酵母細胞プロジェクト研究センター

センター基本データ

  • 整理番号:14-39
  • 設置期間:2003年04月01日~2026年03月31日
  • センター長(所属/職名/氏名):大学院先端物質科学研究科 / 教授 / 水沼 正樹
  • 連絡先(E-mail):mmizu49120[AT]hiroshima-u.ac.jp(※[AT]は半角@に置き換えてください)

プロジェクト概要

目的

生物は外界の多様な変化(ストレス)を感知し、ストレス適応に必要な機構をつぎつぎに作動させつつ生命維持をはかっている。この生命維持機構の解明は、生命科学の重要な課題の一つである。“究極の細胞”といわれる酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、生命の仕組みが最も詳しく解明された生物であり、酵母の研究で新たに得られる情報が生命科学に及ぼすインパクトは計り知れな い。私たちは酵母の適応と増殖制御に関わる機能分子を発見し、その制御機構を解明するとともに、生理的役割を明らかにする研究を行っている。この研究で、高等生物にもあてはまる生命の基本機構の解明をめざす。基礎研究成果の応用展開として、酵母を利用するシグナル伝達に作用する生理活性物質高効率スクリー ニング系の構築に成功した。この方法を利用して、生薬など広範な天然資源のスクリーニングを実施し、医薬開発をめざす。

背景

細胞内カルシウムイオン(Ca2+)は、細胞内のシグナルメディエーターとして広範な真核生物細胞機能の調節に関わっている。Ca2+シグナル伝達系の酵素“カルシニューリン”(Ca2+依存性プロテインホスファターゼ)は、ヒトでは脳・神経系や免疫系機能に重要で、また免疫抑制剤の作用標的としても知られる。当研究室では出芽酵母のカルシニューリン(Ca2+依存性プロテインホスファターゼ)遺伝子を世界に先駆けて取得し発表して以来、一貫してその機能解明の努力を続けている。Ca2+シグナル伝達経路は、G2/M期の細胞周期エンジンCdc28p/Clb2pの負の制御因子Swe1pキナーゼの活性化を介してM期進入を阻害する機構を発見し、これが細胞周期チェックポイント機構として機能している可能性を提示した(M. Mizunuma et al., Nature, 392, 303-306 (1998))。この成果に基づき、本経路に欠陥を持つ変異株を多数取得し、分子遺伝学的に解析することにより、本機構の全貌解明および生理的意義解明をめざしている。
 

研究計画

実施中のプロジェクト
1.カルシニューリンに関する研究
(1)Ca2+シグナルによる細胞周期制御機構及び生理機能
(2)酵母におけるS-アデノシルメチオンの遺伝子発現制御機構
(3)AP-1様転写因子Yap1 による細胞周期進行制御機構
(4)CNと浸透圧応答経路の拮抗作用による増殖制御

 2.薬剤スクリーニングと作用機構に関する研究
(1)Ca2+シグナル伝達に作用する物質のスクリーニング
(2)curvularol作用標的の同定3.多剤耐性ABCトランスポーターPdr5の機能解析

 平成20年度:
 各研究員が各自の研究を展開。シンポジウム(1回)とセミナー(3回程度)を開催,研究者間の交流の場をつくる。ホームページ作成・情報発信。

 平成21年度:
 各研究員が各自の研究を展開。シンポジウム(1回)とセミナー(3回程度)を開催,研究者間の共同研究の可能性を検討。情報発信。

 平成22年度:
 各研究員が各自の研究を展開。シンポジウム(1回)とセミナー(3回程度)を開催,研究者間の共同研究を推進。情報発信。

主な事業活動

1. カルシニューリン生理機能の解明酵母カルシニューリンの重要な機能を次のように明らかにした。
① 塩ストレス時の細胞内のイオンホメオスタシス維持に必要である。
② カルシニューリンはMAPキナーゼ経路と協調しつつG2期における細胞周期制御に関与し、この機構にGSK3ファミリープロテインキナーゼMck1が関与している(図1)。
③ カルシニューリンは、浸透圧応答(HOG)経路に拮抗して増殖を制御し、カルシニューリンは出芽前のアクチン細胞骨格の極性化を阻害し、HOG経路は芽の形成を促進する。

2. Ca2+経路に作用する生理活性物質の高効率スクリーニング法の開発1.で明らかにした機構を利用し、この経路に作用する生理活性物質の高効率スクリーニ ング法を開発した。酵母(Dzds1株)は、高濃度Ca2+を含む培地においてCa2+経路の高活性化により増殖を停止する。このことを利用して、 Ca2+シグナルを抑制する物質を増殖停止細胞に対する「増殖回復物質」 として“ポジティブスクリーニング”する方法を開発した(図2)。

3. 薬剤作用標的の同定多くの薬剤で作用標的たんぱく質が明らかにされたが、薬剤と分子標的の関係は酵母からヒトに至るまで保存されていることが多い。新規薬 剤の作用標的分子を決定することは作用機構解明のうえで必須であるが、作用標的の同定は一般には容易でない。分子遺伝学的手法により、酵母で標的分子を容 易で確実に決定することができると、動物細胞における薬剤作用機構解明に有力な情報を提供できる。薬剤耐性変異株を取得し、その分子遺伝学的解析により薬 剤の分子標的を容易に同定する方法を考案した。手始めに、作用機構未知のG1期特異的阻害剤リベロマイシンAの作用標的の決定を試みた。リベロマイシンA はイソロイシンtRNA合成酵素阻害剤であることを明らかにした。本法により、理論どおり確実に薬剤作用標的を決定できることを示せた。

Ca2+シグナル伝達経路による細胞周期G2期制御機構(M. Mizunuma et al., Nature, 392, 303-306 (1998)より改変)

Ca2+シグナル伝達経路に作用する薬剤の高効率スクリーニング法の原理図(A. Shitamukai et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 1942-1946 (2000)より)


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