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【研究成果】隕石から地球のマントルを構成する超高圧鉱物“ブリッジマナイト”を発見~原始地球の誕生を知る手がかりに~

本研究成果のポイント

  • Katol(カトール)隕石から超高圧鉱物“ブリッジマナイト”を発見
  • ブリッジマナイトは小惑星衝突により生成
  • 地球の下部マントルを構成するブリッジマナイトと類似

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の宮原正明准教授、東北大学の大谷栄治名誉教授(大学院理学研究科地学専攻)は、インド工科大学カラグプル校、インド・物理研究所、ドイツ・ミュンスター大学、ローマ・サピエンツァ大学との共同研究として、2012年5月22日にインド・カトール市に落下したKatol(カトール)隕石を研究し、この隕石の中から“ブリッジマナイト”と呼ばれる超高圧鉱物を発見しました(図1)。ブリッジマナイトは地球の下部マントルの8割近くを占める重要な物質と考えられています。ブリッジマナイトを作るには、約24万気圧以上の極めて高い圧力が必要で、地球表層で天然には存在しない物質です。カトール隕石は宇宙空間で別の小惑星と衝突しており、衝突に伴い発生した超高圧力で、下部マントルに存在すると予想されている化学組成をもつブリッジマナイトが生成していました。この研究成果は、米国科学アカデミー紀要版(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に、9月27日15時(米国東部時間)に掲載されました。なお、本研究はJSPS科研費18H01269及び20H00187の助成のもと行われました。また、本研究は広島大学「プレート収束域の物質科学研究拠点」の支援も受けています。

発表内容

【背景】

 地球は地殻、マントル、核で構成されています(図2)。マントルは地下660 kmを境に、地表に近い方を上部マントル、深い方を下部マントルと呼んでいます。上部マントルと下部マントルは構成する物質が大きく異なっており、地球内部の最大の物質境界の1つです。地震波の観測や高圧合成実験(注1)の結果から、下部マントルの体積の8割近くは“ブリッジマナイト”と呼ばれる超高圧鉱物で構成されていると予測されています。ブリッジマナイトが存在するのは、約24万気圧の極めて高い圧力がかかる地下660kmより深い場所です。そのため、人類は天然のブリッジマナイトを地球上で直接手にすることはできません。 ブリッジマナイトは(Mg、Fe)SiO3の化学組成を持ち、ペロブスカイト構造(注2)を持つ鉱物(注3)です。ペロブスカイト構造を持つ(Mg、Fe)SiO3は、1970年代に高圧発生装置を用いて初めて合成されました。90年代後半に、日本と米国の研究者がほぼ同時に、ペロブスカイト構造を持つ(Mg、Fe)SiO3を、テンハム隕石とAcfer 040隕石から初めて発見しました。その後、2014年に米国の研究者が、テンハム隕石から発見されたペロブスカイト構造を持つ(Mg、Fe)SiO3に“ブリッジマナイト”という鉱物名を与えました。 テンハム隕石とAcfer 040隕石から見つかったブリッジマナイトは、エンスタタイト[(Mg、Fe)SiO3](注4)という鉱物に高い圧力が加わり、溶けることなく結晶構造だけが変化してできたものでした。地球の下部マントルを構成するブリッジマナイトは、アルミニウムを含むと予想されています。しかし、これまで発見されたブリッジマナイトはアルミニウムを含まず、鉄とマグネシウムの割合も下部マントルのブリッジマナイトとは異なるものでした。

【研究成果の内容】

カトール隕石は2012年5月22日にインド・マハラシュトラ州・ナグプール地区カトール市に落下しました。カトール隕石は普通コンドライト(注5)に分類される隕石で、探査機“はやぶさ”が試料を持ち帰った小惑星“イトカワ”の粒子と同じタイプの岩石です。カトール隕石には岩石が一度溶けた痕跡がありました(図3)。これは小惑星同士が衝突した際、岩石に高い圧力が加わり溶けたもので、“衝撃溶融脈”と呼ばれるものです。宇宙空間では小惑星同士が秒速数kmで衝突しており、衝突に伴ってブリッジマナイトができる約24万気圧の圧力が発生することがあります。研究チームはこの衝撃溶融脈を様々な電子顕微鏡や分光分析装置を用いて調べました。最終的に、透過型電子顕微鏡(注6)を用いて電子線回折パターン(注7)を解析し、ブリッジマナイトの存在を突き止めました。発見されたブリッジマナイトは、大きさが1マイクロメートル以下で、最新の透過型電子顕微鏡なしには見出すことができないものでした。
研究チームはカトール隕石から発見されたブリッジマナイトの化学組成を透過型電子顕微鏡に取り付けられたX線分光装置を使って測定しました。その結果、ブリッジマナイトの鉄とマグネシウムの量比とアルミニウムの量(Al2O3: 4.8wt.%)は下部マントルのブリッジマナイトとほぼ同じものでした。カトール隕石のブリッジマナイトは、小惑星が衝突した際に岩石が溶け、溶けた岩石が冷え固まる途中で生成したものです。溶けた岩石にはシリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)だけでなく、アルミニウム(Al)も含まれていました。ブリッジマナイトが溶けた岩石からできる過程で、その結晶構造中にアルミニウムも一緒に取り込まれました。溶けた岩石からできた地球の下部マントルと同じ化学組成のブリッジマナイトが発見されたのは世界で初めてのことです。

【今後の展開】

原始地球が46億年前に誕生した時、地球の表層は溶けた岩石(マグマ)の海で覆われていました。マグマの海が冷えていく過程で、鉄やニッケルなどの重たい元素は海の底に沈み、地球の金属核となりました。一方、シリコンやアルミニウムなどの軽い元素はマグマの海面に向かって浮き上がっていきました。大部分の重い元素が取り除かれたマグマの海では、ブリッジマナイトが作られ、現在の下部マントルが出来上がりました。カトール隕石から見つかったブリッジマナイトは、このマグマの海からできたものと同じでした。今回の発見は、マグマの海で覆われていた原始地球が、冷えて現在の地球が誕生する過程を理解する上で重要な手掛かりとなります。

用語解説

(注1)高圧合成実験:
マントルに相当する高い圧力と温度を発生させ、マントルの物質を人工的に合成する装置。
(注2)ペロブスカイト構造:
結晶構造の1種で、ペロブスカイト(CaTiO3: 灰チタン石)と同じ構造をもつもの。
(注3)鉱物:
原子が規則的に配列した物質。
(注4)エンスタタイト[(Mg、Fe)SiO3]:
地球の地殻や上部マントルの主要な構成物質の1つ。普通コンドライトの主要な構成物質の1つでもある。
(注5)コンドライト:
地球で回収された隕石の中で最も数が多い隕石グループ。コンドリュールという丸い粒をもつことが特徴的。
(注6)透過型電子顕微鏡:
試料に電子線を照射し、透過あるいは回折した強度から、ナノメートル(1メートルの10億分の1)以下のスケールで、微細組織や結晶の構造を解析できる電子顕微鏡。電子線照射により試料から発生したX線を分光し、微小領域の元素分析も行うことも可能。
(注7)電子線回折パターン:
電子線を結晶に照射すると、結晶が持つ面それぞれに固有の角度で反射が起きる。それぞれの反射は結晶の構造の違いにより、そのパターンと強度が変わる。

論文情報

  • 掲載誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要版)
  • 論文タイトル: Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
  • 著者名:Sujoy Ghosh, Kishan Tiwari, Masaaki Miyahara, Arno Rohrbach, Christian Vollmer, Vincenzo Stagno, Eiji Ohtani, Dwijesh Ray
  • DOI: 10.1073/pnas.2108736118
【お問い合わせ先】

【研究に関すること】
広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
宮原 正明(みやはら まさあき)
Tel:090-4805-5057 FAX:082-424-0735
E-mail:miyahara*hiroshima-u.ac.jp

東北大学名誉教授(大学院理学研究科地学専攻)
大谷 栄治(おおたに えいじ)
E-mail:eohtani*tohoku.ac.jp

【広報に関すること】
広島大学財務・総務室広報部広報グループ
Tel:082-424-3749 FAX:082-424-6040
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
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E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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