放射線被ばくに関するQ&A:回答

放射線被ばく

●外部被ばくとは?

放射線をだす放射性物質や加速器やエックス線発生装置等、これらの線源や装置から照射されたガンマ線やベータ線などにより被ばくする場合を外部被ばくと呼びます。


●外部被ばくからの防御法は?

放射線防護の三原則に則った工夫、即ち、

  1. 放射線に曝される時間を短縮し、
  2. 線源からの距離を保ち、
  3. 線源と身体の間に遮蔽物を設置するなどにより、外部放射線からの被ばくを低減できます。

●内部被ばくとは?

人体内に放射性物質が侵入すると(これを体内汚染とよぶ)、内部被ばくが生じます。体内汚染は、粉塵やガス状の放射性物質を吸い込んだり、放射性物質を固体または液体で摂取したり、切り傷などの外傷から放射性物質が体内に入ったり、トリチウムなどの特殊な放射性元素の場合には皮膚から直接吸収されることで起きたりします。


●放射線はどのような測定器で測定されるのですか?

放射線の測定にはいくつか方法があります。原理的には、放射線の物理的性質を利用して測定します。例えば、放射線のイオン化能を利用した測定方法(GMサーベイメータ、電離箱式サーベイメータ、半導体サーベイメータや測定機)や放射線の蛍光励起能を利用した測定方法(シンチレーション・サーベイメータや測定機)、です。放射性核種から放出されるβ線やガンマ線は、核種毎に特徴的なエネルギー・スペクトルを持っています。放射線のエネルギー・スペクトルを解析すると、どのような放射性核種があるのかを知ることができます。測定機の種類によっては、リアルタイムで放射線のエネルギーを測定する機器もあれば、特殊な物質に蓄積された放射線のエネルギーを後から読み出す機器もあります。


●事故の場合には、どのように放射線や放射能を測定するですか?

  1. 定点モニタリング・ポストや移動モニタリング・チームが直接空気中のガンマ線や中性子線のエネルギーを測定する。飛行機から測定する場合もあります。
  2. 空気中に浮遊する放射性物質をフィルターなどにトラップしてから測定します。
  3. 地表や物質の表面に付着している放射性物質をサーベイメータで測定します。
  4. 水、土壌、植物や農作物のサンプルを収集し、放射能汚染の量を調査します。

●自分が汚染されたかどうかはどのようなすれば分かるですか?

放射性物質が環境中に放出され、有意な汚染被ばくが起きたと思われる場合、地元の自治体は、避難所などで放射能汚染検査所を設置し、住民の汚染検査を行います。サーベイメータを用いて放射性物質による衣服や体表面の汚染を測定できます。内部汚染が疑われる場合には、更にホールボディカウンターによる測定や、尿や便を採取して分析する場合があります。


●肺モニターとは何ですか?ホールボディカウンターとは何ですか?

体内の放射性核種から放出される、透過力のより強いガンマ線の多くは吸収されません。つまり、体内から漏出するのです。ホールボディカウンターは、これらの漏出するガンマ線を計測する方法です。ホールボディカウンターは、身体から漏出するガンマ線全てを計測します。肺モニターの場合、胸壁から漏出するもののみを計測します。強いガンマ線を出さない核種に適しています。ガンマ線のエネルギーをスペクトル分析することにより、体内に存在する特定の放射線核種を突き止めることができます。


●放射線が人間に与える短期的、長期的な影響はどのようなものがありますか?

10Gy以上の大量の放射線に短時間で全身被ばくすると、直後から吐き気、嘔吐、下痢、脱力、発熱、皮膚紅班、浮腫などの症状が出現し、呼吸不全や循環不全のため数日以内に死亡することがあります。6-10Gyの放射線に短時間で全身被ばくする場合には、吐き気、嘔吐、下痢、脱力、発熱、皮膚紅班、浮腫などの前駆症状が消退した後に、7-10日前後より、水溶性下痢、発熱、白血球減少、出血傾向が顕れ、治療が上手くいかないと2-3週頃危機的な状況となります。1-6Gyの全身急性被ばくの場合は、治療により回復する可能性が高い。局所に高線量の被ばくがある場合には、2-3週頃より一時的な脱毛や熱傷様の皮膚症状が現れます。生殖腺が被ばくすると、精子減少症や不妊、早期閉経などの症状が現れます。急性の症状を引き起こさないほどの放射線被ばくであっても、癌や白血病に罹患する可能性が増加します。しかし、50mSv以下の線量でも癌のリスクが有意に増加するのかどうか、未だ判っていません。妊娠8-25週に0.1Gy以上の胎内で被ばくした子供達では身体奇形やさまざまな病気、精神遅滞などの先天性異常が生じたりする可能性を上昇させます。


●大人と子供では、どちらが被ばくの影響が多いですか?

被ばく集団の調査に基づくと、電離放射線被ばく後、子供の癌リスクの方が大人の癌リスクより高い事が判っています。例を挙げれば、外部被ばくおよび放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺癌リスクは、乳幼児>小児>青壮年とリスクが低下し、40歳以上の成人では殆ど甲状腺癌リスクが消えます。


●環境中に放射性物質が放出されている時に、住民はどのような予防措置を取るべきなのでしょうか?

政府や地方自治体からの指示を待って、落ち着いて行動する:

  • 呼吸器の保護:外出中であれば、濡れタオルやハンカチを折りたたみ16枚重ねにして簡易マスクとする。屋内にあっては、エアコンや換気扇を止め、窓やドアを閉める。
  • 避難指示が無い限り、不要不急の外出は控える。屋内の中心部できれば地下室に避難する。
  • やむをえず外出する場合には、帽子、マスク、外套を着用して外出する。安全な場所に着いたなら、帽子、マスク、外套をビニール袋にしまい、保管する。
  • 外出から帰ったなら、シャワーを浴びておく。
  • 念のため、保管してある食料品や飲料水を用いる。自家菜園の野菜類は汚染している可能性があるので食さない。

●放射線被ばくに関する基準は?

政府は職業上の理由による被ばくの限度を、全ての人工的放射線源合計で単年度最大50 mSv、5年間で100mSvとし、一般市民に対しては全ての人工的放射線源合計で年間1mSvを被ばくの限度としています。医療被ばくは、この規制の対象外です。ちなみに、胃の集団検診で受ける被ばく線量は2-3mSvです。このことからも判るように1mSvが危険な被ばくだと言うことではありません。


●放射線はどのようにして人を傷つけるのですか?

放射線は体内の細胞、特に分裂中の細胞内にある遺伝物質(DNA)に損傷を与えることがあります。身体に少量の放射線が吸収された場合、必ずしも細胞を傷つけるわけではありませんが、傷つけた場合、細胞は時々遺伝子の損傷を間違って修復する場合があります。損傷を受けた細胞はすぐに死ぬこともありますが、生き残った場合は将来腫瘍を起こし得る細胞へと形質転換する可能性があります。


●放射線はどれだけの量で癌を引き起こすのですか?

どれだけの量の放射線で癌が引き起こされるのかは分かっていませんが、癌のリスクは吸収線量に比例して増加します。原爆被爆者の調査では、被爆後60年経ってからも被爆による過剰な癌発生が認められております。10歳の男児(女児)が100mSv被ばくすると、生涯の癌リスクが被ばくしない場合の30% (20%)から32.1% (22,2%)に増加すると推定されます。しかし、人は自然環境で様々な線源からの放射線に毎日被ばくしていることを覚えておくことが重要です。身体に吸収される放射線の量はシーベルト(Sv)やミリシーベルト(1 mSv、1シーベルトの千分の1)と呼ばれる単位で表します。食品中の放射性カリ、ラドンガス、大気圏外空間、岩石や土壌からの自然放射線に被ばくし、日本人は年間に平均で2.1 mSvの放射線に被ばくしています。


●医師は患者の被ばく線量をどのようにして調べるのですか?

患者の被ばく線量は、生物学的線量推定法を用いて検査できます。被ばく後の末梢血液中のリンパ球の減少カーブや好中球や血小板の減少カーブは、大凡の被ばく線量を知る上で参考になります。より正確には、リンパ球を培養して染色体の異常頻度を測定したり、歯のESRシグナル(電子スピン共鳴)の大きさを測定して被ばく線量を調べます。ESR法による線量測定は、現在、抜歯した歯でしか測定できませんが、米国では歯を抜かないでも測定可能な装置の開発が行なわれており、将来は国内でも利用可能になると期待されます。また、放射性物質が体内や体表にあるかどうかも調査できます。これらの方法を用いて放射能傷害の最善の治療法を決定します。


●食物を食べたり牛乳や水を飲んだりしても安全ですか?卵や果物、肉、魚、作物はどうですか?

事故前に採取され、保存されていた牛乳や食品は安全です。事故後に流通経路に乗った食品に関しては、環境中に放出された放射性物質の種類や量、食品の採取時期や場所などにより、回答は変わります。政府や自治体が安全であると宣言するのを待ってから食するようにしましょう。


●庭の植物や地域内の農作物は放射性物質により汚染されていますか?

庭の放射能汚染レベルにより回答は変わります。自治体は、それぞれの地域を代表する地点を選び出し、汚染のモニタリングをします。その結果発表を待ってから、判断してください。


●放射性物質が皮膚に付着した場合、専門家による除染が必要とされる基準は?

現在、国は専門家による除染(放射性物質の除去)が必要とされている基準をガイガーカウンターという放射線を測定する測定器の測定値で40,000cpm(cpm:カウントパーミニッツ、1分当たりのカウント数)としています。
なぜ、この基準以下であれば専門家によるコンサルトが必要でないのかについて説明します。
放射性物質を今問題となっているヨウ素-131が皮膚に付着したと想定します。
ガイガーカウンターの測定値が100,000cpmだとすると、この値は放射線による皮膚障害が発生する量のおよそ4000分の1にしかなりません。皮膚に付着したヨウ素-131は、入浴や皮膚の代謝交換によってほとんど全て除かれると考えられます。例え皮膚に付着したままでも、ヨウ素-131の半減期(放射線の強さが半分になる期間)は8日ですので2ヶ月あまりで1000分の1になります。従って、皮膚への影響はありません。
放射性物質の多くは衣服や手に付着します。衣服に付着している場合には、脱衣のみで十分です。手に付着している場合は、手洗いかウエットテイシューなどで拭き取りましょう。


内部被ばくへの医療介入

●内部被ばくへの医療介入基準は?

体内に入り込んだ放射性物質の量を推定して、積極的に排出させるか否かの判断を行います。核種、その化学系(水溶性、難溶性)、汚染経路(経口、吸入)により異なります。欧米の専門家が提唱しているガイドラインを参考までに示します(*) 預託線量が20mSv以下の軽度の体内汚染の場合は、医療介入は正当化されません。20-200mSvの場合は、患者の状態、介入手技の難易度などを勘案して医療介入を行っても良い。200mSv以上なら、常に医療介入は正当化されます。但し、気管支肺胞洗浄は、手技自体に健康を損なう危険を伴うので、2Sv以上の預託線量がある場合にのみ、正当化されます。

(Bhattacharyya et al: Guidebook for the treatment of accidental internal radionuclide contamination of workers. Radiat. Protect. Dosimet., 41: 1 (1992))


●内部被ばくへの医療介入手技は?

経口的な内部汚染:誤飲後30分前後であれば、胃洗浄を行う。それ以降は、緩下剤、吸着剤(バリウム、ストロンチウム、ラジウムなどの核種に対し、硫酸バリウム100mLあるいはリン酸アルミニュウム・ゲル100mLの一回投与、セシウムに対しプルシアンブルー3-10g/日あるいはケイキサレート30g/日の分割投与)の服用を行う。

吸入的内部汚染:難溶性の放射性物質の場合は、去痰剤を服用。プルトニウムの吸入汚染に対して、30分以内にCa-DTPAあるいはZn-DTPA1アンプルを250mL5%糖液に混入し、点滴投与。ウランの吸入汚染に対し、重炭酸ナトリウム3g/日を分割点滴投与。

放射性ヨウ素の経口あるいは吸入汚染:安定ヨウ素剤を6時間以内に服用。 (年齢毎の投与量はこちらを参照)

気管支肺胞洗浄:難溶性の酸化プルトニウムなどの吸入汚染の症例で、預託線量が2Svを超す場合に実施する。吸入後2-3日は、気道の繊毛運動で自然排出が進行する。気管支肺胞洗浄は、自然排出が終了した吸入後5日―7日に分割して実施する。


被ばく患者の搬送、治療

●放射線被ばくした患者を搬送しても大丈夫でしょうか?

外部被ばくを受けたが放射性物質を身体に付着させていない患者(外部被ばく患者)さんは、全く一般の傷病者と同様に搬送します。放射性物質を付着させた患者(汚染を伴なう被ばく患者)さんの場合は、なるべく現場で汚染した衣服を脱がせ、ディスポの帽子をかぶせ、シーツなどで身体をくるみ、放射性物質が散乱しないように注意しながら搬送すれば安全です。また、介護に当たっては不必要に汚染した患者に密着しないようにしましょう。これは、放射性物質からの距離を確保するためです。個人線量計があれば、搬送に際し、介護する者は個人線量計を装着しましょう。どの程度の被ばくがあったかを確認できて、安心です。患者の身体に付着した放射性物質から照射される放射線でおきる被ばくは、多くの場合、胸部レントゲン写真1枚撮影するときに受ける被ばくより軽度です。


●病院には汚染された患者をサーベイランス(注1)するスタッフがいますか?

診療放射線技師がいる病院では、診療放射線技師が患者をサーベイランスします。原子力施設等の事故の際には、原子力施設の放射線管理要員等が病院に派遣され、患者のモニターに参加する事になっています。
注1: 汚染、被ばくの有無、汚染部位を明らかにするとともに、汚染、被ばくの程度を調査すること


●病院のスタッフや患者には、放射能汚染された入院・外来患者を治療したり、その近くにいたりすることで、危険がありますか?

これまでの放射線事故で、被ばく患者の治療や介護にあたった医療スタッフが、健康影響を心配するような被ばくを被ったことはありません。不必要な被ばくを避けるために、以下の点に注意してください。

  1. 放射性物質による汚染を診察室や病室に持ち込まないようにすることが重要です。このために、病院外で着衣を脱がせ、頭髪はディスポの帽子で覆ってください。特に、再処理工場など特殊な施設で発生した放射能汚染事故患者の場合は、アルファ線を放出する放射性物質により汚染している場合があります。アルファ線は、放射線の飛程が短いので、深刻な外部被ばくの心配はなく、アルファ線を放出する放射性物質を吸入しなければ心配ありません。しかし、吸入した場合は、ベータ線やガンマ線を放出する放射性物質より放射毒性が高い(付着部位に集中的に被ばくを与える)ので、より注意が必要です。
  2. 診療放射線技師に、空間ガンマ線線量率をモニターしてもらい、診察室や病室の室内が安全なレベルか否かを判定してもらってください。
  3. 放射性の金属破片が刺さっている被ばく患者の場合は、直接金属片を指で摘むことはせず、ピンセットを使いましょう。一般的には、ベータ線・ガンマ線を放出する放射性物質による汚染患者の場合には、病院のスタッフが被る被ばく線量は無視できるレベルです。


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