第48回 付加価値

 満開の桜が、志をもった新入生を迎え、夢を実現していく努力が実り、幸多きことを予め祝っているかのようで、心弾む時です。

 新入生を迎えて教壇に立つ時には大いなる期待と一抹の不安があります。昨年度から新カリキュラムが全学年で一気に移行・実施されましたが、さらなるブラッシュアップの必要は強く感じられ、授業を行いつつ同時並行的に当初の教育プランに手を加えても、不十分さを拭い切れませんでした。
 
 今年度の授業計画では、昨年度の授業をリアルに追体験的に喚起して振り返り、学年進行による積み上げ教育のポリシーに照らしたうえで、授業スタイルを充実・改善する工夫を練ります。この工夫が、新入生にどう受け止められ、その学修にいかなる影響を与えられるかを考えるのは楽しい瞬間です。
 
 毎春、新年度を迎え、新たな息吹にあふれる中で、授業等で感じ取ったことを活かして、授業や指導の質を向上させるために、隣接科学を含めた知見をどれだけ集め、自らの体験を通じて血の通った方法に仕上げていくことができるのか、また、その方法が目の前にいる受講生一人一人に教育成果をもたらし自信を持たせることができるのかを考えて、つかみどころのない不安感に襲われることもあります。
 
 いろいろな場を学びの機会として捉えたうえで、その中に飛び込んで行くことは、楽しさに心躍らせるともに、厳しさに戦慄を憶えることもあるのです。それでも学びの場に身を置きつづけることで、学びの技量が上がり、そして教える技量も洗練されていくのだと信じて、前を向き、微笑んでいてこそ、その努力が実を結ぶと思います。
 
 本研究科は、神戸大学法科大学院の協力支援を受けた教育改革の真っただ中です。教育の質をより一層向上させるために、授業の改善、学修フォローの充実及び個別のコーチングを三位一体とした教育プログラムを確立しようとしています。そのプログラムでは、法曹として必要とされる基本的な能力と作法を、繰り返し実践させることにより、個々の学生が自ら修得でき鍛えられるようになることが最も重要な教育目標です。このトレーニングのなかで必要な知識を獲得し使える状態で定着することを学ばせていきます。

 これが長期的な目標を達成するために、短期的な目的あるいはその前提となる目的をクリアするのに与えられた時間を有効に活用し成果を得る努力のオリエンテーション(方向付け)でしょう。加えて、その努力を実行する勇気を持つこと、それを継続する信念を築くことが必要です。学びとしてはこれらに尽きるのではないかと考えています。
 
 釈尊の説法に「命終の一念」があります。お弟子さんが、釈尊が説かれる法に従い、行をしても、仏陀になれるような気がしません。そのため、来世が気になって仕方がありません。釈尊は死に際の一念が来世を決めると説法されていました。お弟子さんは、病気で苦しんでいる、あるいは災難で命を落とすなど、死に際の自分がどのような状態にあるかもわかりませんから、その時に自分の心が仏界に向くか、三悪趣(地獄界、餓鬼界、畜生界)に入らないか、大変不安です。なおさら心配が募ります。そのお弟子さんはこの不安から釈尊に自分の来世を伺ったところ、釈尊は、「木が西に向かって日々枝を伸ばしていれば幹も西に傾き、木が倒れるときを迎えても西に向かって倒れるでしょう。これと同じく、日々仏陀の法や教えに心を向けていれば、命終の際にも仏陀に心が向き、それによって来世でも仏陀との縁が生じるであろう」と話され、お弟子さんは安心して修行に励んだそうです。
 
 日々の努力を怠らず、確かな意識づけをもって行っていれば、いざという時にその方向に自らを導いてくれるということであろうと思います。
 
 次回は「直情径行」です。


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