【研究成果】幸福感が労働生産性を高めることを解明

本研究成果のポイント

  • 従業員の勤務中の幸福感が従業員の労働生産性を高めることを解明しました。
  • 就業環境の改善が組織の利益にもつながる可能性が示されたことにより、「働き方改革」の効果的な推進が期待されます。

概要

広島大学大学院社会科学研究科 角谷快彦(かどや よしひこ)教授らの研究グループは、ラオス人民民主共和国の単純作業を行う工場での実験により、従業員の勤務中の幸福感が従業員の労働生産性を高めることを明らかにしました。

  • 発表論文: Emotional Status and Productivity: Evidence from the Special Economic Zone in Laos
  • 著者: 角谷 快彦、カン ムスタファ、ワタナポンヴァニッチ ソンティップ、ビンナガン パンチャポン
  • 掲載雑誌: Sustainability
  • DOI番号
    https://doi.org/10.3390/su12041544 (登録申請中)
    https://www.mdpi.com/2071-1050/12/4/1544 (現在左記にて閲覧可)

背景

現在、日本の「働き方改革」等、各国で従業員のための職場環境(労働環境)の改善が社会の大きなテーマになっています。そのなかで、労働環境のどのような改善が企業にとってメリットとなるかわかっておらず、改善がなかなか進まない要因とも言われています。なかでも従業員の就業時の感情(幸福、怒り、リラックス、悲しみ)が労働生産性にどのように結びついているかはほとんどわかっていませんでした。

研究成果の内容

今回、研究グループは従業員の感情の推移を記録しながら、彼らの労働生産性の変化を分析しました。具体的には、TDK株式会社の生体計「SilmeeW20」(図1)を用いて労働者の心拍のゆらぎを計測し、その数値から日本電気株式会社が開発した「NEC感情分析ソリューション」を用いて幸福・怒り・リラックス・悲しみの感情ステータスを算出しました(図2)。そしてその間の労働者の労働生産性を測り、労働者の感情が労働生産性にどのように結びついているかを変量効果モデルを用いて分析しました。労働者は労働生産性の計測を可能にするため、ラオスのサワンナケート経済特区で日本向けのプラスチック玩具の色付けをする工場のライン作業員から無作為で15人を抽出し、各自が何個の人形に色付けができたかを労働のアウトプットとして用いました。実験は3日間行い、労働者の年齢、性別、学歴、職歴、通勤時間等をコントロールして分析を行いましたが、結果として労働者の幸福感が労働生産性を高めていることがわかりました。その他の感情は生産性に有意な影響はありませんでした。

このことから、雇用主は従業員が幸福と感じる職場環境(労働環境)を提供することが従業員の労働生産性の向上、ひいては組織の利益につながることが示唆され、職場マネジメントの研究に勤務中の従業員の感情というフィールドを拓くことができました。

今後の展開

今回の結果はあくまで単純作業を行う労働者を対象とした結果であり、すべての職種に同様に当てはまるとは限りません。また、被験者が意図せず、かなり女性に偏ってしまった(15人中14人)ため、結果が女性の特性に影響された可能性も残ります。今後は、男性の被験者を増やし、また感情、特にストレスが高いとされる別の職種で同じような実験を行うことで、結果の適用性をさらに検証することが求められます。

参考資料

図1. 実験で用いた生体計。腕時計のように装着して使用する。

実験で用いた生体計

図2. 被験者の感情ステータスの時系列。緑色は幸福、赤は怒り、黄色はリラックスの感情を示す。下の青い棒は被験者の時系列の会話の量を示す。横軸が時系列で縦軸がその時間帯での感情および会話量を示す。なお、灰色の箇所は中立の感情もしくは体動による機器の接触不良等で計測できなかった時間帯を示す。

被験者の感情ステータスの時系列

用語説明

【お問い合わせ先】

広島大学大学院社会科学研究科
教授 角谷 快彦

TEL: 082-424-7274
E-mail: ykadoya*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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