広島大学病院 リウマチ・膠原病科 クリニカルスタッフ 小林 弘樹
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本研究成果のポイント
- 本研究では、生物学的製剤(注1)未投与の関節リウマチ患者を対象に研究し、HAQ-DIスコア(注2)が低い関節リウマチ患者では、CTLA4-Ig(注3)およびTNF阻害薬(注4)ともに高い有効性があり、両薬剤間の有効性に差はありませんでした。
- HAQ-DIスコアが高い関節リウマチ患者では、抗CCP抗体(注5)が高値の場合はCTLA4-Ig、抗CCP抗体が低値の場合はTNF阻害薬の有効性が高いことが分かりました。
- 関節リウマチ患者に対して、どのような患者にどのような生物学的製剤が適しているかは明らかになっていませんでした。本研究では、最初の生物学的製剤での治療方法として、CTLA4-IgやTNF阻害薬がどのくらい効果的か、また治療がうまくいく可能性を予測する要因について調べました。
- 本研究の成果により、患者ごとの特性に応じた治療薬の選択が可能になり、早期に効果的な治療を開始できるようになることが期待されます。これにより、関節リウマチの進行を抑え、患者の生活の質を向上させることができます。
概要
広島大学病院リウマチ・膠原病学の小林弘樹医師(大学院生、クリニカルスタッフ)、平田信太郎教授らのグループは、産業医科大学第1内科学講座(田中良哉教授)との共同研究で、HAQ-DIスコアが高い関節リウマチ患者では、抗CCP抗体値がCTLA4-IgおよびTNF阻害薬の有効性に影響を及ぼすことが明らかになりました。
本研究では、2013年7月から2022年8月までに初めて生物学的製剤による治療を受けた関節リウマチ患者953人のデータ(FIRSTレジストリ(注6))を用いて解析を行い、実臨床でのCTLA4-IgとTNF阻害薬の有効性と安全性を比較し、どのような患者にそれぞれの薬剤が適しているかを明らかにしました。
薬剤間の選択バイアスを最小限に抑えるためにPS-IPTW(注7)を用いました。
本研究の成果は、2024年11月5日に国際学術誌「Rheumatology」に掲載されました。
論文情報
- 掲載雑誌
Rheumatology - 著者
Hiroki Kobayashi, Yusuke Miyazaki, Shingo Nakayamada, Kentaro Hanami, Shunsuke Fukuyo, Satoshi Kubo, Ayako Yamaguchi, Yoshino Inoue, Yasuyuki Todoroki, Hiroko Miyata, Hiroaki Tanaka, Yoshihisa Fujino, Shintaro Hirata, Yoshiya Tanaka*
* Corresponding author(責任著者) - 論文題目
Predictors of the effectiveness of first-line CTLA4-Ig in patients with RA: the FIRST registry - DOI
https://doi.org/10.1093/rheumatology/keae598
背景
関節リウマチ患者に対して1剤目の分子標的薬として、どのような患者にどのような生物学的製剤が適しているかは明らかになっていません。本研究ではCTLA4-IgとTNF阻害薬に注目し、どのような患者にCTLA4-IgあるいはTNF阻害薬が適しているかを明らかにすることを目的としました。
研究成果の内容
生物学的製剤未投与の関節リウマチ患者では、CTLA4-IgとTNF阻害薬で有効性に差は認めませんでした(図1)。
図1.生物学的製剤投与24週目のCDAI(注8)寛解率
多変量ロジスティック回帰分析によって、CTLA4-IgとTNF阻害薬ともに、HAQ-DIスコアが低いことが生物学的製剤投与24週目のCDAI寛解に寄与する因子であることが抽出されました。また、CTLA4-Igでは抗CCP抗体値が高いことも生物学的製剤投与24週目のCDAI寛解に寄与する因子であることが抽出されました。
HAQ-DIスコアが低い患者は、CTLA4-IgおよびTNF阻害薬ともにHAQ-DIスコアが高い患者よりもCDAI寛解率が高く、両薬剤でCDAI寛解率に差はありませんでした(図2)。
一方、HAQ-DIスコアが高い患者の中で、抗CCP抗体が高値の患者ではCTLA4-IgのCDAI寛解率が高く、抗CCP抗体が低値の患者ではTNF阻害薬のCDAI寛解率が高いという結果になりました(図2)。
図2.HAQ-DIスコアと抗CCP抗体値のカットオフ値で層別化して、CTLA4-IgとTNF阻害薬の投与24週目のCDAI寛解率を比較
今後の展開
治療開始前の臨床情報などから最適な分子標的薬の選択、プレシジョン・メディシン(注9)が可能となれば、分子標的薬治療による高い有効性、安全性、経済性が得られ、効率的な治療展開、医療経済改善が期待されます。
用語解説
生物学的製剤(注1):遺伝子組み換え技術を応用して、特定の標的分子を特異的に認識する抗体や受容体を改変した医薬品。
HAQ-DIスコア(注2):関節リウマチ患者の身体機能障害を客観的に評価する指標。日常生活動作に関する自己記入式質問票であり、スコアは0(すべての動作が問題なくできる)〜3(すべての動作がまったくできない)で示される。
CTLA4-Ig(注3):関節リウマチにおけるT細胞の過剰な活性化を抑制するために開発された生物学的製剤。現在使用できるCTLA4-Ig製剤はアバタセプト。
TNF阻害薬(注4):腫瘍壊死因子(TNF)という炎症を起こす物質を標的とする生物学的製剤。
FIRSTレジストリ(注5):産業医科大学第1内科学講座で分子標的薬を導入した関節リウマチ患者のレジストリ。
抗CCP抗体(注6):シトルリン化された蛋白に対する自己抗体。関節リウマチ患者では抗CCP抗体の産生が増加していることが知られ、関節リウマチ発症に関与していると考えられている。
PS-IPTW(注7):傾向スコアを用いた逆確率重み付け法。傾向スコアの逆数を用いて各患者に重み付けを行い、2群間の患者背景を揃えることができる。
CDAI(注8):関節リウマチの疾患活動性を評価する方法の一つ。腫脹関節数、圧痛関節数、患者による全般的評価(VAS)、医師による全般的評価(VAS)で病状を示す。
レシジョン・メディシン(注9):患者個々の生物学的特性に基づき、最も効果的で安全な治療法を選択する医療アプローチ。