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【研究成果】鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

本研究成果のポイント

  • 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。
 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。
 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。

 本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。

<発表論文>
論文タイトル
Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia
著者
小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1

1.    広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学
2.    広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学
3.    広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学
4.    京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野
5.    京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同)
6.    広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学
7.    広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学
8.    広島大学・自然科学研究支援開発センター
9.    長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学
10.    Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg

掲載雑誌
Journal of Bone and Mineral Research
DOI番号
10.1093/fjbmr/zjaf201.

背景

 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。
 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。

研究成果の内容

 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。

今後の展開

 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。

参考資料

図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです

 (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。

用語解説

(※1)鎖骨頭蓋異形成症
骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。

(※2)Runx2
骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。

(※3)ミスセンス変異
蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。

(※4)Runtホモロジードメイン
Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。

(※5)ヘテロ接合体
父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。

(※6)ホモ接合体
父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。

(※7)膜性骨化
脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。

(※8)欠失変異
遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。

(※9)髄床底
大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。

(※10)ハプロ不全
対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。

<研究に関すること>
広島大学大学院医系科学研究科 医歯薬学専攻 生体分子機能学
教授 宿南 知佐
TEL:082-257-5628 FAX:082-257-5629
E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp
URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html

<報道(広報)に関すること>
広島大学広報室
TEL:082-424-4383 Fax:082-424-6040
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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