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【研究成果】エコー聴取時に耳を高速でパタパタと動かすコウモリを題材とした音源方向定位理論の構築

研究成果のポイント

  • コウモリは自身が放射した超音波パルスの反響音(エコー)を聴取・分析することで3次元空間の把握を行います(エコーロケーション)。特に一部のコウモリでは、エコー聴取と同期させ高速で左右両耳を動かすことがよく知られています。
  • これらの※1)耳介運動は、3次元的なエコー方向の同定に寄与していることが推察されているものの、その実態は明らかにされていません。そこで本研究では、※2)教師あり機械学習を活用した数値シミュレーションにより、音源方向の同定に有効な耳介運動について数理分析を行いました。
  • その結果、①実際のコウモリの耳介動態計測で明らかにされているピッチ運動の妥当性について評価できました。さらに、②3次元定位に有効な耳介動態パターンの理論化に至りました。これらは、コウモリの音響センシングの理解につながるだけでなく、工学音響センシング技術への応用も期待される成果だと考えられます。

概要

 広島大学大学院理学研究科大学院生(博士課程後期)の平賀隆寛氏、大学院統合生命科学研究科の山田恭史助教および小林亮名誉教授は、超音波センシング時に高速で耳介運動を行うコウモリをヒントに、耳介運動を伴う音源方向の定位手法に関する理論化を図りました。これにより、実際のコウモリにみられる耳介運動の有効性について一部理論検証することができました。さらに、3次元方向定位に有効な耳介動態パターンに対する必要条件を導き出すことができました(詳細については【研究成果の内容】を参照ください。)。本研究成果は、アメリカのPublic Library of Science (PLOS) が刊行する PLOS Computational Biology 誌に 2022 年 10 月 7 日に掲載されました(オープンアクセス)。

論文情報

  • 著者 Takahiro Hiraga1), Yasufumi Yamada*2), Ryo Kobayashi3)
      * Corresponding author
      1)大学院理学研究科・博士課程後期
      2)大学院統合生命科学研究科・助教
      3)大学院統合生命科学研究科・名誉教授
  • 論文題目
    Theoretical investigation of active listening behavior based on the echolocation of CF-FM bats
  • 掲載雑誌
    PLOS Computational Biology
    DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1009784

発表内容

【研究の背景】
 人間を含む多くの動物が主に視覚により外界の情報を得ているのに対し、コウモリは口または鼻から超音波パルスを放射し、周囲の物体から返ってくる反射音(エコー)を両耳で聴くことにより周囲の空間を把握しています(エコーロケーション)。コウモリの発する超音波には、一定周波数(CF)の超音波と大きく周波数の変化する(FM) 超音波があり、FM音のみを用いるFM コウモリと、CF音とFM音を組み合わせて用いる CF-FMコウモリに分類されます。著者は、CF-FMコウモリが両耳の耳介をエコーCF部の受信に同期させ高速で動かしているという事実に着目しました。
われわれは、この耳介運動とそれによって生じる両耳間の音圧レベル差が、エコー源の3次元方向の同定に本質的に寄与しているという仮説をたて、網羅的な耳介運動パターンとそれに紐づけた聴取エコーの仮想的な音響シミュレーションを実施しました。これら数理分析により、コウモリが実践する耳介運動の有用性を評価するとともに、有効な耳介運動パターンの理論化を図りました。

【研究成果の内容】
 聴音感度に※3)指向性のある疑似耳介モデルを構築し、※4)ロール・ピッチ・ヨー運動(図1、C参照)の組み合わせから216パターンの耳介運動に対する聴取エコー音圧レベルについて、数値シミュレーションによる分析を行いました。さらに、耳介運動ごとの3次元定位能力を評価する独自関数を構築し、それら各耳介運動に対する評価を実施しました。
その結果、216パターン中14パターンの耳介運動が3次元定位に有効な動態であることがわかりました。また、それら運動の共通点を調べたところ、4つの運動条件を満たすことで3次元方向定位に有効な耳介運動パターンを作り出せることがわかりました。また、実際のコウモリの耳介運動では、(水泳中のバタ足のように)反位相同期したピッチ運動が観測されています。本数理分析により、コウモリが採用するピッチ運動の必然性についても明らかにすることができました。これらは、コウモリの音響センシングの理解につながるだけでなく、工学音響センシング技術への応用も期待される成果だと考えられます。

【今後の展開】
 我々が今回行った研究は音響理論に基づく数理分析であり、耳介動態の一般理論化を図ることができました。今後はセンシングシステムの実機実装を図り、実環境下での検証実験を行いたいと考えています。生物が進化の過程で培ってきた“工夫”に学び、工学技術への“応用”を図ることが、われわれの研究チームの悲願でもあります。生物学・工学の両分野に貢献できる研究をこれからも追求していきたいです。

 

図1 網羅的な耳介動態パターンに対する3次元定位能力の数理分析の一例
 (A)ターゲット方向から疑似両耳へと返るエコーを再現し、Targetの水平角(Azimuth)・垂直角(Elevation)を当てる数値シミュレーションを実施。この際、両耳の指向性(感度の方向特性)を(B)のように仮定し、左右両耳で取得したエコーの音圧レベル差情報から3次元的な方向推定を行う。なお、耳介運動については(C)で表すロール・ピッチ・ヨー運動の組み合わせから再現した。(D)はピッチ運動を逆位相に固定した場合の36パターンの耳介運動に対する定位性能の分析例を示している。赤色(白黒印刷の場合は濃黒色)の領域が含まれないロール・ピッチ・ヨー運動の組み合わせが良い運動とみなされる。これらの分析から、3次元定位に有効な耳介運動について検討した。

語句説明

 ※1耳介:耳たぶを含む複雑な形状をした構造物。いわゆる耳。
 ※2教師あり機械学習:導き出してほしい答えを教えながら機械(コンピュータ)に自動でその法則を学習させる手法。
 ※3指向性:着目する物理量(今回の場合は聴音感度)の方向特性。
 ※4ロール・ピッチ・ヨー運動:3軸の回転運動を表す定義(図1、C参照)。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 大学院統合生命科学研究科 助教 山田恭史
 Tel:082-424-7384 
 E-mail:yamadaya*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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