID-19重症化の病態解明に向けた研究に取り組んできました。これまでにCHGEは、成人COVID-19に対する感染免疫にI型IFNが重要な働きを果たすことを明らかにしています。具体的には、I型IFN中和抗体の保有率は、COVID-19最重症例の13.6%(そのうち80歳以上では21%)、死亡例の18%と報告しています。また、成人健常者における同抗体保有率は、70歳までは1%で一定ですが、その後急速に増加し80-85歳では7%に達します(Bastard P, et al. Sci Immunol., 2021)。他方、小児COVID-19肺炎の約10%においてI型IFNに関連する複数の遺伝子異常が見つかりましたが、残りの90%では原因不明でした(Asano T, et al. Sci Immunol., 2021)。そこでCHGEは、小児症例を対象にI型IFN中和抗体の保有率を調査しました。

研究成果の内容

 小児COVID-19肺炎患者 183例の血液を収集し、I型IFN中和抗体を測定しました。対象小児患者における同中和抗体の保有率は約10.4%で、抗IFN-α2中和抗体 5.5%、抗IFN-ω中和抗体 4.9%でした。同中和抗体の保有者の74%はCOVID-19の最重症例でした。更にCOVID-19流行前の健常小児2,267例の血液を用いて同中和抗体を測定したところ、抗IFN-α2中和抗体 0.2%、抗IFN-ω中和抗体 2%でした。なお、COVID-19流行期の日本人健常小児 249例では、同中和抗体は同定されませんでした。これらの結果から、小児COVID-19肺炎症例では健常小児と比較してI型IFN中和抗体の保有率、特に抗IFN-α2中和抗体の保有率が高く、これらは重症化の要因と考えられました。

今後の展開

 今回の検討で、小児においてもCOVID-19重症例でI型IFN中和抗体の保有率が高いことが確かめられました。小児ではI型IFNに関連する遺伝子の先天異常および、I型IFN中和抗体の保有がCOVID-19の重症化リスク要因と考えられます。将来的にCOVID-19感染者に対する同中和抗体の迅速な測定が実現すれば、発症早期または発症前に重症化リスクの予測が可能となり、リスクに応じた予防や治療の選択が実現すると期待されます。

用語説明

*1:I型インターフェロン(IFN):IFN-α, IFN-β, IFN-ωなどが該当する。ウイルス感染によって産生され、強力な抗ウイルス活性をもたらす。本研究では、I型IFNの代表としてIFN-α2, IFN-ωに着目して研究を実施した。
*2:COVID-19:2019年に発生した新型コロナウイルス感染症で、SARS-CoV-2ウイルスが原因で起こる感染症。
*3:I型IFN中和抗体:I型IFNの活性を中和する自己抗体。I型IFNに結合して、そのウイルス感染防御機構を阻害する自己抗体を示す。(自己抗体:自分の体の構成成分を認識する抗体。自己免疫疾患で検出されることが多く、その発症原因になりうる抗体。)
*4:最重症例:重症度が高く、集中治療室で全身的な管理が必要な症例。
*5:CHGE(COVID HUMAN GENETIC EFFORT):COVID-19重症化のメカニズムの解明を目指した国際共同研究グループ。

参考資料

<図1>小児COVID-19肺炎における中和抗体保有率

15以下(点線より下)が中和抗体陽性。陽性者は183例中19例(10.4%)でその内の14例(74%)が最重症例、4例(21%)が重症例、1例(5%)が中等症例でした。

※重症度
最重症例:重症度が高く、集中治療室で全身的な管理が必要な症例。
重症例 :肺炎があり、酸素投与が必要な症例。
中等症例:肺炎はあるが、酸素投与が不要な症例。

<図2> COVID-19流行前健常小児における中和抗体保有率
中和抗体陽性者は2,267例中47例(2.1%)でした。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 大学院医系科学研究科 小児科学 教授  岡田 賢
Tel:082-257-5212 FAX:082-257-5214
E-mail:sokada*hiroshima-u.ac.jp

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野 教授  森尾友宏
Tel & FAX: 03-2503-5245
E-mail:tmorio.ped*tmd.ac.jp

<報道(広報)に関すること>
広島大学 広報室
〒739-8511 東広島市鏡山1-3-2
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東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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E-mail:kouhou.adm*tmd.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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