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【研究成果】ミャンマーにおけるC型肝炎ウイルス(HCV)の有病率をシステマティックレビューとメタ解析によって明らかにしました

本研究成果のポイント

  • システマティックレビューとメタ解析(※1)により、ミャンマーにおけるC 型肝炎ウイルス(HCV)の有病率および遺伝子型(※2)の分布を総合的に評価しました。研究対象者を低リスク群、高リスク群、肝疾患患者群、難民群の4 群に分類し、それぞれのHCV抗体陽性率・HCV RNA陽性率を明らかにしました。
  • 本研究の成果は、ミャンマーにおける今後のHCV対策に向けた重要な疫学的基礎資料として活用されることが期待されます。

概要

  • 広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 Zayar Phyo(ゼイヤー ピョウ)氏(博士課程後期)、KoKo(ココ)助教、杉山文講師、田中純子特任教授らの研究グループは、ミャンマーにおけるHCV感染の現状を明らかにするため、既存の疫学研究を対象にシステマティックレビューとメタ解析を実施しました。
  • 分析の結果、低リスク群、高リスク群、肝疾患患者群、難民群のそれぞれにおけるHCV抗体(※3)およびHCVRNA(※4)陽性率が明らかになりました。本研究は広島大学肝炎・肝がん対策プロジェクト研究センターおよびJSPS 研究拠点形成事業B.アジア・アフリカ学術基盤研究(課題番号JPJSCCB20210010, JPJSCCB20240009)の支援を受けて実施されました。
  • 本研究成果は、「PLoS One」誌に掲載されました (2024年9月19日)。

論文情報

  • 掲載誌: PLoS One (Q1. IF2.9)
  • 論文タイトル: Intermediate hepatitis C virus (HCV) endemicity and its genotype distribution in Myanmar: A systematic review and meta-analysis
  • 著者名: Zayar Phyo1,2, Ko Ko1,2, Serge Ouoba1,2,3, Aya Sugiyama1,2, Ulugbek Khudayberdievich Mirzaev1,2,4, Golda Ataa Akuffo1,2, Chanroth Chhoung1,2, Tomoyuki Akita1,2, Junko Tanaka1,2*
    1. 広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
    2. 広島大学肝炎・肝がん対策プロジェクト研究センター
    3. Unité de Recherche Clinique de Nanoro (URCN), Institut de Recherche en Science de la Santé (IRSS), Nanoro, Burkina Faso
    4. Department of Hepatology, Scientific Research Institute of Virology, Tashkent, Uzbekistan
    * 責任著者
  • DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0307872

背景

  • C型肝炎ウイルス(HCV)は血液を介して人から人へ感染するウイルスで、世界中で約5800万人が感染している重要な健康問題です。世界保健機関(WHO)は2030 年までにHCVを排除する目標を掲げていますが、各国はその達成に向けて、国全体の疾病負担を把握した上で効果的な対策を構築する必要があります。ミャンマーにおけるHCV感染は、医療機器や薬物乱用者による注射針の共用などによって広がっており、これまで複数の疫学研究が行われてきたものの、全国的な感染状況に関する包括的なデータは存在していませんでした。

研究成果の内容

  • 本研究では、ミャンマーにおけるHCV感染状況を明らかにするために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施しました。
  • 具体的には、複数の学術データベースから適格性を審査し、抽出した135件の研究報告の中から、以下の研究報告が示す結果を統合しました。
    HCV抗体有病率に関する33件の研究報告(対象者数合計685,403人)
    HCVRNA 有病率に関する8件の研究報告(対象者数合計25,018人)
    HCV遺伝子型に関する10件の研究報告(対象者数合計1,845人)
  • その結果、HCV抗体陽性率は低リスク群(一般集団、献血者)で2.18%、高リスク群(薬物乱用者、HIV感染者、輸血経験者、透析患者)で37.07%、肝疾患患者群で33.84%、難民群で2.52%でした。また、HCV RNA 陽性率はそれぞれ1.40%、5.25%、24.96%、および0.84%でした。WHOの基準に基づくと、ミャンマーにおける低リスク群のHCV感染率は中等度と評価されます。さらに、HCV遺伝子型の分布は全ての集団で類似した傾向を示し、3型が最も多く、次いで1 または6型が高頻度で見られました。3型は他の型と比べ予後が悪いことが知られています。

今後の展開

2021 年の軍事クーデター以降、ミャンマーでは多くの保健医療政策が中断され、HCV 対策にも深刻な影響を与えています。今回のシステマティックレビューでは、政変以前のミャンマーにおけるHCV感染状況を包括的に示しましたが、政変以降の研究報告が見つからなかったため、政変後のHCV 感染の現状を把握するためには新たな疫学調査が必要です。

用語解説

(※1)システマティックレビューおよびメタ解析
多くの研究結果を集めて体系的に評価する方法で、システマティックレビューは文献を網羅的に調べ、メタ解析はその結果を統計的にまとめて分析します。

(※2)HCV遺伝子型(HCVジェノタイプ)C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子配列に基づいて分類された異なるグループのことを示します。HCVは多様性が高く、少なくとも6 つの主要な遺伝子型(1 型から6 型)が存在し、それぞれがさらにサブタイプに分かれています。遺伝子型はウイルスの伝播、病気の進行、治療の効果に影響を与えるため、感染の管理や治療計画において重要な役割を果たします。

(※3)HCV抗体
HCV抗体とは、C型肝炎ウイルス(HCV)に対する免疫応答の一環として、体内で生成されるタンパク質のことです。HCVに感染すると、免疫系はウイルスを攻撃するために抗体を産生します。HCV抗体の存在は、感染の指標として用いられ、血液検査により検出されます。一般に、HCV抗体が検出されることは過去または現在のHCV感染を示すものですが、ウイルスが体内に存在するかどうかは、HCV RNA検査で確認する必要があります。

(※4)HCV RNA
HCV RNAとは、C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子情報を含むリボ核酸のことです。HCVが体内に存在する場合、ウイルスは細胞内で増殖し、HCV RNAが生成されます。HCV RNAの検出は、ウイルスの活動状態を示し、感染の有無やウイルス量を測定するために用いられます。この検査は、治療の効果を評価する際にも重要です。HCV RNAが陽性であれば、現在の感染を示し、治療を通じてウイルスの量が減少しているかどうかをモニタリングすることが可能です。

【お問い合わせ先】

広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
Tel:082-257-5162 FAX:082-257-5164
E-mail:eidcp@hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください。)


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