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【研究成果】化学物質を感じて自発的に動く物体の構築~環境に応答する微小ロボットの開発に期待~

本研究成果のポイント

  • 繰り返しが可能な化学走性をもつ、自発的に動く物体の構築
  • 刺激となる化学物質の濃度に依存して、様々な運動モードを発現
  • 様々な運動モードを分子レベルから設計・制御

概要

 広島大学・大学院統合生命科学研究科・数理生命科学プログラム・自己組織化学研究室の中田聡教授、松尾宗征助教、江島佳歩(当大学院生)からなる研究グループは、リズムとパターンに関する学問である「非線形科学」に立脚して、あたかも生き物のように振る舞う、自発的に動く無生物の物体(無生物自己駆動体)を構築してきました。これまでは、ランダムな運動や化学刺激に向かって進行する化学走性など、自律性の低い単純な運動しか再現できませんでした。本研究では、桜の葉の香り成分の一つであるクマリンを駆動体分子として用いたところ、生物が示す正と負の化学走性の繰り返しと環境に適合した様々な運動モードを示す、自律性の高い無生物自己駆動体を分子レベルから構築することに成功しました。
 本研究成果は、2023年2月16日に、学術誌「Journal of Colloid and Interface Science」にオンライン掲載されました。

発表内容

【研究の背景】
 生物は、エネルギー源となる食料を獲得する正の化学走性と、危険な物質から回避する負の化学走性をもっています。ここで興味深いのは、食料の場所に到達する正の化学走性と、食後に何らかの理由で到達点から反対方向に脱出する負の化学走性を、生物が使い分けている点です。つまり周囲の環境を感じて必要時にエネルギー変換し、目的の場所に自発的に移動することができます。このような生物の化学走性を模倣して、あたかも生き物のように振る舞う無生物自己駆動体の開発がおこなわれてきました。ところがこれまでの研究では、正または負のどちらかの化学走性、あるいはそれぞれ1回のみの正と負の化学走性しか再現しませんでした。

【研究成果の内容】
 本研究では、表面張力差を駆動力とした無生物自己駆動体を用い、リズムとパターンを形成する「非線形科学」に立脚して研究を進めました。その結果、正と負の化学走性を繰り返すとともに、化学刺激の濃度に依存して特徴的な運動様相を分子情報に基づいて再現することに成功しました。具体的には、桜の香りの主成分であるクマリンとその誘導体を自己駆動体として、塩基を化学刺激として使用したところ、塩基に対して正の化学走性を示すとともに、塩基濃度が低下するとその場所から脱出する、正と負の化学走性を繰り返す運動モードの再現に成功しました。また塩基濃度に依存して、等速運動、正と負の化学走性の繰り返し運動、化学刺激上での振動運動、及び停止といった多様な運動様相の発現に成功しました。これらの特徴的な運動は、クマリンとその誘導体の化学情報にしたがうことが実験的に解明されました。

【今後の展開】
 化学刺激として塩基以外の物質を用い、特徴的な運動様相を指標とした分子認識をおこなう実験系の構築が実現可能と考えられます。また、分子レベルからマクロな運動様相を設計するともに、数理モデルを用いて理論と実験の両輪から、環境に適合する無生物自己駆動体を構築することが可能になると考えられます。これらの研究により、バクテリアの鞭毛モーターのように、手の届かないミクロな空間における再帰的かつ自発的な物質輸送や、自律的なマイクロリアクターの開発など、応用研究への展開が期待されます。

掲載論文

  • 著者:Muneyuki Matsuo, Kaho Ejima, Satoshi Nakata
  • タイトル:Recursively positive and negative chemotaxis coupling with reaction kinetics in self-organized inanimate motion
  • 掲載誌:Journal of Colloid and Interface Science
  • DOI:https://doi.org/10.1016/j.jcis.2023.02.039
【お問い合わせ先】

 大学院統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム
 教授 中田 聡
 Tel:082-424-7409
 E-mail:nakatas*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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