<研究に関するお問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(歯)小児歯科学
准教授 仲 周平
TEL:086-236-6716
FAX:086-235-6719
E-mail:nshuhei*okayama-u.ac.jp
広島大学大学院医系科学研究科(歯)小児歯科学
教授 野村 良太
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発表のポイント
- これまでに、指定難病の1つであるIgA 腎症の発症メカニズムの詳細は明らかになっていませんでした。
- むし歯菌の表面に存在するタンパク質の1つであるコラーゲン結合タンパクが、IgA腎症発症に関連している可能性が示されました。
- 今後、医科歯科連携による研究を発展させることで、IgA 腎症の根本治療法の開発につながる可能性があると考えられます。
岡山大学学術研究院医歯薬学域(歯)小児歯科学の仲野道代教授、同・仲 周平准教授、大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座の仲野和彦教授、聖隷浜松病院腎臓内科の三﨑太郎部長、兵庫医科大学総合診療内科学の長澤康行准教授、広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学の野村良太教授らの共同研究グループは、指定難病の1つで原因が不明とされ根本治療法が確立されていない IgA 腎症に関して、動物モデルを用いた研究において、むし歯菌(ミュータンスレンサ球菌)が表面に出しているタンパク質の1つが、その発症メカニズムに関与している可能性を明らかにしました。 IgA腎症は、我が国の疫学調査からは、子どもから大人まで幅広い年齢層にわたり約33,000人の患者さんがいると推計され、根本治療法がない病気の1つとされてきましたが、今回発症メカニズムの一端が明らかになったことで、根本治療法の確立につながることが期待されます。 本研究の成果は9月14日、英国科学誌「Communications Biology」に掲載されました。 |
研究者からのひとこと
これまでは、口の細菌は歯科領域で、腎臓疾患は医科領域で別々に研究が進められてきました。私たちは、この2つの領域の臨床家と研究者がコラボレーション体制を構築し約10年の研究期間を経て、有益な研究成果を得ることができました。今後さらにこのプロジェクトを進めて、臨床現場に届けることのできる成果を得ることを目指します。 |
仲 周平准教授
今回の成果を踏まえて、むし歯菌の表層タンパクを標的にした本研究を継続することによって、実際に患者さんの病気の改善につながる新たな成果を得ることができると考えています。また、これまでに発症メカニズムがよく分かっていない病気において、口の細菌が引き起こす影響を想定した新たな研究プロジェクトを立ち上げていきます。 |
仲野 道代教授
発表内容
<現状>
IgA 腎症は、腎臓の糸球体に免疫グロブリンの IgA というタンパクが沈着する病気で、多くは慢性の経過をたどり、末期腎不全へ進行した場合は、透析や腎臓移植などの治療が必要となります。これまでに、何らかの「感染」が関与している可能性が考えられてきましたが、その詳細は明らかになっていませんでした。特に、この病気は上気道炎や扁桃炎が引き金になることがあることから、口の細菌との関連が想定されてきましたが、医科歯科連携のもとでの研究はほとんどなされてきませんでした。
私たちは、IgA 腎症を患っておられる患者さんの唾液より分離したむし歯菌(ミュータンスレンサ球菌)をラットの頸静脈より投与することで、IgA 腎症様の腎炎を発症させることに成功しました。そして、患者さんから分離された菌の表層には、通常のむし歯菌ではあまり存在していないコラーゲンに結合する Cnm タンパクというものが存在していることを突き止め、このCnm タンパク自体が IgA 腎症発症メカニズムの一端に関与しているのではないかという仮説に至りました。
<研究成果の内容>
これまでに、Cnm タンパクを表層に持つむし歯菌をラットの頸静脈より投与した結果、患者さんで生じているIgA 腎症のような腎炎の発症が再現できました。そこで、今回は菌の表層の Cnm タンパクを人工的に作製して、同様にラットの頸静脈より投与したところ、Cnm タンパクの投与のみで腎炎が発症することが分かりました。このことから、Cnm タンパクを持つむし歯菌が口の中に存在する場合は、何らかの原因でこの菌が体内に侵入することで IgA 腎症の様な腎炎を誘発する可能性があることが考えられました。
<社会的な意義>
本研究によって、これまで根本療法が確立されていない IgA 腎症に対して、むし歯菌の特定の表層タンパクが関与する発症メカニズムの可能性を示すことができました。今後は、このタンパクによって引き起こされる病気をコントロールする方法を考えていくことで、新たな治療法を確立できるなどのよい状況を作り出していけるのではないかと期待しています。また、歯科領域でのアプローチでむし歯菌を減らしていくことで、患者さんの腎臓の状態が改善する可能性も想定されることから、特に IgA 腎症に関しては、医科歯科連携を強化していくことが重要であると考えています。
論文情報
- 論文名:Contribution of collagen-binding protein Cnm of Streptococcus mutans to induced IgA nephropathy-like nephritis in rats
- 掲載紙:Communications Biology
- 著 者:Shuhei Naka, Daiki Matsuoka, Taro Misaki, Yasuyuki Nagasawa, Seigo Ito, Ryota Nomura, Kazuhiko Nakano, Michiyo Matsumoto-Nakano
- DOI:10.1038/s42003-024-06826-x
- URL:https://doi.org/10.1038/s42003-024-06826-x
研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会 (JSPS) 「科学研究費助成事業」(基盤C・23K09435, 研究代表:仲 周平)(基盤B・23K27805, 研究代表:仲野道代)(基盤B・24K02650, 研究代表:仲野和彦)(基盤C・23K09146, 研究代表:三﨑太郎)の支援を受けて実施しました。