放射線被ばく
●外部被ばくからの防御法は?
●内部被ばくとは?
●放射線はどのような測定器で測定されるのですか?
放射線の測定にはいくつか方法があります。原理的には、放射線の物理的性質を利用して測定します。例えば、放射線のイオン化能を利用した測定方法(GMサーベイメータ、電離箱式サーベイメータ、半導体サーベイメータや測定機)や放射線の蛍光励起能を利用した測定方法(シンチレーション・サーベイメータや測定機)、です。放射性核種から放出されるβ線やガンマ線は、核種毎に特徴的なエネルギー・スペクトルを持っています。放射線のエネルギー・スペクトルを解析すると、どのような放射性核種があるのかを知ることができます。測定機の種類によっては、リアルタイムで放射線のエネルギーを測定する機器もあれば、特殊な物質に蓄積された放射線のエネルギーを後から読み出す機器もあります。
●事故の場合には、どのように放射線や放射能を測定するですか?
●自分が汚染されたかどうかはどのようなすれば分かるですか?
●肺モニターとは何ですか?ホールボディカウンターとは何ですか?
●放射線が人間に与える短期的、長期的な影響はどのようなものがありますか?
10Gy以上の大量の放射線に短時間で全身被ばくすると、直後から吐き気、嘔吐、下痢、脱力、発熱、皮膚紅班、浮腫などの症状が出現し、呼吸不全や循環不全のため数日以内に死亡することがあります。6-10Gyの放射線に短時間で全身被ばくする場合には、吐き気、嘔吐、下痢、脱力、発熱、皮膚紅班、浮腫などの前駆症状が消退した後に、7-10日前後より、水溶性下痢、発熱、白血球減少、出血傾向が顕れ、治療が上手くいかないと2-3週頃危機的な状況となります。1-6Gyの全身急性被ばくの場合は、治療により回復する可能性が高い。局所に高線量の被ばくがある場合には、2-3週頃より一時的な脱毛や熱傷様の皮膚症状が現れます。生殖腺が被ばくすると、精子減少症や不妊、早期閉経などの症状が現れます。急性の症状を引き起こさないほどの放射線被ばくであっても、癌や白血病に罹患する可能性が増加します。しかし、50mSv以下の線量でも癌のリスクが有意に増加するのかどうか、未だ判っていません。妊娠8-25週に0.1Gy以上の胎内で被ばくした子供達では身体奇形やさまざまな病気、精神遅滞などの先天性異常が生じたりする可能性を上昇させます。
●大人と子供では、どちらが被ばくの影響が多いですか?
●環境中に放射性物質が放出されている時に、住民はどのような予防措置を取るべきなのでしょうか?
●放射線被ばくに関する基準は?
●放射線はどのようにして人を傷つけるのですか?
●放射線はどれだけの量で癌を引き起こすのですか?
どれだけの量の放射線で癌が引き起こされるのかは分かっていませんが、癌のリスクは吸収線量に比例して増加します。原爆被爆者の調査では、被爆後60年経ってからも被爆による過剰な癌発生が認められております。10歳の男児(女児)が100mSv被ばくすると、生涯の癌リスクが被ばくしない場合の30% (20%)から32.1% (22,2%)に増加すると推定されます。しかし、人は自然環境で様々な線源からの放射線に毎日被ばくしていることを覚えておくことが重要です。身体に吸収される放射線の量はシーベルト(Sv)やミリシーベルト(1 mSv、1シーベルトの千分の1)と呼ばれる単位で表します。食品中の放射性カリ、ラドンガス、大気圏外空間、岩石や土壌からの自然放射線に被ばくし、日本人は年間に平均で2.1 mSvの放射線に被ばくしています。
●医師は患者の被ばく線量をどのようにして調べるのですか?
患者の被ばく線量は、生物学的線量推定法を用いて検査できます。被ばく後の末梢血液中のリンパ球の減少カーブや好中球や血小板の減少カーブは、大凡の被ばく線量を知る上で参考になります。より正確には、リンパ球を培養して染色体の異常頻度を測定したり、歯のESRシグナル(電子スピン共鳴)の大きさを測定して被ばく線量を調べます。ESR法による線量測定は、現在、抜歯した歯でしか測定できませんが、米国では歯を抜かないでも測定可能な装置の開発が行なわれており、将来は国内でも利用可能になると期待されます。また、放射性物質が体内や体表にあるかどうかも調査できます。これらの方法を用いて放射能傷害の最善の治療法を決定します。
●食物を食べたり牛乳や水を飲んだりしても安全ですか?卵や果物、肉、魚、作物はどうですか?
●庭の植物や地域内の農作物は放射性物質により汚染されていますか?
●放射性物質が皮膚に付着した場合、専門家による除染が必要とされる基準は?
現在、国は専門家による除染(放射性物質の除去)が必要とされている基準をガイガーカウンターという放射線を測定する測定器の測定値で40,000cpm(cpm:カウントパーミニッツ、1分当たりのカウント数)としています。
なぜ、この基準以下であれば専門家によるコンサルトが必要でないのかについて説明します。
放射性物質を今問題となっているヨウ素-131が皮膚に付着したと想定します。
ガイガーカウンターの測定値が100,000cpmだとすると、この値は放射線による皮膚障害が発生する量のおよそ4000分の1にしかなりません。皮膚に付着したヨウ素-131は、入浴や皮膚の代謝交換によってほとんど全て除かれると考えられます。例え皮膚に付着したままでも、ヨウ素-131の半減期(放射線の強さが半分になる期間)は8日ですので2ヶ月あまりで1000分の1になります。従って、皮膚への影響はありません。
放射性物質の多くは衣服や手に付着します。衣服に付着している場合には、脱衣のみで十分です。手に付着している場合は、手洗いかウエットテイシューなどで拭き取りましょう。
内部被ばくへの医療介入
●内部被ばくへの医療介入基準は?
体内に入り込んだ放射性物質の量を推定して、積極的に排出させるか否かの判断を行います。核種、その化学系(水溶性、難溶性)、汚染経路(経口、吸入)により異なります。欧米の専門家が提唱しているガイドラインを参考までに示します(*) 預託線量が20mSv以下の軽度の体内汚染の場合は、医療介入は正当化されません。20-200mSvの場合は、患者の状態、介入手技の難易度などを勘案して医療介入を行っても良い。200mSv以上なら、常に医療介入は正当化されます。但し、気管支肺胞洗浄は、手技自体に健康を損なう危険を伴うので、2Sv以上の預託線量がある場合にのみ、正当化されます。
(Bhattacharyya et al: Guidebook for the treatment of accidental internal radionuclide contamination of workers. Radiat. Protect. Dosimet., 41: 1 (1992))
●内部被ばくへの医療介入手技は?
経口的な内部汚染:誤飲後30分前後であれば、胃洗浄を行う。それ以降は、緩下剤、吸着剤(バリウム、ストロンチウム、ラジウムなどの核種に対し、硫酸バリウム100mLあるいはリン酸アルミニュウム・ゲル100mLの一回投与、セシウムに対しプルシアンブルー3-10g/日あるいはケイキサレート30g/日の分割投与)の服用を行う。
吸入的内部汚染:難溶性の放射性物質の場合は、去痰剤を服用。プルトニウムの吸入汚染に対して、30分以内にCa-DTPAあるいはZn-DTPA1アンプルを250mL5%糖液に混入し、点滴投与。ウランの吸入汚染に対し、重炭酸ナトリウム3g/日を分割点滴投与。
放射性ヨウ素の経口あるいは吸入汚染:安定ヨウ素剤を6時間以内に服用。 (年齢毎の投与量はこちらを参照)
気管支肺胞洗浄:難溶性の酸化プルトニウムなどの吸入汚染の症例で、預託線量が2Svを超す場合に実施する。吸入後2-3日は、気道の繊毛運動で自然排出が進行する。気管支肺胞洗浄は、自然排出が終了した吸入後5日―7日に分割して実施する。
被ばく患者の搬送、治療
●放射線被ばくした患者を搬送しても大丈夫でしょうか?
外部被ばくを受けたが放射性物質を身体に付着させていない患者(外部被ばく患者)さんは、全く一般の傷病者と同様に搬送します。放射性物質を付着させた患者(汚染を伴なう被ばく患者)さんの場合は、なるべく現場で汚染した衣服を脱がせ、ディスポの帽子をかぶせ、シーツなどで身体をくるみ、放射性物質が散乱しないように注意しながら搬送すれば安全です。また、介護に当たっては不必要に汚染した患者に密着しないようにしましょう。これは、放射性物質からの距離を確保するためです。個人線量計があれば、搬送に際し、介護する者は個人線量計を装着しましょう。どの程度の被ばくがあったかを確認できて、安心です。患者の身体に付着した放射性物質から照射される放射線でおきる被ばくは、多くの場合、胸部レントゲン写真1枚撮影するときに受ける被ばくより軽度です。
●病院には汚染された患者をサーベイランス(注1)するスタッフがいますか?
●病院のスタッフや患者には、放射能汚染された入院・外来患者を治療したり、その近くにいたりすることで、危険がありますか?
これまでの放射線事故で、被ばく患者の治療や介護にあたった医療スタッフが、健康影響を心配するような被ばくを被ったことはありません。不必要な被ばくを避けるために、以下の点に注意してください。
- 放射性物質による汚染を診察室や病室に持ち込まないようにすることが重要です。このために、病院外で着衣を脱がせ、頭髪はディスポの帽子で覆ってください。特に、再処理工場など特殊な施設で発生した放射能汚染事故患者の場合は、アルファ線を放出する放射性物質により汚染している場合があります。アルファ線は、放射線の飛程が短いので、深刻な外部被ばくの心配はなく、アルファ線を放出する放射性物質を吸入しなければ心配ありません。しかし、吸入した場合は、ベータ線やガンマ線を放出する放射性物質より放射毒性が高い(付着部位に集中的に被ばくを与える)ので、より注意が必要です。
- 診療放射線技師に、空間ガンマ線線量率をモニターしてもらい、診察室や病室の室内が安全なレベルか否かを判定してもらってください。
- 放射性の金属破片が刺さっている被ばく患者の場合は、直接金属片を指で摘むことはせず、ピンセットを使いましょう。一般的には、ベータ線・ガンマ線を放出する放射性物質による汚染患者の場合には、病院のスタッフが被る被ばく線量は無視できるレベルです。