• ホームHome
  • 理学部
  • 【研究成果】中央構造線誕生の秘密に迫る~巨大内陸断層の形成過程を解明~

                                                                             English website is here .

【研究成果】中央構造線誕生の秘密に迫る~巨大内陸断層の形成過程を解明~

本研究成果のポイント

  • 中央構造線に沿うマイロナイト(流動変形した岩石)帯の形成温度の空間変化の推定に成功。
  • 複数のマイロナイト帯の内、上昇・冷却時に最後まで活動したものが中央構造線であると判明。
  • 世界の巨大内陸断層の起源を説明可能な新説で、本分野研究の進展に期待。

概要

 北海道大学大学院理学研究院の竹下 徹教授(当時)及び同大学院理学院博士後期課程学生のドン バン ブイ氏(当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の安東淳一教授らの研究グループは、中央構造線*1に沿うマイロナイト*2帯中の歪の局所化過程を明らかにしました。
 これまで、成熟した巨大内陸断層のモデル断面(図1)は示されてきましたが、どのような過程を経て断層が成熟したのかは良く分かっておらず、特に岩石の流動領域での歪の局所化過程が不明でした。研究グループは、この巨大断層の歪の局所化過程を解明するため、中央構造線(白亜紀後期に形成され、現在は隆起・削剥されて地表に露出している化石断層)に沿う花崗岩類起源のマイロナイトを調べました。
 三重県西部に分布する中央構造線と関連するマイロナイト帯は、異なる原岩、及び異なる石英組織で特徴付けられる3帯に分帯され、また、それらは互いに逆断層で接していることを明らかにしました(I帯、II帯、III帯、図2、3)。さらに、マイロナイト帯では上位から下位へ上昇に伴う冷却が進行し、変形が停止して微細組織が凍結されたことが分かりました。変形温度はI帯の最上位からIII帯の最下位まで約500度から約300度まで減少し、中央構造線近傍には厚さ50m以下のウルトラマイロナイト*3帯が特徴的に発達しています(図2)。ウルトラマイロナイト帯はさらに脆性―塑性転移点(図1)を超えて上昇し、脆性破壊を被り中央構造線に発展しました。
 この結果、より上位に転置されたマイロナイト帯ほど早期に上昇・冷却したため、結果的にIII帯の最下位で最後まで高温が保持され、変形が継続したことで中央構造線が誕生したと明らかになりました。これは、内陸の巨大断層の発展過程についての新説となるもので、世界の陸上の巨大断層の起源の研究を進展させることが期待されます。
 なお、本研究成果は、2023年2月14日(火)にTectonophysics誌でオンライン公開されました。

背景

 地球表層を構成する大陸や島弧では、大陸地殻を横切りその下位のマントルまで切断し、さらに水平方向に数百km以上連続される巨大断層が存在することが知られています。断層とは、それに沿って大きなずれ(変位)が生じている地殻中の不連続面で、岩石が顕著に破壊・流動することにより形成されます。断層の垂直断面モデルは隆起・削剥され、地表に露出した地質時代の断層の観察から構築されています。巨大地層は、下位よりマイロナイト、カタクラサイト*4及びガウジ(断層粘土)で構成されています(図1)。
 このうち、マイロナイトとカタクラサイトの境界は脆性―塑性転移点と呼ばれています(図1)。この深さよりも深い高温の部分において、岩石(主として石英)は流動(塑性)変形してマイロナイトに、それ以浅の低温の部分では、岩石は脆性破壊してカタクラサイト・ガウジとなります。
 一方、岩石を流動させることの出来る応力は温度に強く依存するため、より深部から浅部の脆性―塑性転移点にかけて顕著に増加し、歪の局所化が生じることも知られています(図1)。
 これまで、成熟した巨大内陸断層のモデル断面は示されていますが(図1)、どのような過程を経て断層が成熟したのかは分かっていませんでした。特に岩石の塑性領域で深部から浅部にかけて、実際にどのような過程で歪の局所化が生じるのかが不明でした。研究グループは、この巨大断層の歪の局所化過程を解明するため、白亜紀後期に形成され、現在は隆起・削剥されて地表に露出している中央構造線に沿う花崗岩類起源のマイロナイト(図3)を研究対象としました。

 

研究手法

 始めに、詳細な野外地質調査・試料採取を行い、その後室内で微細構造解析を行いました。花崗岩類を構成する石英の変形微細構造は、温度や歪速度に敏感に反応して形成されます。
 研究グループは、まず石英の微細構造を用いて、約700mの厚さを持つ中央構造線の上盤を構成するマイロナイト帯(図2)についてその変形温度を決定し、空間分布を解析しました。さらに、カリ長石を含む花崗岩起源マイロナイトについて、カリ長石の分解反応生成物(ミルメカイト)に2長石温度計を適用し、同様に変形温度を決定し、空間分布を解析しました。

研究成果

 調査の結果、中央構造線の上盤を構成していた花崗岩類起源のマイロナイトは、最初から一つのマイロナイト帯として形成された訳ではなく、もともと異なる原岩、及び異なる石英組織で特徴付けられる複数のマイロナイト帯として形成されたことが明らかになりました(図2)。これらのマイロナイト帯では上昇・冷却に伴い、歪の局所化は別個に進行していました。
 しかし、より北側(上位)に位置するマイロナイト帯が、より南側(下位)に位置するマイロナイト帯に衝上することにより、別個に発達してきたマイロナイト帯は接合するほか、より北側(上位)に位置するマイロナイト帯ほど早く冷却され、変形が停止しました。
 結果として、最後まで高温を保持していたもっとも南側(下位)のマイロナイト帯の最下位に低温でウルトラマイロナイト帯(図2)が形成され、これが中央構造線に沿うカタクラサイトに上書きされ、現在中央構造線として認識できる断層になりました。つまり、本研究により中央構造線誕生の謎が解き明かされたと言えます。

今後への期待

 今回の中央構造線に沿うマイロナイト帯の観察から得られた、マイロナイト帯における歪の局所化過程は、これまで十分説明されて来なかった内陸の巨大断層に沿う歪の局所化の理由を説明出来る可能性があります。したがって、世界の大陸における同様の巨大断層(トルコの東・北アナトリア断層、西アメリカのサンアンドレアス断層、ニュージーランドのアルパイン断層等)の発展過程を解釈する際に大いなる示唆を与え、巨大断層の歪の局所化過程の研究を刺激すると期待されます。

論文情報

  • 論文名 Development of the Median Tectonic Line-related shear zone, southwest Japan: An analysis of strain localization processes(西南日本の中央構造線と関連する剪断帯*5の発展:歪の局所化過程の解析)
  • 著者名 Dong Van BUI1,2(当時)、Toru TAKESHITA3(当時)、Jun-ichi ANDO4、Takafumi YAMAMOTO4(当時)、Wencheng HUANG2(当時)、Thomas YEO2(当時)、Thomas A. CZERTOWICZ5(1ハノイ科学大学地質学科、2北海道大学大学院理学院、3北海道大学大学院理学研究院、4広島大学大学院先進理工系科学研究科、5ケネックス株式会社)
  • 雑誌名 Tectonophysics(地球造構学の専門誌)
  • DOI 10.1016/j.tecto.2023.229751
  • 公表日 2023年2月14日(火)(オンライン公開)

参考図

図1. 大陸地殻を切断する巨大断層のモデル断面図(大橋ほか、2020を一部改変)

図2. 研究地域の中央構造線上盤を構成する花崗岩類起源マイロナイトの断面図

図3. II帯(図2)を構成する花崗岩起源マイロナイトの偏光顕微鏡写真(Bui et al., 2023, in press)。石英粒子が塑性変形により引き伸ばされていることに注目。Qz, 石英; Pl, 斜長石

用語解説

*1 中央構造線 … 西南日本で東西方向に約1,000km延長される日本列島で最大の断層。

*2 マイロナイト … 地下深部の高温で、固体状態で流動変形した岩石のこと(図1)。

*3 ウルトラマイロナイト … 歪の局所化により著しく細粒化したマイロナイト。

*4 カタクラサイト … 地下の脆性―塑性転移点より浅い部分で破壊して形成された岩石のこと(図1)。

*5 剪断帯 … ずれ変形が集中する帯状の領域。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 北海道大学 総合博物館資料部 名誉教授 竹下 徹(たけしたとおる)
 TEL:011-706-4639 FAX: 011-746-0394
 メール:torutake*sci.hokudai.ac.jp
 URL:https://www.researchgate.net/profile/Toru-Takeshita-3

 広島大学 大学院先進理工系科学研究科  教授 安東 淳一 (あんどうじゅんいち)
 メール:jando*hiroshima-u.ac.jp

<配信元>
 北海道大学 社会共創部広報課(〒060-0808 北海道札幌市北区北 8 条西 5 丁目)
 TEL:011-706-2610 FAX:011-706-2092
 メール:jp-press*general.hokudai.ac.jp

 広島大学 広報室(〒739-8511 広島県東広島市鏡山 1-3-2)
 TEL:082-424-3749 FAX:082-424-6040
 メール:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


up