広島大学人文社会科学系支援室(文学)
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文学部の玄関ホールにある楓文庫展示棚の入れ替えを行いました。
今回のテーマは、「定年退職を迎える教員が選ぶ一冊」。2024年度末で定年退職を迎える教員に「これは」と思う図書を1冊選んで、紹介コメントをいただきました。
展示図書
有馬 卓也 教授(中国思想文化学分野)推薦
森三樹三郎『「名」と「恥」の文化』
(講談社現代新書、昭和46年)
<紹介メッセージ>
本書は私が大学生の時に読んだもので、森三樹三郎氏は魏晋南北朝時代の老荘思想を、仏教思想とからめながら論じる研究者である。日本や中国に見られる「名」と「恥」の文化を、西洋の「罪」の文化と対比させながら、日中の文化論を展開している。和辻哲郎の『風土』やルース・ベネディクトの『菊と刀』とも連動する。
吉中 孝志 教授(アメリカ・イギリス文学分野)推薦
Takashi Yoshinaka, Marvell’s Ambivalence: Religion and the Politics of Imagination in Mid-Seventeenth Century England (Cambridge: D. S. Brewer, 2011)
<紹介メッセージ>
英文学者たるもの、たとえ日本人であっても、英語を母語とする研究者らと対等にやりとりをしない限り本物ではないという信念の下で書かれた Takashi Yoshinaka の代表作の一つ。英国17世紀の内乱期をカメレオンのように生きた詩人、アンドリュー・マーヴェルの抒情詩がテクストの精読を通して当時の政治・宗教的側面から読み解かれている。
金子 肇 教授(東洋史学分野)推薦
金子肇『近代中国の国会と憲政:議会専制の系譜』
(有志舎、2019年)
<紹介メッセージ>
現在、多くの日本人(とりわけ大学生)の中国に対する知識は、「共産党の独裁」の一語で括られる大雑把なイメージの域を出ていないように思います。本書は、中国近代の憲法と議会政治の展開を系統に跡づけながら、共産党政権下の中国政治を権力分立の観点から批判的に捉える歴史的視点を提供しています。
有元 伸子 教授(日本文学語学分野)推薦
浜野佐知『女になれない職業』
(ころから株式会社、2022年)
<紹介メッセージ>
映画監督は〈女になれない職業〉だと言われた時代から、女の性を女の手に取り戻すべくピンク映画を撮り、一般映画では鳥取出身の女性作家・尾崎翠の再評価を成し遂げた浜野佐知監督。2012年に広大文学部で講演いただいた際の学生の感想は、「4年間でいちばん勉強になりました」。理不尽さに屈せぬエネルギーを浴びてください。
小川 恒男 教授(中国文学語学分野)推薦
中井英夫『虚無への供物』
(講談社文庫、1974年)
<紹介メッセージ>
読者を選ぶ本だと思います。物語は真相の解明のためにはまったく役に立たないムダな情報が開示され増殖し展開していきます。しかし、そのムダな情報のなんと蠱惑的なことか。いっそ真相の方が味気なく感じられるほどに。無用でムダなものを楽しむことのできる人にお勧めです。
井内 太郎 教授(西洋史学分野)推薦
井内太郎『16世紀イングランド行財政史研究』
(広島大学出版会、2006年)
<紹介メッセージ>
本書はいわゆるイングランドの「長い16世紀」の国家財政構造の特質について分析したものである。
16世紀半ばに対外戦争から生じた財政危機を克服するために行財政改革が実施されることになったが、それは行政制度の近代化を目指すものでは決してなく、財政状況を健全化させ、中世以来の伝統的な「国王自活」原則の再生を試みるものであったことを明らかにした。
久保田 啓一 教授(日本文学語学分野)推薦
久保田啓一『新編日本古典文学全集73 近世和歌集』
(小学館、2002年7月)
<紹介メッセージ>
近世和歌のアンソロジーは、近世の価値観や同時代の評価とは無縁の立場で作者が選定され、恣意的に作品が選ばれるのが常でした。私が最も留意したのは、近世において評価の高かった人々の作品を、花・郭公・月・雪・述懐のような歌題に即して客観的に選ぶということです。日文の研究室にもありますから、一度ご覧ください。