放線菌プロジェクト研究センター

センター基本データ

  • 整理番号:19-03
  • 設置期間:2007年10月01日~2025年03月31日
  • センター長(所属/職名/氏名):大学院統合生命科学研究科 / 教授 / 荒川 賢治
  • 連絡先(TEL / E-mail):082-424-7767 / karakawa[AT]hiroshima-u.ac.jp(※[AT]は半角@に置き換えてください)

プロジェクト概要

目的

放線菌は、1)原核生物であるにもかかわらず線状染色体をもち、2)カビに似た複雑な形態分化を行い、3)抗生物質を初め多くの有用な二次代謝産物を生産するという特徴をもつ極めて特異的な微生物である。2007年に本プロジェクトセンターを設立した木梨陽康教授は、放線菌から巨大線状プラスミドを発見し、続いて線状染色体のダイナミックな構造変化を解析して、世界における放線菌のゲノム研究をリードしてきた。本プロジェクトセンターの3年間の成果として、抗生物質生合成・二次代謝カスケードの解析を中心にした原著論文を9報発表した。その中には2009年ノーベル化学賞受賞者Ada Yonath博士との共著論文もあり、放線菌の高い二次代謝能が世界中で注目されている何よりの証拠である。
放線菌ゲノムの研究は、「原核生物は環状染色体をもつ」という遺伝学のドグマを覆したことによって、生物学に大きなインパクトを与えた。また染色体が環状から線状へ進化したメカニズムについても重要な知見をもたらした。さらに、私たちが現在、力を入れている二次代謝制御カスケードの解析は、生物(放線菌) がいかに巧妙に抗生質生産や胞子形成を制御しているかを明らかにしつつある。今後も本プロジェクトセンターを継続し、放線菌研究を多角的に発展させていく 所存である。
 

背景

抗生物質生産へのプラスミドの関与が古くから唱えられてきたが、その物理的実体は長い間不明であった。私たちはパルスフィールド電気泳動を放線菌DNAに初めて適用して、多くの抗生物質生産菌から線状プラスミドを検出し、特に、S. coelicolorのメチレノマイシン生産に関与するSCP1が350kbの巨大線状プラスミドであることを明らかにした(Nature, 328, 454 (1987))。この発見はその後、次の2つの方向へ大きく発展した。 1) ChenらはS. lividansの染色体自身が線状であることを明らかにし、私たちによるS. griseusの例を含めて多くの放線菌株から線状染色体が検出された。こうして「原核生物は環状染色体をもつ」という遺伝学の常識は覆された。続いて私たちは、S. griseusの線状染色体が末端欠失に伴って環状化やアーム置換を起こすこと、線状プラスミドと一点交差してキメラ染色体を形成することを明らかにした。このような結果は、「大腸菌型の環状染色体と線状プラスミドが一点交差して線状染色体が生まれ、線状染色体同士あるいは線状染色体と線状プラスミドが 一点交差して線状染色体の複数化が起こった」ことを強く示唆した。 2) SCP1の発見に続いてpSLA2-Lの全塩基配列を決定し、その上にランカサイジン、ランカマイシン、カロテノイドの生合成クラスターおよび多くの制御遺伝子を同定した。ランカサイジンの生合成は極めて特異的であり、多くの制御遺伝子は複雑な二次代謝制御カスケードを構成していることが分かった。この間、他のグループからはほとんど報告がなかったが、最近になってneocarzinostatin, leinamycin, C-1027, lasalocid, echinomycin, chlorothricin等の生合成クラスターが線状プラスミド上にコードされていることが明らかになった。また、芳香族化合物の分解や植物病原性への関与も報告されて、線状プラスミドが微生物の二次代謝に広く関わっていることが次第に明らかになってきた。
 

研究計画

平成22年度
(1) 線状レプリコンの塩基配列解析に基づいたゲノム構造に関する研究
・S. rochei 7434AN4株の線状染色体の全塩基配列決定
 (※ 平成23,24年度も継続して研究)

(2) S.rocheiの抗生物質生合成・胞子形成および二次代謝制御カスケードの解析
・LC生合成におけるモジュラー・反復混合型PKSの解析
・LC環化酵素LkcEの分子認識機構解析
・二次代謝制御シグナルカスケードの網羅的解析
 (※ 平成23,24年度も継続して研究)

(3) ジャガイモそうか病の分子生物学的解析とその応用
・新たな病原物質の構造と機能の解析

平成23年度以降の計画
(1) 線状レプリコンの塩基配列解析に基づいたゲノム構造に関する研究
・S. rochei 7434AN4株の線状染色体の全塩基配列決定
 (※ 平成22年度から継続)
・線状プラスミドpSLA2-L,-M,-Sの生成機構の解析
・線状トポロジーを保持する因子の探索

(2) S.rocheiの抗生物質生合成・胞子形成および二次代謝制御カスケードの解析
・二次代謝制御シグナルカスケードの網羅的解析(※ 平成22年度から継続)
・高機能分子構築を目指したLM生合成酵素の機能解析
・7434AN4株における胞子形成機構の解明

主な事業活動

学会発表以外の活動を以下に記す。
•日本放線菌学会2007年度大会(尾道)を主催(2007)
•日本放線菌学会賞を受賞(2007)
•ゲノムひろば2007 in大阪に参加(2007)
•福山大学グリーンサイエンス研究センター第4回公開講演会で講演(2007)
•ミニゲノムひろば2007 in福岡に参加(2007)
•第17回北里研究所学会賞受賞者特別講演会で講演(2008)

主な研究成果

主な発表論文は次の通りである。
•S. Yamamoto et al.: g-Butyrolactone-dependent expression of the SARP gene srrY plays a central role in the regulatory cascade leading to lankacidin and lankamycin production in Streptomyces rochei. J. Bacteriol., 190, 1308-1316 (2008)
•K. Arakawa et al.: Cyclization mechanism for the synthesis of macrocyclic antibiotic lankacidin in Streptomyces rochei. Chem. Biol., 12, 249-56 (2005)
•M. Yamasaki and H. Kinashi: Two chimeric chromosomes of Streptomyces coelicolor A3(2) generated by single crossover of the wild-type chromosome and linear plasmid SCP1. J. Bacteriol., 186, 6553-59 (2004)
•S. Mochizuki et al.: The large linear plasmid pSLA2-L of Streptomyces rochei has an unusually condensed gene organization for secondary metabolism. Mol. Microbiol., 48, 1501-10 (2003)
•D. Kameoka et al.: Analysis of fusion junctions of circularized chromosomes in Streptomyces griseus. J. Bacteriol., 181, 5711-17 (1999)
•M. Redenbach et al.: A set of ordered cosmids and a detailed genetic and physical map for the 8 Mb Streptomyces coelicolor A3(2) chromosome. Mol. Microbiol., 21, 77-96 (1996)
•A. Lezhava et al.: Physical map of the linear chromosome of Streptomyces griseus. J. Bacteriol., 177, 6492-98 (1995)
•H. Kinashi and M. Shimaji-Murayama: Physical characterization of SCP1, a giant linear plasmid from Streptomyces coelicolor. J. Bacteriol., 173, 1523-29 (1991)
•H. Kinashi et al.: Giant linear plasmids in Streptomyces which code for antibiotic biosynthesis genes. Nature, 328, 454-56 (1987)
•H. Kinashi and M. Shimaji: Detection of giant linear plasmids in antibiotic producing strains of Streptomyce by the OFAGE technique. J. Antibiot., 40, 913-16 (1987)


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