メールマガジン No.9(2006年3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.9(2006年3月号)
2006/3/10 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.文学部優秀卒業論文発表会
2.今月のコラム(文学研究科 河原 俊雄 教授)
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より

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【1.文学部「平成17年度優秀卒論発表会」】

 2006年2月21日(火)13:00から、広島大学文学部大講義室(リテラ)におきまして、文学部の「平成17年度優秀卒業論文発表会」が開催されました(司会は松本陽正教務委員長)。いずれも各研究室選りすぐりの卒業論文だけに、発表だけでなく議論も盛り上がり、あっという間に時間が過ぎま
した。
 今回はその中から2本の卒業論文の要旨を本人に紹介していただき、指導教員からも一言添えていただきました。

◇「中上健次研究─《路地》に表れる《物語》─」
日本文学語学分野4年   八木 裕子

 今回私が卒業論文「中上健次研究─《路地》に表れる《物語》─」で対象としたのは、『千年の愉楽』と『奇蹟』の二作品です。この二作には、意図的に作り出された一種の異界である《路地》を舞台に、「浄らかで澱んだ血」を持つ「中本の一統の若衆」たちの生死が描かれます。論文では、《路地》という場所から各登場人物へ、登場人物から小説の構造へと論点を移しつつ、作家・中上健次の創作意図を探りました。
 中上はしばしば物語作家であると言われます。私は、この小説における物語とは、声に出して語ることによって生死や浄不浄、差別被差別などの対立概念を流転させ、語られる対象に救済を与えるものだと分析しました。そして作者はこの二作で、物語を求める人々を描いた小説を著したのだと述べて、論文を終えました。
 論文執筆にあたり、己の力量不足を痛感することが多々ありましたが、最後には、私なりの結論が導き出せたのではないかと思います。また、今後は彼の著作が好きな一人の読者として、今回やり残した課題を少しずつ考えていきたいと思っています。

〔指導教員コメント(有元 伸子 教授)〕
 「骨太な卒業論文」
  八木さんの論文は、個々の分析も優れていますが、それらを重層的に積み上げながら結論へと収斂していく考察過程が見事です。並の力量でできることではなく、読みながら、教師が学生の才能に嫉妬してしまうという嬉しい体験をしました。

◇「中国地方におけるローカルスーパーチェーンの立地戦略と存立基盤」
地理学分野4年 白井 康介

 私は街角で、ジャスコやイズミなどのチェーンストアを見つけると、「なぜここに店舗を置いているのか」を考えてしまいます。卒論においては、この「なぜ」に対する答えを、ローカルスーパーチェーンを対象に具体的に考えることにしました。方法としてはまず、岡山、広島、山口の三県に約900あるスーパー全店のデータベースを作りました。さらにローカルスーパーチェーン各社の立地戦略について、各社の人事部や総務部の方々に聞き取り調査を行い、現場の声を聞くことで学んでいきました。最終的に、この聞き取り調査で得られた知識と、データの解析を基に、次の結論に至りました。第1は,ローカルスーパーチェーンは店舗分布の違い、年間売上の違いから4つのタイプに分けることができ、この4タイプは各々違う立地戦略をとっていることです。第2はローカルスーパーチェーンの存立に関わるもので、食料品スーパーに特化し高密度に出店していくことと(ドミナント形成)、地域のニーズに則した業態を開発し、既存店をリニューアルしていくことです。

 〔指導教員コメント(友澤 和夫 助教授)〕
 小売業界は近年競争が激化していますが、その中で規模の小さいローカルチェーンはどのようにして生き残りを図っているのか、白井君の卒論は地理学的な観点からその答えを提示するのに成功しています。身近な事象に対する問題意識を発展させた卒業論文であり高く評価できます。

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【2.今月のコラム】

「農こそ我が命」
表象文化学講座教授 河原 俊雄(ドイツ文学語学)

 大学院生の頃、学問そっちのけで畑に夢中だった。
 「雑草をはやさなければいい。」 これだけの条件で、小学校のプールぐらいの広さの畑を無償で貸してもらった。東京近郊の農地。おばあさんが亡くなったので、耕し手がいなかった。 近くの園芸店で苗や種を買いまくった。ナス、キュウリ、トマト、にんじん、シソ、パセリ...。ともかく生まれて初めて自分の手で野菜が作れる。燃えに燃えた。
 初めて手にしたピカピカのクワで地面に一発打ち込んだ瞬間の快感。今でも覚えている。トルストイの『アンナ・カレーニナ』のレーヴィンと自分がぴたり重なった。この人物は、都会の虚無的な生活を捨て、農業に打ち込むことで自分を取り戻そうとした人物だ。
 しかし、失敗の連続。隣の畑でたわわに実るキュウリやナスやトマト。それなのに自分の畑では何一つまともに実らない。かろうじて、形のぶさいくなトマトが実をつけた。捨てることもできずにそれを口にした時。その濃厚な香りと甘さに驚いた。
 それからずっと小規模ながら野菜を作り続けている。少しは野菜のこともわかり始め、何とか形になるものも出来るようになった。あいかわらず形は揃わない。でも、確実にうまい。露地栽培の小松菜など、頬擦りしたいほどに甘い。
 体にも心にもたっぷり栄養がある気がする。
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【3.文学研究科(文学部)ニュース】

*リテラ友の会 会員様限定 プレゼントのお知らせ!

『人文学へのいざない』をさしあげます。
この度、文学研究科では『人文学へのいざない』を刊行いたしました。学部学生、大学院生の皆さんに学問の面白さを知ってもらおうと、全教員(助教授、教授)がエッセイを執筆しております。リテラ友の会の会員に限って無料で謹呈いたしますので、希望される方は切手210円分を貼った返信用封筒(角形2号)を同封の上、郵送で下記までお申し込みください。

【あて先住所】
  〒739-8522 東広島市鏡山1丁目2番3号
   広島大学大学院文学研究科 部局長支援室
               「人文学へのいざない」担当 宛

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【4.広報・社会連携委員会より 岡 元司】
 今回は、上記のように会員様限定プレゼントがございます。論文・著書やウェブサイトからは伝わらない、各教員の「素顔」を知っていただけるのではないかと思います。市販されておりませんので、ぜひこの機会にお申し込みください。
 さて、春は別れの季節。東広島市内のあちこちの下宿では、既に引っ越しもかなり進んでいると思います。「机 本箱 運び出された荷物のあとは畳の色がそこだけ若いわ」と歌ったキャンディーズの「微笑返し」という曲をご存じのかたは、どのお年頃で聴かれましたか?ちなみにこの曲は1978年(昭和53年)春の曲。私は中学3年の卒業間近の頃だったと思います。今回の卒論発表会に出場されたみなさんは、もちろんこの時にはまだまだ生まれていらっしゃらなかった計算になります。 

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リテラ友の会・メールマガジン
オーナー:広島大学大学院文学研究科長 岸田裕之
編集長:広報・社会連携委員長 岡橋秀典
発行:広報・社会連携委員会
 
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広島大学大学院文学研究科 部局長支援室
電話     (082)424-6604
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