メールマガジン No.30(2009年5月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.30(2009年5月号)
2009/5/2 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.新任教員特集   
2.今月のコラム−中国訪問レポート
    (総合人間学講座教授 植村泰夫、歴史文化学講座教授、勝部眞人)
3. 文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より

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【1.新任教員特集 】
 4月に着任された教員のコラムを自己紹介を兼ねて、掲載いたします。

『はじめまして』 欧米文学語学・言語学講座 准教授 五十嵐 陽介

 4月より文学研究科(言語学専攻)に赴任してまいりました五十嵐陽介です。
出身は東京の多摩地区です。モスクワ大学に語学留学していた学生時代の一年間を除けば、北の多摩川と南の多摩丘陵に挟まれた生まれ故郷からこれまで一歩も出たことがありませんでした。専門は言語学です。音声学・音韻論の研究を行っています。

 言語研究者のほとんどがそうであるように、僕が言語に興味を持つきっかけとなったのは外国語との出会いでした。中学1年生の夏に放送されたテレビドラマ(中国残留孤児の息子である少年が祖父を探すために北海道にたったひとりで訪れるという内容)で、少年の話す中国語の響きに魅了されました。これを契機にNHKラジオの語学講座を聞くようになり、色々な外国語の音を聞くことが僕の趣味となりました。変わった中学生でした。

 高校に入ってからは部活動に明け暮れる生活になり、外国語の勉強は(それどころか高校の授業の勉強もほとんど)しなくなりました。この辺は普通の(?)高校生だったと思います。ともあれ、大学入試の時期になると外国語への興味が復活したようで、外国語が嫌というほど学べるという東京外国語大学を目指すことになりました。

 大学ではロシア語を専攻しました。ロシア語はかなり複雑な文法体系を持つ言語で、中学生のときのような遊び半分では習得できない言語でした。言語学を学びたいのなら、言語学の教科書を何冊も読むより、ひとつの外国語を徹底的に学ぶべしという言葉を聞いたことがありますが、その意味でロシア語を学んだことはかけがえのない経験でした。

 大学には言語語学関係の授業も多数ありました。そのなかでもやはり音声学・音韻論関係の授業に一番興味をひかれました。モスクワに留学しているときも、縁あってロシア語音声学の大家の先生にロシア語音声学を教えていただきました。そんなこともあり帰国後は、大学院でロシア語の音声の研究をするようになっていました。

 ロシア語という個別言語を学んできましたが、僕は音声にかかわる諸問題であればどんな言語のものであれ関心があります。様々な言語に興味を持つ点は、色々な外国語のラジオ講座を聞いていた中学時代から変わらないようです。日本語の話し言葉に関するいくつかの研究プロジェクトに参加させていただいたこともありますし、大学院修了後は日本語の地域変種の音声研究を行っていました。音韻論では(おそらく他のどの言語学の下位領域にもまして)個別言語の枠を超えて観察される普遍性を見つけ出す重要性が強調されます。様々な言語から得られる知見を総合する形で研究が進められていきます。
その辺が「どんな言語の音声でも興味を持つ」という僕の性格に適合しているようです。

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【2.今月のコラム】中国訪問リポート  
○中国訪問記      総合人間学講座 教授 植村 泰夫

 総合人間学講座メンバー6名は、日本・中国文学語学講座小川恒男准教授、北京研究センター佐藤暢治準教授、留学生センター長の浮田三郎教授とともに、3月29日〜4月1日に中国・大連大学を訪問し、3月30日には国際シンポジウム「中日比較言語文化研究シンポジウム」(大連大学日本言語文化学院・広島大学文学研究科共催、大連大学、中国日本語教学研究会、中国日本文学研究会、広島大学北京研究センター、日本国瀋陽総領事館大連駐在事務所等後援)に参加した。

 大連大学は1987年10月に旧大連大学と大連師範専門学校、大連市衛生学校が統合されてできた比較的新しい大学であるが、現在は哲学、経済学、法学、教育学、人文学、史学、理学、工学、医学、管理学など10の学科分野、日本言語文化学院など24の学院を擁する総合大学であり、2007年現在で学生14,000人(院生366、学部生12,800、短大生1,000)、教員900人(うち教授180、博士240)を数える。その広大なキャンパスは、大連市内から車で約50分ほどの距離にある郊外の経済技術開発区に広がっている。

 大連は日系企業が多数進出し、歴史的にも日本との関係が深いこともあって、日本語と日本に関する研究教育が極めて盛んな地域である。大連大学にとって、この度の国際シンポジウムは3回目ということになる。
その内容の詳細は、本講座で刊行している雑誌『比較日本文化学研究』第3号で特集を組む予定であり、そちらを参照いただきたい。
以下では当日のプログラムを掲げて、若干の解説を行うことにする。

 9:00 開幕式挨拶:潘成勝 (大連大学長)、佐藤利行、譚晶華(中国日本文学研究会会長)、佐倉勝昌(大連日本領事館副領事)

  9:20 基調報告
      佐藤利行:「日本漢詩」について
   宿久高(中国日本語教学研究会名誉会長):「文学表現」について

 10:15 パネルディスカッション「中日言語と文化の比較について」
   小川恒男:郁曼陀の「東京雑事詩」について
   陳岩(大連外国語学院教授):ビジネス日本語の初級段階の評価基準及びその測定事項について 
      高永茂:「場」に敏感な日本語
   杜鳳剛(大連理工大学外国語学院院長):「源氏物語」の和歌の漢訳について
   河西英通:りんごから見る日中(中日)食文化論
   趙平(淮海工学院外国語学院院長):教科書編集と似て非なり日本語
   佐藤暢治:異文化理解のための日本語
   全昌煥(沈陽航空工業学院外国語学院日本語言文化研究所所長) :日本の呉音について
   浮田三郎:比較言語文化論−諺の世界−

 13:45〜14:45   特別報告
   水田英実・植村泰夫:広島大学への留学について
   李均洋(首都師範大学教授):国家人事部翻訳資格考試及応用型日語翻訳学科研究生教育

14:45〜16:00 大会発表
   崔香蘭(大連水産学院):大陸性と海洋性的に見る日本読本−人物構造と場面設定を中心に
    張蕾(大連海事大学):「杜子春」における物語の時間の二重性
   石若一(大連大学):ビジネス待遇表現について
   崔松子(大連水産学院):日本語学習における学習ステラテジー−格助詞学習を中心に
   楊紅(大連大学):瀬戸内寂聴の中国観
   高宏(大連大学):大連BPO企業人材需要調査 

  以上のように、たいへん盛り沢山のスケジュールで、報告内容も文学から実用日本語に至るまでをカバーし、若手教員による個別研究発表も行われた。
また以上に挙げた報告者以外にも何人かの日本語専門家が出席した他、100名余りの日本語を学ぶ学生が報告を聴講していたが、極めて熱心だったのが印象的だった。

 広島大学文学研究科の紹介では水田がパワーポイントを利用して概要を、植村がこの間の中国人留学生の所属と研究課題を資料にもとづいて説明し、留学を呼びかけた。今後の交流の発展が十分に期待できる。

○上海訪問の記と多少の雑感  歴史文化学講座 教授  勝部 眞人

 3月24〜27日に上海の復旦大学を訪れてきました。
同大学歴史学系とは、数年前から活発に学術交流を行っており、2005〜2007年度は広島大学から教員が出かけていって講演会を行ってきましたが、2008年度は復旦大学から4名の教員を招いて公開の合同研究会・講演会を実施しています。
また、2008年12月にも、来日中の韓昇教授を東京から招いて講演をしてもらいました。こうした流れを受けて、このたび大学間協定の附属協定書を調印することになり、その準備に携わってきた私も同行したのです。

 富永一登文学研究科長と章清歴史学系主任による附属協定書調印式を済ませ、その後に「近代東アジア社会における外来と在来」と題して私の講演も行いました。
この題は現在私が進めている研究プロジェクトのテーマで、復旦大学の2名の先生にも加わってもらっていることもあり、研究の狙いと今後の展望、その現代的意義などを話しました。

 まだ研究途上にあり明確な結論を提示できませんでしたが、話が終わるや聴いていた学生から次々と質問の手があがりました。ただし話の本筋に関連する質問はあまりなく、研究の現代的意義に関わって「小泉改革は企業の活性化に功があったのではないか」「日本のアニメ・漫画輸出についてどう思うか」など各自の関心に基づく質問が中心でした。

 このように、学生は本筋に関係することでなくとも活発に質問してくる傾向は中国では当たり前といってもよい反応で、「本筋に関係する質問をしてほしい」という気がないわけでもありませんが、別の見方をすれば日本の学生に比べてなんと逞しいことか…とも思えるのです。数年前に北京の中央人民大学で話をした時も、1人の学生がこちらの回答にさらに2度3度質問を重ねたため、周りの学生からブーイングがおこったという経験もありました。

 以前、中国に行って授業後半にあえて質問の時間を設けて学生が次々挙手することもある…と聞き、広大の授業でその話をしたら学生の多くも「ふ〜ん」と感心していたようすでしたが、「ではあなた方も何か質問を…」と聞いたら静まりかえってしまいました。もちろん高校までの教育システムも違っているし、大学で学んでいることに関する意識の差(中国では入学希望者に対して入学できるのは5分の1に過ぎない)といった現代的な要因もあるでしょう。

 また、もちろん中国や日本の学生がすべて上記のようである…というわけではなく、当然個人差もあるのですが、自分を主張する…という点においても日中の文化的な差を感じられるようにも思えます。そのあたりがまさに今研究しているテーマと関わっているのですが、比較してどちらが正しいとかいいとかではなく、比較によってその違いと共通性から自画像も描けるようになると思えます。現在それを歴史学でやってみようと、悪戦苦闘している最中です。

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【3. 文学研究科(文学部)ニュース】

○『リテラ・ナイトーク第2弾』開催のお知らせ

テーマ:自由な生き方、考え方 −1960年代から学ぶこと−
お話しする方:新田玲子(文学研究科欧米文学語学・言語学講座教授)
    J.G.サントニ(外国語教育研究センター教授)
日時:2009年7月28日(火)18時〜20時
場所:広島大学西条キャンパス内マーメードカフェ
    ※飲み物代金は各自の負担になります。
申込不要・参加費無料

○リテラ『21世紀の人文学』講座2009 開催のお知らせ
テーマ:広島から多喜二を読む
講師:友澤 和夫(文学研究科地表圏システム学講座教授)
   瀬崎 圭二(日本・中国文学語学講座准教授)
日時:2009年11月28日(土)13時30分〜16時30分
場所:広島市まちづくり交流プラザ研修室
    (〒730-0036 広島市中区袋町6番36号)
受講料:無料
申込等の詳細は、決まり次第メールマガジンでお知らせいたします。

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【4.広報・社会連携委員会より 市来 津由彦】

 本年4月から広報・社会連携委員会の一員に加わった市来津由彦(いちき・つゆひこ)と申します。中国思想文化学という教育研究分野を担当し、今から五百〜千年ほど前のことを勉強しております。 

 文学部・文学研究科には、時々刻々の「今」に対応することが前面に出る教育研究分野(あるいは研究者ごとの教育研究)もあれば、時を越えて「今」に伝えられてきたもの・こと(技能)を未来にリレーすることを務めの内に含む分野もあり、まことに多様です。この幅広い人文学の各分野、中でも時を越えていくモノ・ことを扱うこうした分野を、未来の「今」のために保持していくのも、本学のような国立大学法人総合大学における文学部・文学研究科の社会的役割です。
もとより、十年二十年がひと昔前の百年にもあたる思潮とメディアの大いなる変化の中で、リレーすることの意味と意義を「今」に向けて考える必要はありますが。 
 こうしたことに関わる広報として、文学部玄関内ロビー空間の広島大学総合博物館・文学研究科サテライト館第1展示スペース「文学研究科所蔵コレクション」及び「楓文庫」において、二、三ヶ月ごとに入れ替えで各分野に関わる各種企画の展示をしております。足をとめてじっくりみていただくと、展示されているモノが、みずからの出自と意味を「今」に生きる私たちに語りかけ思索にいざなってくれるかと思います。

 本年度も、本メールマガジンのご愛読、ご支援をよろしくお願い致します。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  富永一登
編集長:広報・社会連携委員長  河西英通
発行:広報・社会連携委員会

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