楓文庫『2025年度定年退職を迎える教員が選ぶ一冊』を展示しています

 文学部の玄関ホールにある楓文庫展示棚の入れ替えを行いました。
 今回のテーマは、「定年退職を迎える教員が選ぶ一冊」。2025年度末で定年退職を迎える教員に「これは」と思う図書を1冊選んで、紹介コメントをいただきました。

楓文庫『2025年度定年退職を迎える教員が選ぶ一冊』

展示図書

高永 茂 教授(比較日本文化学)推薦

アーサー・クラインマン 著
『病いの語り:慢性の病いをめぐる臨床人類学』(誠信書房、1996年)

病いの語り_表紙

<紹介メッセージ>
 Illness(病い)とNarrative(ナラティブ)の関係をとらえ直した古典とも言える本です。私はこの本で、コンテクストの中でことばの意味を理解することの重要性を学びました。

後藤 弘志 教授(西洋哲学)推薦

中村 雄二郎 著
『共通感覚論』
(岩波現代文庫、2000年)

共通感覚論_表紙

<紹介メッセージ>
 〈常識〉を意味するコモン・センスという言葉は,アリストテレス以来,五感を統合する根源的能力である〈共通感覚〉を意味していた。個別性と普遍性,専門家と一般人,文系と理系等々の分化が先鋭化すると同時に平板化する現代技術社会において,その中間に「共通の地盤」を模索するための導きの書。

小林 英起子 教授(ドイツ文学語学)推薦

ゴットホルト・エフライム・レッシング 著
『レッシング喜劇選集』
(同学社、2025年)

レッシング喜劇選集_表紙

<紹介メッセージ>
 この翻訳書は、18世紀中頃のドイツ演劇黎明期に活躍した劇作家ゴットホルト・エフライム・レッシングが18才の頃書いた処女作『若い学者』(1747)の他、20才前後の作品『女嫌い』(1748)と異色の社会的喜劇『ユダヤ人』(1749)の三篇の喜劇を収録したものである。
 『若い学者』ではレッシング自身が座学の秀才であることに決別して、青二才の大学生が学者気取りで悦に入る様を諷刺的に描いている。ラテン語の格言を話題に父と子がやりとりをする場面やうぬぼれた大学生が下女や下僕からもやり込められる場面が痛快である。
 『女嫌い』ではイタリアのコメディア・デッラルテの影響も見られ、離婚を経て女嫌いになった父親が、息子の婚約者である男装の女性に翻弄される。『ユダヤ人』ではユダヤ人に対する偏見が問われ、観客の予想を裏切る高潔なユダヤ人の旅人とドイツ人の男爵との友情が描かれている。後の傑作『賢者ナータン』との萌芽とも言うべき斬新な喜劇である。

安嶋 紀昭 教授(文化財学)推薦

秋山 光和 著
『王朝絵画の誕生―『源氏物語絵巻』をめぐって』(中公新書、1968年)

王朝絵画の誕生_表紙

<紹介メッセージ>
 単なる印象論から脱して、日本の美術史を真に学問として成立させるためにはどうしたらよいか。この課題に正面から取り組んだ学者こそ、故秋山光和博士である。博士は美術研究に光学的方法を導入し、肉眼では把握し難い内容も含めた客観的資料による復元的考察を推進なされた。本書はその入門書として、最高の名著である。

【お問い合わせ先】

広島大学人文社会科学系支援室(文学)
E-mail:bun-soumu*office.hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)


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