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【研究成果】銅酸化物の内部に保護された電子の振る舞いを解明 ~高温超伝導研究に光明~

本研究成果のポイント

  • 多機能・ナノスケールの顕微角度分解光電子分光※1装置の開発に成功
  • 銅酸化物高温超伝導体※2において、内部に保護された電子の振る舞いを解明
  • 行き詰まりを迎えたとされる高温超伝導の研究に光明

概要

広島大学大学院理学研究科の岩澤英明特任准教授らは、イギリス放射光施設(Diamond Light Source)、ドイツ放射光施設Deutsches Elektronen-Synchrotron(DESY)、近畿大学と共同で、ナノスケールの空間分解能※3と角度分解光電子分光(ARPES)※1の実験自由度を融合した「機能的ナノARPES装置」によって、銅酸化物高温超伝導体※2(YBa2Cu4O8)の試料表面に露出した異なる原子面を空間的に選別し、物質内部に保護された、物質本来の性質に関わる電子の振る舞いを明らかにすることに成功しました。

従来のARPES装置では空間分解能が低く(ミリスケール)、空間的に平均化された情報しか得られませんでした。しかし、本研究により、実空間の電子の振る舞いを選択的に明らかにすることで、物質本来の性質を調べることが可能となる事がわかりました。1986年に銅酸化物で超伝導が発見されて以来、膨大な研究が行われてきた高温超伝導は、行き詰まりを迎えている感があります。今回確立した実験手法は、このような状況を打破し、高温超伝導の謎を解く糸口を与えていくものと期待されます。

本研究成果は、Diamond Light Sourceに開発・建設した機能的ナノARPES装置が、空間不均一性を有する物質や結晶成長が難しい微小な新奇物質などの研究において極めて有用な装置であることを示しました。今後、次世代の基盤計測・分析技術として汎用化が進み、高温超伝導などの機能性材料をはじめとした先端物性研究を牽引していくことが期待されます。

本研究成果は、米国物理学会誌Physical Review B の速報論文「Rapid Communications」に掲載されました。

用語解説

※1.角度分解光電子分光(ARPES)、顕微ARPES、ナノARPES:
固体に光を入射して、光電効果により固体外に放出される電子の「エネルギー」と「角度」を計測することで、固体中で電子の運動を調べる実験手法です。Angle-resolved photoemission spectroscopyを略して、ARPESと呼ばれます。顕微ARPESとは、ARPESと同じ原理の手法ですが、微小集光した入射光を利用することで、試料表面の局所領域を選択的に調べることが出来ます。空間分解能(※3)に応じて、ナノARPESやマイクロARPESとも呼ばれます。

※2.銅酸化物高温超伝導体:
超伝導は、物質を極低温(臨界温度)で、電気抵抗がゼロになる現象です。実用例として、リニアモーターカーやMRI(磁気共鳴断層撮影)装置などが挙げられますが、液体ヘリウムで冷却する必要があり、コストが高く応用範囲が限られています。銅酸化物高温超伝導体は、冷却コストが低い液体窒素を利用できるため、省エネルギー対策の切り札として期待されています。一方で、1986年に、銅酸化物高温超伝導体が発見されて以来、30年以上にわたり、高温超伝導に関する膨大な研究が行われてきましたが、高温超伝導が発現するメカニズムは謎に包まれたままです。

※3.空間分解能:
分解能(Resolution)とは、器械や装置などを用いた際に、ある物理量を測定・識別できる能力のことです。空間分解能とは、ある2点間の強度や物体を有意に識別できる最小距離のことを言います。

図

本研究で開発した機能的ナノARPES装置
最高240nmの高空間分解能に加えて、入射光エネルギー・偏光・試料温度が可変であり、様々な測定条件に対応できます。光電子の試料表面空間分布や2次元角度分布を効率的かつ自動的に測定出来ます。

論文情報

  • 掲載雑誌: Physical Review B 99, 140510(R) (2019)
  • 論文題目: Buried double CuO chains in YBa2Cu4O8 uncovered by nano-ARPES
  • 著者: Hideaki Iwasawa, Pavel Dudin, Kyosuke Inui, Takahiko Masui, Timur K. Kim, Cephise Cacho, and Moritz Hoesch
  • DOI: 10.1103/PhysRevB.99.140510
【お問い合わせ先】

広島大学大学院理学研究科物理科学専攻 特任准教授 岩澤 英明
広島大学創発的物性物理研究拠点
TEL: 082-424-7471
E-mail: h-iwasawa*hiroshima-u.ac.jp
(注:*は半角@に置き換えてください)


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