第59回 新入生の皆さんへ

 新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。

 皆さんの法曹への道を歩み始めるのと同じく、本法科大学院も大学院人間社会科学研究科実務法学専攻としての新たなスタートです。大いなる期待に満ちた船出となることを望んでいましたが、新型コロナウイルス感染拡大により、かつてない新年度を迎えることとなりました。

 しかし、人と人との接触を限りなく低減させる感染症予防対策が実施される緊急事態にあっても、現代の通信技術の飛躍的進歩のお陰で、コミュニケーションツールを介して授業を行うことにより、皆さんの多才な(潜在的)能力を開花させる学びの場が提供できることは実に喜ばしいことです。

 教える側も教わる側も、講義室にて対面で行うのとは勝手が違って、いろいろ戸惑うこともあるでしょう。皆さんも、テレビを見ているような感覚に陥り、ついつい観衆となって第三者的立場で見てしまいがちです。

 学修環境の違いのなかから充実した学びを得るために、能動的かつ積極的に学習を工夫してください。勉強はその言葉の通りに「勉めて強いる」ものですので、楽しんでばかりというわけにはいきません。悩み苦しむことも必要です。
 
 講義室で多数の中の一人として授業を受けるのではなく、画面を通じて一人で学ぶという、これまでにあまり経験のない状況のゆえに、学修上どう悩みいかに苦しむかと向き合い考えることができます。これは学びによる向上のチャンスだと思います。

 もちろん、皆さんがワンランク上に行くために壁を打ち破ることを、教職員皆喜んでサポートいたします。独りで抱え込まずに相談してください。

 新型コロナウイルス感染拡大状況はすべての人にとって同じリスクを負わせるものですから、そこでいかなる行動を取るかが問われます。新聞への投稿で目を引いたものに、アイスランドとともに感染拡大防止に成功したモデルとされる台湾は、その国際的立場にかかわらず、そのノウハウを提供し、対立国に対して物的支援も行っているそうです。

 また、ダライラマ法王は、この感染が始まった当初から、迫害を加えた国を含め、あらゆる人々(「brothers and sisters」と表記されます)のために祈りを捧げつづけており、なお祈りを集めなければならないとメッセージを発しています。

 これらの支援や祈りは「Integrity(高潔さ)」ある行為として西欧では最も尊崇されると聞きます。あらゆる人を愛おしむ心と行動は人を高めます。皆さんは多くの人と出会います。それは自分自身を高めるため、その人の持つ長所を学ぶ機会を得ているといえるでしょう。お互いにお互いの徳を学び合うのです。

 皆さんが本専攻において過ごす日々がそのような学びの場となることを願っています。

 遅ればせながら、御入学をお祝いする言葉といたします。


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