(廃止)植物機能~知る・変える・創る~プロジェクト研究センター

センター基本データ

本センターは、設置期間満了のため廃止されました。

  • 整理番号:21-04
  • 設置期間:2009年11月09日~2018年03月31日
  • センター長(所属/職名/氏名):大学院理学研究科 / 教授 / 草場 信
  • 連絡先(TEL/FAX/E-mail):082-424-7490 /  / akusaba [AT]hiroshima-u.ac.jp
       (※[AT]は半角@に置き換えてください)

プロジェクト概要

目的

地球温暖化をはじめとした人間活動の代償としての環境悪化の改善が人類にとっての危急な課題として突きつけられている。その解決に植物は大きな役割を果た しうる。二酸化炭素排出問題に関して言えば、石油代替燃料としてのバイオマスに高い関心が向けられているとともに、有用な「二酸化炭素吸収装置」としての植物を現在植物が生えないような過酷な環境の地域でも生育させることができればそのインパクトは大きい。一方、植物を栽培する農業も人間活動の一部であ り、多量の施肥や畜産廃棄物などが環境を攪乱する原因のひとつともなっている。そのため、持続的な作物生産(サステイナビリティー)の確立が急務とされて いる。
本研究プロジェクトは、このような環境問題に対処できるような有用植物を作成すること、いわば「環境バイオテクノロジー」の推進を目的としている。そのためには、植物以外の生物から有用遺伝子を導入することにより、画期的な遺伝子組換え植物を作成することはもちろん、植物が元来持つ高い環境適応能力の分子機構を解明し、そこで得られた知見を応用することで飛躍的に高い機能を有する植物を育成することを目指す。すなわち①過酷な環境下で生育可能な高ストレ ス耐性、②高バイオマス適性、③低環境負荷性、および④環境浄化(ファイトレメディエーション)能力を持つ植物の育成に取り組む。
広島大学には現在、このような環境問題に関連した研究課題を持つグループが多くあるが、その連携は十分ではなかった。この研究プロジェクトでは「環境バイオテクノロジー」をキーワードに研究者間の連携・共同研究を促進し、研究の活性化・発展を目指す。また、その基盤技術としての形質転換法の効率化も試みる。このような取り組みを通じて、イノベーション創出基礎的研究推進事業などの大型研究資金の獲得を目指すとともに、中四国地方における環境バイオテクノ ロジーの研究拠点と地位を築く。さらに、平成22年度から共同利用・共同研究利用拠点として遺伝子組換え植物の第一種使用の全国拠点となる筑波大学遺伝子実験センターとの連携も視野に入れ、遺伝子改変植物研究の西日本の中心的役割を果たす。
 

背景

①研究センターを着想するに至った背景
植物の大きな特徴のひとつは自ら移動できないということである。このため、植物は様々な環境への適応力を備えるようになったと考えられている。例えば、 乾燥の厳しい陸地にはじめて進出したコケ類にも細胞の水分の大半が失われても枯死しない種があり、より高度な組織を持つ高等植物は砂漠のような極度に乾燥 した環境にまでその生存範囲を広げている。これら植物の持つ高い適応性をさらなる植物機能の高度化に結びつけて行くには、そのメカニズムを分子レベルで解明する基礎的研究分野とそれを植物体内で機能させる応用技術分野の連携が必須である。従来、植物における基礎研究・応用研究は、大学で言えばそれぞれ理学系、農学系研究組織で独自に行われて来ており,それらを融合させようという試みは必ずしも多くない。それは広島大学においても同様である。したがって、今後は両者が効率的・有機的に融合した新たな研究組織の形成が重要である。本プロジェクトは人類にとって差し迫った課題として突きつけられている環境問題に関連した基礎研究・応用研究に携わる研究者の連携により、その解決に取り組もうというものである。

②国内外における類似研究機関の存在の有無(本センターの独自性)
本プロジェクトは、環境問題に対して遺伝子組換え植物を用いて対処しようという「環境バイオテクノロジー」というキーワードで研究者の連携を図ろうというものである。全国的にみても、このような基礎研究から応用まで幅広いテーマを含む研究プロジェクトの数は多くない。

③本研究の遂行がどのような新しい研究領域の創生や学問上の新展開をもたらすと考えられるのか,その意義
我が国では、遺伝子組換え植物は食品としては、なかなか受け入れられていないのが現状であるが、青いカーネーションなど既に商品化されている遺伝子組換え植物もある。したがって、「環境バイオテクノロジー」という新しい視点で作成された遺伝子組換え植物は国民に受け入れられる可能性も高く、遺伝子組換え研究の新たな展開のきっかけになる可能性がある。また、植物の高い環境適応の分子機構を研究することは、植物がどのようにして生物として成功してきたかを解明することでもあり、基礎研究としても大変興味深い。

④設置期間満了後の計画
現在のところ、中四国地方において、バイオテクノロジー研究の分野で中心的な存在となっている大学・研究機関はない。広島大学でのバイオテクノロジーを用いた環境浄化研究は一定の評価を受けており、これを発展させ、より幅の広い「環境バイオテクノロジー」の分野を標榜することで中四国地方における同分野の拠点となることを狙う。また本プロジェクト研究センターで得られた研究成果をもとに、大型研究資金の獲得および有用遺伝子改変植物の産業への利用を目指す。

研究計画

平成21-22年度
①高ストレス耐性の分子機構の解明
ストレス耐性に重要な役割を果たす植物ホルモンであるアブシジン酸やサイトカイニン等の作用に関して検討する。その際、植物がストレスを受けた際に見られる典型的な応答のひとつである葉の黄変に注目して研究を進める。またストレス応答には活性酸素生成が重要な役割を演じることから、その消去系としてのアスコルビン酸合成制御の解明に取り組む。また、深刻な作物病原菌である青枯病菌に感染するファージに含まれる溶菌タンパク質の同定を行う。
②植物バイオマス生産の分子機構の解明
バイオマス生産の基礎となる光合成の場である葉緑体のバイオジェネシスに関する突然変異体、あるいは老化時(あるいはストレス負荷時)にも葉緑体の機能 が低下しない突然変異体の解析を通して、光合成機能向上を目指す。またバイオマス生産に重要な細胞壁の合成に関与すると考えられる糖ヌクレオチド輸送体遺 伝子の導入の効果を検討するとともに、植物の伸長生長に重要な植物ホルモンであるジベレリンの細胞壁形成制御に関する作用に注目して解析を進める。さらに、植物の生育に重要と考えられるが、実験室での再現が難しいことからこれまで十分に解析されてこなかった野外生育環境での微細環境変動に対する植物の応 答機構を分子遺伝学的なアプローチにより解析する。
③低環境負荷性を与える形質の分子機構の解明
環境低負荷型植物育成のための基礎研究として、リンによる環境汚染の原因のひとつとなっているフィチン酸含量が少ない突然変異体の原因遺伝子の単離を目指すとともに、リンの過剰施肥およびによる環境汚染を防ぐため、低リン耐性を与えると期待されるOsPI1の機能解析を進める。
④高環境浄化能力の分子機構の解明
植物における窒素酸化物の代謝機構の解析を通じて、植物による大気中窒素化合物の浄化のための基礎研究を進めるとともに、③でも述べた植物によるリン代謝に関する研究を進め、湖沼の富栄養化の原因のひとつであるリンを効率よく吸収する植物の開発を目指す。またコケ類の中には重金属を高濃度で蓄積する能力を持つ種も存在する。この高い環境浄化能力のメカニズムの解明とともに、その直接利用の可能性を探る。さらにある種の水生植物は環境ホルモン(特にノニル フェノール)の分解能を持つが、ここに関与すると考えられるペルオキシダーゼの解析を行う。
⑤効率的形質転換法の開発
これら4つの柱の基盤技術として、モデル植物以外の植物を含めて容易かつ安定的に形質転換が出来るようにアグロバクテリウム形質転換法の改良を行うとと もに、複雑な形質を付与できる長鎖DNA導入を可能とする大腸菌による植物形質転換法の開発にも取り組む。また、オルガネラゲノム情報は母性遺伝するので花粉による環境中への組換え遺伝子の拡散が起きにくいとされる。そこでモデル的植物を用いて多くの種に適用可能な新規のオルガネラゲノム改変法の開発の可能性に関して基礎的な知見を得る。

なお、センター設立に際し、効率的・有機的な研究推進のために各研究者間の情報交換を行う全体会議を開催する。

平成22-23年度
上記の課題についてさらに基礎研究を進めるとともに、有用形質転換体の作成・評価を進めていく。
①高ストレス耐性植物系統の育成
アブシジン酸、サイトカイニンなどの植物ホルモンに関する突然変異体・形質転換体、アスコルビン酸過剰蓄積株のストレス耐性の評価を行う。青枯病菌に感 染するファージに含まれる溶菌タンパク質の同定を進めるとともに、植物に導入して青枯病菌に対する耐病性が付与されるかを検討する。
②高バイオマス適性植物系統の育成
糖ヌクレオチド輸送体遺伝子過剰発現植物が細胞壁を多く蓄積するか調査するとともに、老化遅延突然変異体がバイオマス生産に貢献できるかを評価する。また、微細環境変動への適応が高まった突然変異体・形質転換植物のバイオマス向上への効果を検討する。
③低環境負荷植物系統の育成
フィチン酸含量を減少させる突然変異の原因遺伝子を他の作物種でノックダウンすることで低フィチン化が可能かを検討する。OsPIの異所・異時的発現あるいは過剰発現がイネ以外の植物にリン代謝の効率化をもたらし、低リン施肥に対応できるようになるかを確認する。
④高環境浄化能力を持つ植物系統の育成
フィチン酸含量を減少させる突然変異の原因遺伝子を過剰発現させた植物体が多量のリンを蓄積できるかを検討し、環境中の過剰なリンを回収する植物を開発 する。また、窒素酸化物代謝に関する遺伝子を過剰発現させた形質転換体による窒素酸化物浄化能力を評価する。さらに環境ホルモンの分解に関与する細胞壁結 合型ペルオキシダーゼを過剰発現させた遺伝子組換え体を作成し、環境ホルモン浄化能力を調査する。
⑤改良型形質転換法の適用
改良型の形質転換法を本プロジェクトの中で形質転換が難しいとされる植物に対して実際に利用するとともに、長鎖DNA導入による複雑形質の改変を目指す。またモデル的植物種を使って新規のオルガネラゲノム改変法を検討する。

これらのほか、プロジェクト研究センターにおける研究の総括として成果報告を兼ねた講演会を開催する。

全ての年度を通じて、本課題を遂行するには形質転換植物の栽培およびその特性調査が必須である。環境適応力の検討はある程度、実験室内でも再現可能であ り、これまでも多くの成果を生んできた。しかしながら、実験室内で効果があった現象も圃場レベルでは何の効果も生まなかったという例も少なくない。これは 実験室内での環境は用いる人工光が自然光に比べて格段に弱いこと、温度・湿度の点などで、自然環境とはかけ離れたものであることにひとつの大きな原因がある。ここで目指す研究を実りあるものにするために、遺伝子組換え植物をより自然に近い条件で栽培・評価する。


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