PCクラスタ

コンピュータ・システム工学講座

藤田 聡

ラックに整然と並んでいる筐体のひとつひとつは、キーボードやディスプレイは付いていませんが、私たちが普段オフィスなどで使っているパソコン(PC)とまったく同じものです。複数台のPC を使って仮想的な並列コンピュータをつくるという発想は30年以上前から存在している古いアイデアのひとつですが、90年代のはじめにMPI(Message Passing Interface)と呼ばれる標準仕様が策定されその実装が広く普及したことによって、そのような仮想的な並列コンピュータの構築は格段に容易になりました。

複数台のPCから構成される並列コンピュータは、一般にPC クラスタと呼ばれています。ベクトルコンピュータやスーパーコンピュータなどの専用のマシンに比べ、PCクラスタには以下のようなメリットがあるといわれています。 

 

  1. コストパフォーマンスに優れていること
    (ハードウェアが安価であることに加えて、Linux などのフリーソフトウェアが利用できるという大きなメリットもあります)
  2. 市場に流通している最新技術が導入できること
    (各PCを最新のものに置き換えるだけで、並列コンピュータとしての性能を向上させることができます)
  3. 用途や予算に応じて規模を自由に拡大・縮小できること(予算さえつけば、研究の進展に合わせてシステムの規模を少しずつ大きくしていくことができます)。ある調査によると、世界中で使われている高性能コンピュータの多くが、PCクラスタと同様の基本方針で設計された、いわゆるクラスタ型のマシンだといわれています(2008年11月に発表された全世界の高性能マシンのTOP500 のうち82%がクラスタ型のマシンでした)。たとえば2009年6月現在、国内最高速の並列マシンであるT2K Open Supercomputer (Todai Combined Cluster)は768台のノードからなるクラスタマシンであり、通常のPCに比べて高い性能をもった計算ノード(16コア以上)と、1秒あたり5Gバイトの情報を転送できるように設計された高速ネットワークから構成されています。また、広島大学の情報メディア教育研究センターに設置されているPCクラスタは、469台の計算ノードと4台の管理ノードから構成されており、主として夜間に、バッチ処理用マシンとして稼働しています。我々の研究室にあるPCクラスタは、それよりもずっと規模が小さく転送速度もそれほど速くありませんが、32台のPCが接続され、卒業研究などで毎年大活躍しています(発熱による高温化によって動作が不安定になることから、写真のような専用の部屋に設置され、この部屋の空調は、真冬でも冷房のまま一定温度になるように設定されています)。現在私たちの研究室では、このPCクラスタを用いて、並列計算方式や情報検索方式、ソフトウェア開発手法などの研究を行っています。提案方式の規模拡張性などを調べる上で、実機を用いた実証的な評価は欠かすことができません。稼働させるPCの台数を1台ずつ増加させていった場合の処理速度や処理効率の変化の様子を実験によって詳細に観察し、よりよい方式を開発していくための基礎となるデータを取得するために、これらの装置は活用されています。


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