メールマガジン No.42(2011年3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.42(2011年3月号)
2011/3/29 広島大学大学院文学研究科・文学部
    
□□目次□□
1.平成22年度優秀卒業論文発表会
2.「2011リテラスプリングコンサート」レポート
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より
      
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【1.平成22年度優秀卒業論文発表会 】
   
 2月17日(木)、文学部大講義室(リテラ)におきまして、「平成22年度優秀卒業論文発表会」が開催されました。今回のメールマガジンでは、その中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。また、指導教員からも一言添えていただきました。
  
○「2人のヴィーナス~イタリア・ルネサンスにおける思想と芸術~」
歴史学コース西洋史学専攻 井田千尋
    
 ルネサンス絵画を代表するボッティチェリの『プリマヴェーラ』(1475~1485年)『ヴィーナスの誕生』(1499年)の図像解析を行いながら、そこに中世キリスト教学と新プラトン主義の融合が試みられていることを明らかにした。特に2つの絵画に描かれた2人のヴィーナスの表象する「愛」の意味について検討した。すなわち、『プリマヴェーラ』では地上のヴィーナスが描かれており、結婚という世俗的(肉体的)愛を賛美することで新プラトン主義思想が反映されていた。『ヴィーナスの誕生』では、古代の異教的背景の中で、天上でのヴィーナスの誕生が描かれれており、これは中世キリスト教学でいうところの「神的・精神的・天上的愛」を表象していた。ボッティチェリは、当初から『ヴィーナスの誕生』を続編として想定したうえで『プリマヴェーラ』を製作しており、2つの絵画(=2人のヴィーナス)の間には連続性が認められ、最終的には、中世キリスト教的な「精神的・神的美」の優位性が描かれていたのである。
  
 また『プリマヴェーラ』は死をはらむ季節をあらわし、そこに描かれたローマ神話の神メルクリウスは彼岸への先導者であった。『ヴィーナスの誕生』は死を超えて新たな生命の誕生を意味した。メディチ家の別荘に一対の絵画として合わせ鏡のように配置されていた2人のヴィーナス。そこには、古いものが死を迎えても、やがてそこから新しい生命が再び芽吹くという、ネオ・プラトニズム的なモチーフ、メディチ家の願いが込められていたのである。
 本研究において、論文作成の動機となった“言葉に尽くせない花の魅力”の図像解析にあえて挑戦することにより、理屈までもその内部に取り込み光を放ち続ける、果てしないルネサンスの真相に一歩でも近づくことができたのではないかと考えている。
  
〔指導教員のコメント〕井内太郎教授
 井田さんは出雲出身の学生です。出雲といえば出雲大社に代表されるように、日本の古代神話と関わりが深いお国がらです。だからというわけではないでしょうが、彼女は卒業論文において、古代ローマ神話に登場するヴィーナスと、彼女が以前から興味をもっていたイタリア・ルネサンス絵画の関係性についての図像解析を行いました。卒業後は島根県の公務員になりますが、今後も4年間で培った自分でものを考え分析する能力、歴史や絵画に対す興味・関心を活かしながら、島根県の発展に貢献してくれることと思います。
  
○瀬戸内海地域における中世層塔の建築様式に関する研究
地理学・考古学・文化財学コース文化財学分野  田丸 道男
  
 瀬戸内海地域における中世の層塔(三重塔・五重塔)現存15基すべてについて、建築年代・細部意匠などを詳しく分析することにより、層塔における建築様式の特質や様式採用の実態を明らかにすることを目的とする。フィールドワークに重点をおき、15層塔の組物や木鼻などを中心とする細部意匠について、実地で確認する作業を行った。この15層塔は唐様の細部意匠の採用に多寡が見られたが、その多寡によって、従来の和様・唐様・折衷様の3建築様式に分類する極めて雑駁な見方を改め、和様・ほぼ和様・和様主体・唐様主体・ほぼ唐様・唐様の6分類に細分化する方法を提示し、分析を行った。この新たに定義した建築様式によると、ほぼ唐様・唐様の層塔は存在しないこと、14世紀中期は和様、14世紀後期から15世紀前期は唐様主体、15世紀中期は和様・ほぼ和様、16世紀はほぼ和様・和様主体と大きく変動すること、また、瀬戸内海東部は和様、西部に唐様を混在する傾向があることなどを明らかにした。一定の傾向や法則性を持った時代的、様式的、地域的な変化など、また顕著となった建築生産展開の過程から、中世という特定の時代、瀬戸内海という特定の地域における、建築様式の特質を明らかにすることができた。
  
〔指導教員のコメント〕三浦正幸教授
 田丸さんはフェニックス入試で入学されました。常に若い学生たちを牽引し、向学心を抱かせるようなフィールドワークの実行を続けられ、立派な卒業論文をまとめられました。文化財学は実物を実見して研究を行うのが鉄則です。その鉄則に従い、西日本各地に散在している15層塔のすべてを回り、資料を収集された成果であると、高く評価いたします。
  
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【2.「2011リテラスプリングコンサート」レポート】 
  
『リテラ・スプリングコンサートを聴いて』 井内太郎
 この1週間あまりの日々、日本中が悲しみや苦しみにつつまれました。けれども東日本地域が苦しんでいるときには、まず西日本地域が復興の機動力となり元気を取り戻さなければならない、そのような気持ちをこめて開催したリテラ・スプリングコンサートでした。
  
 おかげさまで、たくさんのお客様にご来場いただき、また会場ロビーに設置いたしました募金箱には、206,425円の義援金が寄せられました。皆さまの温かいご支援とご協力に厚くお礼申し上げます。この義援金は広島大学が取りまとめ、日本赤十字社広島県支部を通じて被災地に送らせていただきます。
  
 さて、今回のコンサートは2部構成で行われました。第1部は二胡演奏、第2・3部は弦楽5重奏からなり、コンセプトは中国と西洋の音の調べの競演ということでした。同じ弦楽器から奏でられる美しい音ですが、それぞれの音色に違いがあることを楽しんでいただけたのではないでしょうか。
  
 第1部は、2006年に結成されたグループKey-Toの竹内ふみのさん(二胡)と佐々木行さん(ギター)のデュオによる演奏でした。中国の民謡では、緩やかなテンポで二胡の優しくも、どことなく切なさを感じさせてくれる美しい調べから、中国の農村の情景を思い浮かべることができました。その間に日本を代表する箏曲「春の海」とチックコリアの「ラフェスタ」が配置されていることがまた絶妙で、このデュオの型にはまらない演奏形態による独自のサウンドを聴かせてくれました。「春の海」は、作曲した宮城道雄が八歳で失明する前に祖父母に育てられて住んでいた瀬戸内の景勝地、福山市の「鞆の浦」の美しい風景が目に焼きついたのをイメージして音に描いたものだということを思い起こせば、さらに楽しめたのではないでしょうか。
  
 最後に演奏された「賽馬(サイマア)」はモンゴルの草競馬をイメージして作曲された曲です。二胡とギターの軽妙な掛け合いや二胡のピチカートから、多くの馬が抜きつ抜かれつしながらゴールへ向けて突進していく様と観客の興奮がひしひしと伝わってきましたね。それになんといっても、竹内さんの妙技による本物そっくりの馬のいななきで曲は最高潮に達しました。二本の弦と弓から醸し出されているとは思えない神秘的ともいうべき二胡の表現力の豊かさを堪能させていただきました。 
  
 第2・3部は広島交響楽団の弦楽5重奏でした。リテラコンサートでは広響の音を聴くのを楽しみにしておられる広響ファンが増えてきました。また広響のメンバーも毎回、色々と工夫をこらした演目とパフォーマンスで私たちを楽しませてくださいます。第2部ではクラシック・ファンならずとも一度はどこかで聴いたことのあるクラッシックの代表曲を弦楽5重奏用にアレンジしたものが演奏されました。石井さんのヴァイオリンによるメロディ、体全体を使ったパフォーマンスと目配りに導かれて5つの音色がひとつとなって響き合い、小編成とは思えないほど力強くも華麗な演奏が繰り広げられました。
  
 第3部は映画音楽やアニメソングから構成されており、大人から子どもまで広く楽しめるものでした。サタケ・メモリアルホールでコントラバスが大活躍するのははじめてのことだと思いますが、プリンク・プランク・プルンクでは、コントラバスがぐるぐる回ってあげくのはてに本人が回り出したりして、大変に愉快な曲でした。それからチェロの伊藤さんの語りを忘れてはいけません。私たちの耳に心地よい声域、節回し、エピソードで音楽の楽しさを伝えてくださいました。ふだん学生を前にして講義をしているわたしにも参考になるところが多々ありました。
  
 音楽や文学(リテラ)を通じて、美しくて愛すべき日本の再生に何らかの形で貢献できる、わたしたちはそうかたく信じています。そのような気持ちを大切にして、来年もまた楽しいコンサートが開催できればと思います。
  
 司会を担当したコンティ・サーラさんからリテラコンサートの感想を書いていただきましたので、ここでご紹介いたします。
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『コンサートの司会を務めて』文学部2年 コンティ・サーラ
 普段から家族には、「滑舌よく話しなさい」と注意されていたので、スプリング・コンサートの司会を務めさせていただくことが決定した時から、本当にうまく務まるのかと心配で、本番のコンサートまで緊張していました。
  
 本番の時は、いつも以上にはっきりと話すよう心がけました。冷汗をかくような場面もありましたが、お客さまに好評だったようで、嬉しかったです。ステージ横に待機しながら、コンサート自体も楽しむことができました。大学生活のなかでも、良い経験になったと思います。
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※当日、皆様からいただきましたアンケートの中から、何点か紹介させていただきます。
○ヴァイオリンの「てっぱん」をもう一度聞きたいです。「ビリーブ」がすごくよかたです。コントラバスもとてもおもしろかったです。たった5人しかいないのに、10人いじょうでえんそうしているみたいだったので、みんながんばっているのだなぁと思いました。(9才・女児)
○二胡の音色が印象的でした。「賽馬」が良かったです。五重奏ということですが、5人でも迫力ある演奏で、特にモーツァルトが素晴らしかったです。「プリンク・プランク・プルンク」は同じ楽器で演奏しているとは思えない感じで、とても楽しかったです。(20代・男性)
○色々なことが自粛ムードですが、音楽の力を信じてコンサートはやめないでほしいと思います。東北だけでなく、日本中のみんなが心を傷めいています。だからこそ、音楽の持つエネルギーをみんなに届けてほしいです。(30代・女性)
○小学2年生の娘も大変楽しませていただきました。また、被災地に思いをはせながら聴かせていただきました。親しみやすい曲、優しい音色、ユニークなトーク、美しい日本語の司会。このような音楽会を無料で聴かせていただくことを、大変ぜいたくに思いました。感謝を募金にさせて頂きます。市民向けの活動があることをこの度初めて知りました。リテラのこれからの活動にも興味がわきました。(40代・女性)
○毎年コンサートを楽しみにしています。毎年違った企画があり、楽しませて頂いています。二胡とギター、弦楽五重奏、どちらも音色も心に染み入り、感銘しました。ありがとうございました!(50代・女性)
○二胡とギターの演奏が新鮮で、二胡を指で鳴らし、馬のいななきの様な音がおもしろかったです。第2部は聞き慣れた曲が多く楽しい。震災で心が痛む中、素敵な音楽を有難うございました。まさに今、日本人ひとりひとりが”負けないで”の心境です。来年も又来たいです。(60代・女性)
○東広島の地で広響の五重奏を聴くことができたので、本日は素晴らしい一日になりました。2ndの山根さんの笑顔がGood。二胡も良かったです。有難う、感謝します。(70代・男性)

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【3. 文学研究科(文学部)ニュース】
  
○石橋湛山新人賞佳作 受賞おめでとう!
 文学研究科PDの濱井潤也さんが石橋湛山新人賞佳作を受賞しました。
  詳細は文学研究科HPをご覧ください。

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【4.広報・社会連携委員会より 竹広文明】
  
 未曾有の規模の東北太平洋沖大地震から2週間が経ちましたが、次々と明らかになってくる犠牲、被害の甚大さに、心痛む毎日です。震災で亡くなられた方々のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。また、被害は暮らしの至る所に及んでいることと察せられ、被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
 本メールマガジンにもありますように先日のリテラスプリングコンサートでは、募金もおこないましたが、皆様から多くの支援金を寄せていただきました。震災後、各地で支援の輪が広がってきており、また、学会でも震災に対する取り組みが始められています。思いつくことから支援の輪に加わって行きたいと思います。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  山内廣隆
編集長:広報・社会連携委員長  井内太郎
発行:広報・社会連携委員会

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