メールマガジン No.15(2007年3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.15(2007年3月号)
2007/3/26 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.平成18年度卒業論文発表会
2.今月のコラム(文学研究科助教授 赤井清晃)
3.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ(文学研究科教授 位藤邦生)
4.広報・社会連携委員会より

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【1.平成18年度卒業論文発表会】

  2007年2月20日(火)、広島大学文学部大講義室(リテラ)におきまして、「平成18年度優秀卒業論文発表会」が開催されました。
  今回のメールマガジンでは、その中から歴史文化学講座の 辻岡健志さんと地表圏システム学講座の宇土智恵さんのお二人の卒業論文の要旨を紹介させていただきます。また、指導教員からも一言添えていただきました。

◇「明治期における西本願寺教団の近代化と文教政策−安芸教区を事例として−」
    歴史学分野4年 辻岡健志

 本研究は、明治期における西本願寺教団の文教政策を論じたもので、安芸教区を事例に僧侶養成教育機関である進徳教校から広島仏教中学、第四仏教中学、崇徳中学校までの変遷を考察した。 その過程の中で最も重要な役割を果たしたのが、興学事業の一環として学校経営を行った真宗崇徳教社という仏教結社である。崇徳教社は、県内各地から募った莫大な学校運営資金を元手に、興学事業のみならず慈善・布教を含む三大事業を行い、絶大な影響力を持っていた。同教社の学校経営について本山との間でズレ・対立が見られるなど、一方的に本山の方針が貫かれたわけではなく、地域の特質を基盤にしつつ、また当時の文部省規定に基づく普通教育も取り入れて近代的な諸整備が進められていった。
 以上、本研究は従来蓄積の薄かった近代仏教の歴史像を解明するとともに、「国家神道」研究に重点を置いてきたこれまでの近代宗教史研を、真宗史の立場から読み直そうとするものである。

〔指導教員コメント〕(勝部眞人教授)

 辻岡君は早熟な学生で、1年生の時から羽賀祥二氏の『史蹟論』に熱中するなどきわめて目立っており、授業以外でも自主的に勉強を積み重ねてきた。3年生の時に卒論のテーマを定め準備を開始していたが、その過程で出身校でもある崇徳学園の強力なバックアップが得られたこともあって、新史料発掘を含めて高水準の卒論をしあげることができた。 今後の研鑽が楽しみな逸材であるが、この場を借りて崇徳学園関係者の方々にも厚くお礼申し上げたい。多大なるご協力、まことにありがとうございました。

◇「島原城の復元的研究」        
文化財学分野4年 宇土智恵

 島原城は、元和元年(1615)の武家諸法度公布以降に松倉重政によって新造されました。本論では、数多くの資料を集め、島原城の天守、縄張の復元に取り組み、島原城の特徴を明らかにし、その意義を見出すことを目的としました。

 本論で示した島原城天守復元案が従来の復元案(現在の再建天守)と異なるのは、1階平面が2階平面と同大であること、壁面が下見板張であること、天守台が土塀を掛けた低い壇状の石垣上にあることです。従来、五重とされていた島原城天守は、1階の屋根を腰屋根と称し、実質五重、名目四重の天守であったらしいことがわかりました。また、島原城の縄張は、本論によって、その詳細が初めて明らかになりました。特徴として、帯曲輪に見られる古い形式、横矢や枡形に見られる江戸軍学の影響、三ノ丸の手薄な防御、禄高に不釣合いな天守・櫓の規模と三ノ丸の広大さなどが挙げられます。

 島原城は、松倉重政のこだわりとも言える特異性、元和以降の新造という時代性に加え、古式な点も見られます。島原城は、近世城郭の歴史や変遷を探る上で重要な位置にあると評価することができます。
 今後の課題は、島原城に関係する資料のさらに詳細かつ十分な分析と現存する石垣の調査です。所在が不明となっている古資料の発見にも努めたいと思っています。

〔指導教員コメント〕(三浦正幸教授)

 島原城は、城の新規造営を禁じた武家諸法度公布以降に築造された城の一つで、その天守はその時期における四例しかない五重天守新造(江戸・大坂・備後福山・島原)の一棟でした。その例外的な築造許可は従来、キリシタン対策と言われてきましたが、宇土さんの研究により実は四重であったらしいことが分かりました。城郭史研究の根幹を揺さぶるような成果に、指導した小生も驚いています。現在の鉄筋コンクリート造の五重復元天守はもう20年ほどで耐用年限を迎えますので、次は宇土案による木造(耐用年限500年)の四重天守が再建されることを期待したいものです。

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【2.今月のコラム】

「哲学『研究』への参加を」
文学研究科応用倫理・哲学講座助教授 赤井清晃(哲学)

 哲学の研究対象は,直接的には,哲学そのもの(あるいは,思想)であり,間接的には,「もの」(あるいは物質)であることはあっても,それは本来の研究対象ではありません.この限りでは,研究対象とする「もの」がある場所へ赴いて,直に,対象にふれなければならない学問分野とは異なり,どこにいても,研究できます.しかし,大学で行なう哲学の研究は,何もなくてもできるというわけではありません.というのは,学問としての哲学という営みには,問題そのものを考察・究明するという側面と,同時代のものも含めて,他の哲学者の思索を,主に文献に基づいて解明するという作業,すなわち,哲学史の研究という側面があるからです.後者の場合,研究対象は,主に,文献に記された過去の哲学者達の思索です.それは,西洋の哲学に限っても,ギリシア語,ラテン語,フランス語,ドイツ語,英語などによって書かれており,本研究科の哲学分野では,廣島文理科大學以来,古代哲学(ギリシア語),中世哲学(ラテン語),近世哲学(主に,ドイツ語)を専門とする教員が,基本的な原典蒐集に努めた結果,充実した蔵書を有しています.これらを用いて,学生諸君も教員も研究に従事しているわけですが,現在,科目履修生として,社会人の方々も,哲学の講義を受講しておられ,中には,ギリシア語の原典でプラトンのテクストを読むために,ギリシア語文法の授業を受講中の方もおられることを付言しておきます.

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【3.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ】

◇昔語り〜表象文化学講座教授 位藤邦生◇

 このたび広島大学を定年退職します。広島大学文学部・文学研究科に通算31年勤務したことになります。助手だった2年間、私立の大学に勤めた2年間を加えると、教師生活は35年ということになり、遥けくも来ぬるものかな、の感慨が湧いてまいります。35年の間には、その折々に、多くの方々のお世話になりました。拙い授業に出席してくださった学生諸君、ズボラな教師を陰に陽に支えてくださった事務のかたがた、怠惰な私を絶えず督励してくださった同僚のかたがた・・・そうした皆さんのご好意に支えられて、何とか職務を果たすことができました。改めて御礼を申します。大学紛争も歴史的な事柄になり、西条への統合移転も一昔以前のことになりました。今後の国立大学がどうなるのか、日本という国がどちらへ向かうのか、皆目予想がつかぬ昨今の状況ですが、文学部・文学研究科のOBとなる私は、ただひたすら、広島大学文学部・文学研究科のますますの発展を祈っております。

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【4.広報・社会連携委員会より 衞藤 吉則】

  倫理の衛藤です。本委員会では、文学部を活性化させるためにいろいろなアイディアを出し合い、検討を重ねています。本号では、現在、進められていますユニークな試みを二つ紹介させていただきます。
 ひとつは、「新入生へのお薦めの一冊」。これは、新入生に読んでほしい本を専門分野ごとに一冊選び、それを文学部玄関フロアーにある「楓文庫」に展示・紹介するという企画です。専門的な本から、先生方の思い出の本まであり、私たちも楽しめそうです。展示期間は4月から5月です。
 いまひとつは、「日本文化と造形芸術展」(委員長、三浦先生)で、ここでは、現代アート(現代作家の作品)と伝統文化(文学部関係の所蔵品)との対話が試みられます。開催できるとすれば、9月中旬から10月中旬にかけてとなります。古代から近代にかけての歴史・文化的な遺産と現代芸術が発する各々の美的なメッセージを想像してみることも刺激的なことだと思います。

 最後になりましたが、この3月をもちまして位藤邦生先生と事務局の森永雪枝さんがご退職することになりました。初任の私にとりましても、先生方が文学研究科や本学全体においてどれだけ多大なご貢献をなされてきたのかが伝わって参りました。先生方が築いてくださったものを大切に引き継いでいかなくてはと思っています。先生方のこれからのさらなるご活躍とご健勝をこころよりお祈りさせていただきたく存じます。本当にありがとうございました。
 

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リテラ友の会・メールマガジン
オーナー:広島大学大学院文学研究科長 岸田裕之
編集長:広報・社会連携委員長 岡橋秀典
発行:広報・社会連携委員会
 
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