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【研究成果】タゴガエル種群における性染色体の高頻度な入れ替わりを発見

本研究成果のポイント

  • 日本に生息するタゴガエル1とナガレタゴガエル2の地域集団について、染色体と核ゲノム解析を行い、3種類の異なる性染色体(第3番、第7番と第13番染色体)を同定しました。
  • 第7番のY染色体は、集団によって常染色体と入れ替わったり、再びY染色体へ復帰したりと、双方向の入れ替わりを繰り返していることがわかりました。
  • 今回、性染色体のターンオーバーは集団間あるいは種間の交雑に伴って生じていることを発見しました。これは、カエルの性染色体進化と種分化との関連を世界で初めて明らかにした報告となります。

概要

 カエルの性は遺伝子によって決まります。ほとんどのカエルでは性染色体3が雌雄同形で未分化な状態にあります。そして、常染色体4と入れ替わる現象(性染色体のターンオーバー)が知られています。今回、性染色体のターンオーバーと種分化の関係を解明するため、激しい種分化が確認されている日本のタゴガエル種群について、染色体と核ゲノムの解析を行い、性染色体の同定を行いました。その結果、地域によって異なる3種類の性染色体(第3番、第7番、第13番染色体)が同定されました。特に第7番のY染色体は、集団によって常染色体と入れ替わったり、さらには再びY染色体に戻ったりする現象が証明されました。その際、2つないし3つの地域集団の交雑が伴っていることから、遺伝的に異なる種ないし集団間の交雑が性染色体ターンオーバーを誘導していることが推測されました。本成果は、高頻度で双方向の性染色体のターンオーバーを発見し、種分化との関連を世界で初めて示した報告となります。

本研究成果は、2024年2月28日に「Genes」オンライン版に掲載されました。 

発表論文

  • 論文タイトル
    Multiple transitions between Y chromosome and autosome in Tago’s brown frog species complex
  • 著者
    三浦郁夫1,2*, Foyez Shams2, 大木淳一3, 田上正隆4, 藤田宏之5、桑名知碧1、難波ちよ1、松尾公則6、尾形光昭7、回渕修治8、清水則雄9、Tariq Ezaz2

 1  広島大学両生類研究センター
 2  キャンベラ大学
 3 千葉県立中央博物館
 4  世界淡水魚類水族館 アクア・トトぎふ
 5 埼玉県立川の博物館
 6 長崎女子短期大学
 7  横浜市繁殖センター
  産業技術総合研究所
 9  広島大学博物館
 *責任著者

背景

 オスとメスの性を決める仕組みには大きく2種類あります。温度など環境因子が決める環境による性決定と、遺伝子が決める遺伝的性決定です。カエルの性は全て遺伝子が決めますが、性染色体はヒトなどと異なり、XもYも全く同じ形という特徴を持っています。そして、常染色体と入れ替わる(性染色体のターンオーバー)ことがよく知られています。しかし、この性染色体ターンオーバーの進化学的理由や遺伝学的仕組みはまだ解明されていません。本研究では、性染色体のターンオーバーと種分化の関係を解明するため、日本のカエルの中でも特に種分化が激しいことで知られるタゴガエル種群の性染色体を細胞遺伝学および分子生物学的に調べました。
 

研究成果の内容

 本研究では、タゴガエルとナガレタゴガエルの地域集団に、3つの異なる性染色体を同定しました。第3、7と13番染色体です。特にタゴガエルの第7番の性染色体に注目すると、千葉集団ではY染色体であるのに対し、秋田集団(A)では常染色体に替わり、逆に、秋田(B’)集団や東京集団では再びY染色体に戻っていることがわかりました(図1−3)。また、このY染色体はナガレタゴガエル東京集団において、新しいY染色体として取り込まれていることもわかりました。以上の性染色体の入れ替わりはいずれも異なる集団間あるいは種間の交雑が関与していることも判明しました。本成果は、非常に高頻度で双方向の性染色体ターンオーバーの発見であり、特に種間ないし集団間交雑が関与していたと言う点で、性染色体と種分化の関係を初めて示した事例となります。
 

今後の展開

 性染色体が入れ替わるというユニークな現象が日本のカエルで頻繁に観察されることが明らかになりました。特に種分化が激しいタゴガエルでは、まだまだ5隠蔽種が存在すると言われており、今後さらに調査を進めるにつれて、興味深くユニークな現象の発見が期待されます。そして、日本のカエルを調べることで、性染色体=性決定の仕組みの変わりやすさと、多様さの謎を解明することが期待されます。
 

参考資料

図1 タゴガエルとナガレタゴガエルにおける第7番のY染色体のターンオーバー(入れ替わり)
第7番のY染色体(水色)が地域によって常染色体と入れかわったり、Y染色体に戻ったりしている。Y, Y染色体;A, 常染色体

図2 タゴガエル地域集団の交雑と性染色体のターンオーバー 
集団間交雑あるいは種間交雑に伴って性染色体の入れ替わりが生じている。丸は集団を示し、中の上段は性染色体の番号、下には7番染色体の形を示してある。
 

図3 性連鎖DNA配列の解析
STRUCTUREマップ(a)、主成分分析(b)、最尤法系統樹(c)。半円矢印①は東京集団(T)の7番Y
染色体がナガレタゴガエルにY染色体として導入されたことを示す。半円矢印②は東京のY染色体が秋田A集団由来であること、半円矢印③は秋田B(B’)のY染色体が秋田A(A)由来であること、そして半円矢印④は秋田Aの第7番染色体(常染色体)が千葉集団由来であることを示している。bとcの結果も以上の結果と考察を支持している。Rana sakuraii, ナガレタゴガエル;Rana tagoi, タゴガエル
 

用語解説

1タゴガエル
体長が3~5cmで、北海道を除く日本各地に分布し、山の小さい流れや渓流沿いに生息する。基本、赤から茶色の色彩を持ち、清水が湧き出る岩の隙間や石の下でウオンウオンと鳴きながら繁殖する。繁殖期は一般には5月だが、12月から1月にかけて繁殖する地域もある。体の割には卵が大きく、西日本の卵は白いが、東日本では黒い卵が多い。種分化が非常に激しい。

2ナガレタゴガエル
タゴガエルの姉妹種として1990年に記載された。体長は4〜6cm。渓流の中で繁殖するのが特徴。水かきが発達している。繁殖期には水中で皮膚から酸素を取り入れるためにオスの皮膚はヒダ状にブヨブヨになる。本州の関東から中国地方にかけて山地に生息する。

3性染色体と4常染色体
性を決める遺伝子を含む染色体を性染色体、それ以外を常染色体という。

5隠蔽種
正式に記載されてはいないが、新種相当と判断しうる科学的根拠がある種のこと。
 

【お問い合わせ先】

 両生類研究センター 教授 三浦郁夫
 Tel:082-424-7323 FAX:082-424-0739
 E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp
 (注: *は半角@に置き換えてください)


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