2012特集

搾乳ロボットを利用した牛群管理

フィールド科学系部門 生物生産技術班

1.はじめに

乳牛における日常の管理作業のなかで、搾乳作業は、1日も欠かすことが出来ないうえ、拘束時間の長い作業となっている。当農場でも搾乳ロボット導入以前はパーラー搾乳で朝夕2回2名の技術職員が搾乳作業を行う必要があった。こうしたなかで、搾乳ロボット導入のもっとも大きなテーマは「ゆとりある酪農経営」であり、国内でも北海道を中心に300台以上の搾乳ロボットが稼動している。搾乳ロボットは1台が約3000万円と高価で、1台で対応できる頭数が60頭程度であることなども導入に踏み切る制約の一つである。

2.搾乳ロボットの特徴

国内では当農場が導入したレリー社製(オランダ)以外にも数社から販売されているが、機種選定を行うに際しては、365日24時間稼働させるロボットに対する支援体制が整っていることが重視された。搾乳ロボットの大きな特徴としては①牛の自発的搾乳によるストレスの軽減②多頻度の搾乳による乳量増加③個別識別による個体別飼養管理④搾乳作業からの開放などが挙げられる。近年重要視されているカウコンフォート(牛の快適な環境)をより良いものにするための一つの手段が搾乳ロボットである。

3.牛舎の概要

搾乳ロボット導入前はフリーストール牛舎で飼養し、パーラー搾乳システムで搾乳していた。搾乳ロボットを導入するにあたっては、中央にあった通路及び飼槽部分に管理室と搾乳ロボットを配置することで、牛が搾乳ロボットを通過せずに自由に移動できるフリーウェイ方式を採用した(搾乳ロボット牛舎平面図)。フリーウェイ方式はワンウェイ方式と比較すると、搾乳ロボットを通過することなく採食エリア、休息エリアへの移動が可能であるのでより自由度の高い方式であるといえる。また、搾乳ロボットに自発的に進入する動機付けが弱いので搾乳可能牛が多くなりやすい。しかしながら、ワンウェイ方式では、搾乳する必要のない牛も搾乳ロボットを通過しなければならず、無駄な牛の進入により搾乳ロボットの稼働が非効率的になったり、採食行動が低下したりする。つまり、フリーウェイ方式のほうが、牛の自由度が大きいので、カウコンフォート的にも優れていると考えられる。
 

4.搾乳ロボットの動作

搾乳ロボットはセントラルユニット(制御装置)、ロボットユニット(搾乳装置)そしてデータを登録するPCからなり、PCに搾乳牛群のデータ(牛番、生年月日、血統、分娩履歴など)を入力することで、牛が首につけたレスポンダー(ICタグ、歩行計機能付き個体識別装置)により個体識別が可能となる。
このICタグにより、牛の行動(活動量)が把握できるので、発情や反芻などの個体ごとのデータも客観的に知ることが出来るようになっている。また、搾乳ロボットで搾乳されると、乳量、乳質、乳温などのデータを自動的にPCに蓄積することが出来るので、牛の状態を総合的に把握することが出来る。
まず、牛がロボットに入り始めると、ロボット底部に設置された体重計フロアーにより設定以上の重量を感知すると入り口ゲートが閉じ、牛をロボット内部へ誘導する。誘導された牛はICタグにより個体識別され、前回からの搾乳時間や日乳量などから搾乳可能かどうか判断され、搾乳可能牛は搾乳動作がスタートし、搾乳不可能牛は出口ゲートが開き退出する。
搾乳可能牛がロボットに進入すると、ロボットアームが乳房の下に入り込み、2本の逆回転するローラーブラシで乳頭を挟み込みながら洗浄する。洗浄が終了するとレーザーセンサーが作動して、乳頭の位置を検知してティートカップを1本ずつ装着していく。装着した順に前絞り(絞り始めの乳は捨てられる)後、搾乳が開始されるとローラーブラシが殺菌される。
搾乳中は、搾乳時間や乳電導率などのデータが収集される。搾乳量が減少してくると、終了した乳房の順にティートカップが離脱され、最後にディッピング(乳頭消毒)がおこなわれた後、出口ゲートが開き、牛が退出する。搾乳が終了するとティートカップのスチーム洗浄が行われる。分離したティートカップと搾乳毎の洗浄は搾乳ロボットの大きな衛生管理の一つである。
 

No ロボットの搾乳動作 関連事項
1 (牛の進入)ゲート閉じる 濃厚飼料による動機付け
2 個体の識別 搾乳可能牛の判断
3 乳頭の洗浄 -
4 乳頭位置の検知 レーザーと過去のデータ
5 ティートカップの装着 分房ごとの分離搾乳
6 搾乳 データ採取
7 ティートカップ離脱 分房ごとの分離離脱
8 ディッピング 乳頭消毒
9 ゲート開く(乳牛の退出) -
10 ティートカップの洗浄 -

 

技術職員の仕事先 (例)

各施設の詳細につきましては,リンク先を御覧下さい。


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