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【研究成果】モデル生物「ハリサンショウウニ」の全ゲノムを解読しデータベースを公開

概要

 ウニは古くから発生生物学や細胞生物学の教育・研究材料として世界中で利用されています。日本においては、バフンウニ(Hemientrotus pulcherrimus)が主に用いられており、本研究グループでは、2018年にバフンウニの全ゲノム解読を行い、公的に利用できる遺伝子のデータベースHpBaseを作成し発表しています。一方で、バフンウニは受精卵から成長した個体が次の世代を生み出すまでの性成熟サイクルが1〜2年と長く、世代を超えて伝わる遺伝形質を解析するための対象としては不向きでした。そこで、新たなモデルとなるウニの確立を目指し、さまざまなウニの発生や成長を調べたところ、ハリサンショウウニ(Temnopleurus reevesii)の性成熟サイクルが約半年と非常に短いことを発見し、ノックアウト系統を作成することなどによって、その有用性を示してきました。
 本研究では、ハリサンショウウニの全ゲノム情報を解読するとともに、公的に利用できる遺伝子のデータベースTrBaseを作成し公開しました。これにより、ハリサンショウウニが、ゲノム情報の整備されたモデル生物として、より多くの研究者や教育者に利用可能となり、ウニの発生や成長を司る遺伝子機能の解析などの基礎研究のみならず、水産などの応用研究や教育分野での活用などに貢献することが期待されます。

研究代表者名

筑波大学生命環境系
 谷口 俊介 准教授
国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室
 池尾 一穂 准教授
お茶の水女子大学湾岸生物教育研究所
 清本 正人 教授
広島大学大学院統合生命科学研究科
 山本 卓 教授

背景

 ウニは日本人にとって有用な海産食材であるとともに、磯遊び等でよく目にするなじみ深い動物の一つです。また、その成体の採集のしやすさ、配偶子(卵・精子)取得の容易さ、胚・幼生の体が透明であること等から、発生生物学や細胞生物学の研究教育分野において、古くから世界中で利用されてきました。ゲノム・遺伝子配列の情報が必須である現在の生物学においては、2006年に北米産のアメリカムラサキウニ(Strongylocentrotus purpuratus)のゲノム配列がウニの種としては初めて公表され、本研究グループも2018年に日本産のバフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)のゲノム配列を明らかにするとともに、その情報を含有したデータベース「HpBase」を作成、公開しました。しかし一方で、アメリカムラサキウニやバフンウニは、次世代を得るための性成熟サイクルが1〜2年と長く、世代を超えて伝わる遺伝形質を正確に解析するための対象としては不向きでした。
 これまで本研究グループは、さまざまな種類のウニについて、その発生過程や成長過程を比較解析したところ、ハリサンショウウニ(Temnopleurus reevesii)の性成熟サイクルが約半年であることを発見し、その特徴を利用してノックアウトウニ系統を作成するなど遺伝学分野においても非常に有用であることを示してきましたが、公的に利用できるゲノムや発現遺伝子の情報は整っていませんでした。

研究成果の内容

 そこで、本研究グループは、ハリサンショウウニの全ゲノム解析を行うとともに、誰でも利用可能な遺伝子データベースとして「TrBase」を作成し、公開しました。まず、筑波大学下田臨海実験センター(静岡県下田市)周辺で採取したオスのハリサンショウウニ一匹の精子からゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンス技術(注1)を用いてゲノムの塩基配列を決定しました。また、1ペアのオスメスから得られた卵と精子を用いて受精し、胚の発生段階ごとにトランスクリプトーム解析(注2)を行い、2細胞期、32細胞期、孵化前胞胚、孵化胞胚、原腸胚、プリズム幼生、プルテウス幼生の7つの発生段階における発現遺伝子を解析しました。
 得られた情報をもとに、国立遺伝学研究所において開発・提供している次世代シーケンサー解析プラットフォームMaser(注3)を用いて、ゲノム構造や遺伝子配列予測の解析等を行ったところ、ハリサンショウウニのゲノムは、約2万7千個程度の遺伝子を含んでいることが分かりました。今後の追加解析によりこれらの数値は増減する可能性がありますが、現時点では、アメリカムラサキウニやバフンウニのゲノム解析で得られたデータと非常に類似した結果になっています。
 今回解析したハリサンショウウニのゲノム情報およびトランスクリプトーム情報はデータベース「TrBase」(https://cell-innovation.nig.ac.jp/Tree/)にて公開されており、利用者は、それぞれの研究や教育の現場において、すべての情報を自由に活用できます(図1)。
 さらに、以前に公開したバフンウニのゲノム情報データベース「HpBase」と、今回公開した「TrBase」を融合させた、Western Pacific Sea Urchin Genome database (WestPac-SUGDB)も公開しました(図2、https://cell-innovation.nig.ac.jp/WPAC/)。WestPac-SUGDBでは、利用者が興味のある遺伝子やタンパク質の配列の類似性を、HpBaseとTrBase両方のデータの中から同時に検索することが可能で、情報の比較解析が容易にできます。

今後の展開

 このような、誰もが利用できるデータベースは、発生生物学・細胞生物学だけでなく、進化生物学分野においても、利用価値が高いものになると思われ、さらなるゲノム編集やノックアウト系統の作成も期待されます。今後、追加解析により情報を更新していくとともに、さらに、西太平洋に生息する他のウニのゲノム情報を収集し、より拡大したデータベースへと成長させる予定です。
 本研究で用いたハリサンショウウニは、生殖巣に独特な苦味を多く保持しているため、食用としては一般的ではありません。非常に美味とされるバフンウニとのゲノム・遺伝子情報の比較による、ウニの食味が生まれる仕組みの解析など、本データベースは、応用科学的な分野においても活用されることが期待されます。

参考図

図1 TrBaseのトップページ

図2 WestPac-SUGDBのトップページ

用語解説

注1)次世代シーケンス技術
   DNAを構成する塩基を同時並行的に読むことができ、膨大な量の配列を一度に決定することができる。現在主流のシーケンス技術。
注2)トランスクリプトーム解析
   次世代シーケンス技術を利用して、発現しているRNA配列全てを決定する解析。
注3)次世代シーケンサー解析プラットフォームMaser
   国立遺伝学研究所により開発・提供されている次世代シーケンサーデータの解析ツール(http://cell-innovation.nig.ac.jp/public/contents/service.html#pf_maser)
 

研究資金

 本研究は、科学技術振興機構(JST) が助成する戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C;2019-2022年度)および研究成果最適展開支援プログラムA-STEP「産学共同 (本格型)」(JPMJTR204E;2020-2025年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤(B)(26290070; 2014-2016年度)、科学研究費基盤(C)(JP19K06736; 2019-2021年度)、ゲノム支援(221S0002)によって実施されました。
 

論文情報

【題 名】 TrBase: a genome and transcriptome database of Temnopleurus reevesii (TrBase: ハリサンショウウニのゲノムデータベース)
【著者名】 Kinjo S, Kiyomoto M, Suzuki H, Yamamoto T, Ikeo K, Yaguchi S.  
【掲載誌】 Development Growth & Differentiation 
【掲載日】 2022年5月20日
【DOI】    10.1111/dgd.12780

【お問い合わせ先】

【研究に関すること】
谷口 俊介(やぐち しゅんすけ)
筑波大学生命環境系下田臨海実験センター 准教授
TEL: 0558-22-1317
E-mail: yag*shimoda.tsukuba.ac.jp 
URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home

【取材・報道に関すること】
筑波大学広報局
TEL: 029-853-2040
E-mail: kohositu*un.tsukuba.ac.jp

国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室 広報チーム
TEL: 055-981-5873
E-mail: prkoho*nig.ac.jp

お茶の水女子大学企画戦略課(広報担当)
TEL: 03-5978-5105
E-mail: info*cc.ocha.ac.jp

広島大学広報室
TEL: 082-424-3749
E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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