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【研究成果】低線量放射線に対する感受性には個人差があることが判明 ―CT検査などの人体への軽微な影響が評価可能に―

本研究成果のポイント

  • 放射線被ばくや抗がん剤は染色体異常などによる遺伝子変異を誘導し、このことが白血病やがんの原因となると考えられています。しかし、CT検査など低線量放射線被ばくの人体影響がどの程度なのかは明確になっていません。
  • 今回の研究では、低線量放射線被ばくの人体影響を検討するために、CT検査の前後のリンパ球について染色体解析を行いました。その結果、低線量放射線被ばくでは、染色体異常の増加に個人差があることが明らかになりました。
  • 今回の研究成果は、低線量放射線に対する感受性の個人差に基づいた、個別化放射線医療の確立に繋がることが期待されます。

概要

広島大学原爆放射線医科学研究所の時林助教と田代聡教授らの共同研究チームは、CT検査などの低線量放射線被ばくによる染色体異常を解析した結果、低線量放射線被ばくの影響には個人差があることを明らかにしました。

広島、長崎の原爆被爆者についての疫学調査などでは、100 mSv以下の低線量放射線被ばくによる発がんの増加は不明でした。放射線被ばくによる発がんには、染色体異常など染色体DNAの障害が関わっていると考えられています。しかし、染色体異常の解析には非常に高度な技術を要し、さらに低線量放射線被ばくによる軽微な染色体への影響を解析するためには多数の細胞の解析を行う必要があるため、これまで低線量放射線被ばくと染色体異常の関係については不明でした。

今回の研究では、田代教授らのグループが開発した、効率的な染色体解析が可能なPNA-FISH法(注釈、文献1、図1)を用いて、60症例の非がん患者についてCT検査前後でそれぞれ1,000個以上の末梢血リンパ球の染色体解析が行われました。その結果、CT検査による染色体異常数の増加率には、明らかな個人差があることが判明しました。

今回の研究は、CT検査などによる低線量放射線被ばくの人体影響には個人差があることをPNA-FISH法を用いて明らかにしたもので、この成果は、今後、患者ひとりひとりの放射線感受性に適応した放射線診断・治療を行うという新しい医療システムの開発に繋がることが期待されます。

この研究成果は、米国放射線生物学専門誌「Radiation Research」に掲載されました。

2018年10月9日、本件について、広島大学霞キャンパスにおいて記者説明会を行いました。

用語解説

PNA-FISH法:染色体には、細胞分裂で2つの娘細胞に別れるときにそれぞれの娘細胞を細胞核側に引っ張るための紡錘糸が付着するセントロメアと呼ばれる部分が一ヶ所と、特殊なDNA繰返し配列で形成される染色体の両端(テロメア)が存在します。放射線被ばくを受けると、通常1本の染色体に1ヶ所しかないはずセントロメアが2つある二動原体染色体やリングのようになった環状染色体などの染色体異常が形成されます。PNA-FISH法は、蛍光色素で別々の色で標識したセントロメアとテロメアに特異的に結合するPNAプローブを染色体に結合させることで、染色体の動原体(セントロメア)と末端(テロメア)をそれぞれ別の色のシグナルとして検出し、放射線被ばくによる異常染色体の検出を効率的に行うことができる染色体解析方法です。田代教授らのチームが開発し、2012年に論文発表しました。

図1 PNA-FISH法による染色体解析

説明を行う田代教授と時助教

論文情報

  • 掲載雑誌:Radiation Research
  • 論文題目:Chromosomal Abnormalities in Human Lymphocytes after Computed Tomography Scan Procedure
  • 著者:Lin Shi,a Kurumi Fujioka,b Nami Sakurai-Ozato,a Wataru Fukumoto,c Kenichi Satoh,d Jiying Sun,a Akinori Awazu,e,f Kimio Tanaka,a Mari Ishida,g Takafumi Ishida,h Yukiko Nakano,i Yasuki Kihara,i C. Nelson Hayes,j Hiroshi Aikata,j Kazuaki Chayama,j Takashi Ito,k Kazuo Awai,c Satoshi Tashiro a,f,1
    a広島大学・原爆放射線医科学研究所・細胞修復制御研究分野
    b広島大学・原爆放射線医科学研究所・分子発がん研究分野
    c広島大学病院・放射線診断科
    d広島大学・原爆放射線医科学研究所・計量生物研究分野
    e広島大学大学院・理学系研究科数理生命専攻
    f広島大学・核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点
    g広島大学大学院医歯薬保健学研究科・心臓血管生理医学
    h福島県立医科大学・循環器内科学
    i広島大学大学院医歯薬保健学研究科・循環器内科学
    j広島大学大学院医歯薬保健学研究科・消化器・代謝内科学
    k長崎大学・医学部・生化学
    1: 責任著者
  • https://doi.org/10.1667/RR14976.1
【お問い合わせ先】

広島大学原爆放射線医科学研究所細胞修復制御研究分野
教授 田代 聡

TEL: 082-257-5818
FAX: 082-256-7104
E-mail: ktashiro*hiroshima-u.ac.jp (*を半角@に変換してください)


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