大学院医系科学研究科 分子細胞情報学 上川 泰直
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広島大学大学院医系科学研究科分子細胞情報学 上川 泰直 助教、今泉 和則 教授らの研究グループは、核膜の損傷修復に関わる新たなメカニズムを発見しました。様々なタイプの細胞を物理的ストレスに曝し核膜損傷を誘導した結果、細胞増殖を抑制するタンパク質p21の発現量が低く、増殖の盛んな細胞では核膜の損傷がDNA損傷や細胞死の引き金となることが分かりました。さらに、p21の量を操作することで、核膜の損傷により誘導されるDNA損傷や細胞死を制御することにも成功しました。本研究の成果は、核膜の機能障害により発症する核膜病や、核膜損傷との関連が知られるがんの新しい治療法の開発に繋がると期待されます。
本研究成果は日本時間7月8日(土)に、英国Nature Publishing Groupのオンライン誌「Cell Death Discovery」に公開されました。
遺伝情報を担うDNAは核膜と呼ばれる二つの脂質二重膜により核内に収納され、保護されています(図1)。近年、核膜が頻繁に損傷と修復を繰り返すこと、核膜の損傷がDNA損傷や細胞死を引き起こすことが明らかとなっています。この様な障害は、致死性の早老症であるハッチンソン・ギルフォード症候群や筋ジストロフィーの一種であるエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーに代表される核膜病に加え、固形がんなど、様々な疾患に関与するがことが報告されています(図2)。特に核膜病では特定の組織に強く症状が見られることから、細胞のタイプにより核膜損傷による影響に違いがあると考えられていましたが、なぜそのような違いが生じるのかは分かっていませんでした。
様々なタイプの細胞において人工的に核膜を損傷させ、その影響を比較しました。その結果、脳腫瘍の一種・膠芽腫に由来する細胞の一部では、核膜損傷によりDNA損傷と細胞死が誘導されることが分かりました。一方で、同じ膠芽腫に由来する細胞でも、細胞増殖を抑制するp21の発現が高く、増殖の遅い細胞ではこのような障害は観察されませんでした。さらに、p21の発現量を減少させると損傷に対する感受性が昂進し、逆にp21発現量を増大させると感受性が低下することも分かりました。また、核膜損傷に対して感受性の高い細胞の一部では、核膜の損傷修復に異常を来たすことも突き止めました。
現在までに、核膜病の根治的な治療法は存在しません。本研究の結果から、p21という一種類のタンパク質の発現量を操作することで核膜損傷によるDNA損傷や細胞死を制御できることが証明されました。今後、核膜の修復メカニズムの解明が進み、p21やその他の核膜修復の鍵となる分子の量・機能を改善することが可能となれば、核膜修復の促進による核膜病の新規治療法の開発に繋がると期待されます。逆に、核膜修復を阻害することで細胞死を誘導し抗腫瘍効果が得られると予想されます。本研究で用いた膠芽腫は、難治性で有効な治療法が確立されておらず、核膜修復を阻害する方法の確立が新規治療法開発に貢献すると期待されます。
図1. 核膜の基本構造
核膜は外膜と内膜の二つの脂質二重膜から成り、核膜孔、核ラミナ、LINC複合体などにより構成される。
表1. 代表的な核膜病
図2. 核膜損傷の修復操作によるDNA損傷と細胞死の制御
左, 核膜の損傷が修復されず、DNA損傷と細胞死が昂進した状態.
中央, p21の発現量が高いと損傷が効率よく修復される。
右, 核膜が修復されることでDNA損傷と細胞死が抑制される。
論文タイトル
Impact of Cell Cycle on Repair of Ruptured Nuclear Envelope and Sensitivity to Nuclear Envelope Stress in Glioblastoma
著者
Yasunao Kamikawa1,*, Zuqian Wu1, Nayuta Nakazawa1, Taichi Ito1, Atsushi Saito1, Kazunori Imaizumi1,*
1:広島大学 大学院医系科学研究科
*:Corresponding Authors
掲載雑誌
Cell Death Discovery
DOI番号:10.1038/s41420-023-01534-7
大学院医系科学研究科 分子細胞情報学 上川 泰直
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掲載日 : 2023年07月11日
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