広島大学大学院医系科学研究科
教授 宮内 睦美
Tel:082-257-5632
E-mail:mmiya*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
関節リウマチ(RA)は、持続的な炎症と滑膜線維芽細胞の増生により、関節軟骨や骨の不可逆的な破壊と変形をもたらす自己免疫疾患です。
また、ラクトフェリン(LF)は、安全性の高い天然物質で、抗炎症作用、免疫調節作用、抗腫瘍作用などの多彩な作用があります。
広島大学大学院医系科学研究科口腔顎顔面病理病態学研究室 宮内睦美教授、髙田 隆名誉教授を中心とした研究チームは、これまでに、LbLFの経口投与がTNF-α産生の阻害を通じて、細菌のリポ多糖(LPS)(注6)刺激によって誘導される歯槽骨の吸収を有意に減少させることを明らかにしてきました。
今回、同研究チームは、歯周病と同様に炎症による骨破壊を特徴とするRAにもbLFが有効であると考え、SKGマウス(RAモデルマウス)(注7)を用いて、RAの病態進行に対するLbLF経口投与の効果を検証し、RAモデルマウスの関節の腫脹と骨破壊を著しく軽減することを証明しました。また、bLFの抑制効果のメカニズムは、bLFとTRAF2の結合を介した滑膜線維芽細胞のTNF-α産生抑制、破骨細胞(注8)形成の間接的/直接的抑制、Th17細胞(注9)と制御性T細胞(注10)バランスの改善作用であることが明らかとなりました。RA患者がサプリメントとしてbLFを摂取することにより、RAの進行抑制に有益な影響を与える可能性が示唆されました。
本研究成果は、米国東部標準時間の2月11日14時(日本時間:2月 12日4時)「PLoS One」に掲載されました。
(注1)
リポソーム化
リン脂質でできた多重層膜のカプセル内に成分を内包し、消化液の影響や酸化から内包された成分を保護する技術。デリバリーシステム。
(注2)
ウシラクトフェリン(bLF)
ラクトフェリンは、カゼインに次ぐミルクタンパク質の成分で、安全性の高い天然物としてさまざまな食品に添加され、栄養補助食品として使用されている。抗炎症作用、免疫調節作用、抗腫瘍作用などの多彩な作用が報告されている。近年、COVID-19の感染予防効果があることが報告され、着目されている。
(注3)
腫瘍壊死因子(TNF-α)
関節リュウマチの病巣で免疫細胞から産生されるサイトカインで、関節の腫れや痛み、関節破壊をおこすだけでなく、他の炎症をおこす物質(炎症性サイトカイン)を作らせて関節リウマチを悪化させる。TNF阻害剤はRAの治療薬として用いられている。
(注4)
滑膜線維芽細胞
関節を包む滑膜と呼ばれる結合組織性の膜を構成している細胞。関節に炎症が続くと、滑膜線維芽細胞が異常に増生し、TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生し、関節の軟骨や骨を破壊し、関節リウマチの発症と進展に関与するようになる。
(注5)
アダプタータンパク質・ユビキチンリガーゼ2(TRAF2)
腫瘍壊死因子受容体(TNFR)からのシグナルの伝達の活性化に関与する酵素である。
TNF-α刺激による細胞の反応には必要不可欠で、TRAF2活性抑制は関節リウマチの治療として有効と考えられる。
(注6)
リポ多糖(LPS)
グラム陰性細菌外膜の主要な構成成分で、主な為害成分の1つ。
(注7)
SKGマウス(RAモデルマウス)
ヒト関節リウマチと免疫病理学的に酷似した自己免疫性関節炎を自然発症することが知られ、ヒト関節リウマチの動物モデルとして多用されている。
(注8)
破骨細胞
骨のリモデリングや骨破壊性疾患において、骨破壊に関わる重要な細胞。
(注9)
Th17細胞
自己免疫疾患である関節リウマチの発症/進展に関与するTヘルパー細胞サブセットで、炎症性サイトカインであるIL-17を産生する。関節リウマチ組織で増加している。
(注10)
制御性T細胞
免疫応答を負に制御するT細胞サブセットであり、過剰な免疫応答や自己免疫の抑制に必要な細胞。
広島大学大学院医系科学研究科
教授 宮内 睦美
Tel:082-257-5632
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(注: *は半角@に置き換えてください)
掲載日 : 2022年03月11日
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