メールマガジン No.44(2011年7月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.44(2011年7月号)
2011/7/28 広島大学大学院文学研究科・文学部
    
□□目次□□
1.NHK「白熱教室JAPAN」に参加して
2.作家田口ランディさん講演会で思ったこと
3.初!院生同士による北京大との研究会
4.カープ観戦記 -あるいは、文学的広島東洋カープ論-
5. 文学研究科(文学部)ニュース
6. 広報・社会連携委員会より
      
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【1.NHK「白熱教室JAPAN」に参加して 応用哲学・古典学講座准教授 衛藤吉則】
  
 「白熱教室」といえば、昨夏に東大安田講堂で行われた、マイケル・サンデル教授(ハーバード大学・政治哲学)による対話形式の講義を思い出される方も多いことと思う。そこでの中心テーマは「Justice正義・公正」。サンデル氏は、聴衆に対して、「オバマ大統領の40倍を超す高額なイチローの年収はフェアか?どこまでの格差なら容認できるか?」「漂流ボートで多数の命をつなぐために衰弱した少年を殺して食べることは正しいか?」「前の世代が犯した戦争などの罪を現代の世代が謝罪したり、責任を負ったりすべきか?」等の問いをつきつける。そして、引き出された多様な回答は、かれのたくみなリードで、「判断の根拠・枠組み」という哲学の根本課題に遡源していく。
  
 今回の広大での「白熱教室」はその日本人講師版ともいえ、この放送は英訳され海外にも発信される。講義を担当されたのは、サンデル教授同様、正義論に精通した川本隆史教授(東京大学・倫理学)。ロールズの専門家であり、「ヒロシマ」というトポスで育った方でもある。講義では、「ヒロシマ」のできごとを、ロールズの〈正義論〉に照らして考察し、その内実を、名前と身体をもつ一人ひとりの個人(個別の生)に注目した〈ケアの視点〉で「編み直す」ことがめざされた。つまり、戦争と正義に関する、〈普遍的な概念枠組み〉と〈具体的で特殊な配慮〉をつなぐこころみといえる。

 このこころみがうまくいったのかどうかは、本講義に参加した一人ひとりの判断にゆだねられる。文学部からの参加者として、倫理学専攻の大学院生と言語学を専攻する学部生のおふたりの感想を紹介してみたい。
  
○岡本慎平 博士後期課程1年(思想文化学分野・倫理学) 
 6月26日、白熱教室JAPANの収録が行われました。原発問題で揺れるこの時期に、この広島で被爆者問題についての講義を行うことは、非常に意義深いことだったと思います。私自身、この講義で多くのものを学ばせていただきました。川本先生の講義も、参加者の発言も、示唆に富んでおり勉強になりました。また講義の後、川本先生には私たち倫理学専攻の学生たちと一緒にご専門であるロールズの正義論やケアの倫理についての、専門的な議論をしていただけました。そこでは、講義では扱えなかった理論の細部などについて白熱した議論が展開され、あたかもテレビでは放送されない白熱教室第三部といった趣で、皆にとって良い刺激になったと思います。

 有意義で勉強になる講義だったことは確かです。しかしながら、ないものねだりになってしまうかと思いますが、講義自体にはいくつか不満がないわけではありません。例えば、第一に、前半のロールズを参照しながらの、正戦論による原爆投下の否定と、後半の二人の詩人による被爆体験についての論争が、どのように繋がっているのか、私にはよく分かりませんでした。第二に、会場からの発言はあっても、発言者間での議論があまり成り立っていなかったように思えます。特に後半は、被爆者の生の声を聞くという点では有意義であったかもしれませんが、結局各人が言いたいことを言っていただけで、川本先生の仰られた考え方の編み直しや記憶の見直しに繋がっていたかどうか疑問なのです。一言で言えば、この講義には参加者間での討議がなかったように感じました。

 もちろん、講義自体は大変素晴らしいものだったと思います。ただ、もっと議論が咬み合っていれば、さらに白熱した講義内容になったのではないかと思います。
  
○藤田弘美 欧米文学語学・言語学コース2年(言語学)   
 私は哲学や倫理の専攻ではないけれども、倫理学分野の講義を受けていて興味を持ったため今回参加することを決めた。他者と考えを交わすことは、今後の人生の糧になると考えたからだ。倫理学研究室の先生や先輩方の助けを借りながら、理解を深めて講義に臨むことができた。
  
 川本先生が示された、記憶を当事者以外の人々と協力して手入れする「記憶のケア」の概念と、記憶は足りない部分を補い良い所を伸ばすことで生き物のように成長させられるという考え方に、非常に感銘を受けた。また、記憶や考えを「編み直す」ということは、それらを一度ほぐさなければならない。従って、自身のアイデンティティが揺らぐかもしれないという不安を伴うだろう。しかしながら、客観的に見つめ直すことで、自らの中にあるそれまで見えなかったものに気が付くことができるのではないかと考えさせられた。
  
 一つ残念だったのは、個人が意見を主張することに重きを置いたために、「議論」が展開できなかったということである。もっと先生や受講者が互いに意見のやり取りをすることができれば良かったように思われる。
  
 議論についても、また、今回扱った戦争責任や記憶のケアに関しても、次のことが言えると私は考える。
問題解決への糸口を探すには、人間同士の「対話」が必要である。自分の考えを述べると同時に他者の声に耳を傾けて意見を汲み取ることが、自身の価値観を「編み直す」ことに繋がるのではないだろうか。
  
 もちろん、我々が直面する問題には答えがあるかも、また何が最善であるかも分からないかもしれない。けれども、考えることを止めてしまっては何も変わらない。今回の講義を通して、自分の考えを見つめ直す必要性と、世界に対する知識が不足していることを強く感じた。今後も物事の探求を続けることで、更に深い議論に取り組む力をつけたいと思う。

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【2.作家田口ランディさん講演会で思ったこと】
              
 7月20日に広島・長崎に関する小説、エッセーでも著名な作家田口ランディさんを迎えて、講演会を開催しました。今年度から広島大学がすすめている平和教育の授業の一環として行われた講演会です。講演題目は「対話の時代 対立の回避という道」。
  この講演会に出席した1年生お二人の感想を紹介いたします。
      
○岡田啓 文学部1年   
 今日、田口ランディさんの講演を聴いて自分自身の中にある思いが生じました。それは、自分が今まで抱いていた原子爆弾への怒りや恐怖ははたして本物かどうかという疑心です。歴史的背景や原爆が作られるまでの経緯を知ることで興味を持つことができたと田口さんはおっしゃっていました。私は広島で生まれ育ち、幼いころから原爆の恐怖について教えられてきました。しかし、それはあくまでも教えられたもので、自発的なものではありません。興味を持って自分から知識を得て初めて感情にリアリティーが出ると聞き、私も原爆の背景的知識を増やして自分の感情に真実性を持たせなくてはと感じました。
  
 日本は今、脱原発に賛成か反対かで大きく揺れています。しかし、賛成・反対という対立の中で自分の考えに意固地になるのではなく、一度その対立から抜けて他の考えを持つことが大事だということ、そしてそこで必要となってくるのは対話だということを学びました。廃炉などの技術者と対話して原発の再生方法などこれからのことを考える、そのことがこれからは必要だとおっしゃっていました。対話というものは確かに簡単なものではありませんが、私たちがもっている言葉を使ってほかの人と一緒に考えることが今後は重要となるのだなと思いました。
  
 この講演で、自分の中にある原爆への思い、そして対話の必要性について考えることができました。今日の講演で学んだことや感じたことを胸に、これからの大学生活をより良いものにしていきたいと思います。
    
○斎藤織音 文学部1年   
 講演会が終わった後、「対話を成立させるには」というテーマでの討論会に参加した。話題について無関心な人間とはどうしたら対話が成立するのか。そもそも話題に関心がないのは悪いことなのか。およそこのような内容での議論だった。議論をしていくうちに、自分とよく似た考えや賛成できない考え、まったく思いつきもしなかったような新しい切り口からの考えなどさまざまな意見が出てきた。自分が賛成できない意見も、よく聞いてみると、それなりにきちんと筋が通っているのである。
  
 これには閉口してしまった。自分は「それはちょっと違うんじゃない?」と思っているのに反論できないもどかしさ。一方で納得してしまいそうな自分もいる。話をずっと聞いているうちに「まあそういうのもありかな」と思えてくる。自己が揺らぐ感覚。「対話が成立するとき気分が悪くなる」と田口さんが言うのは、こういう状態を指すのだろうかと思った。
 他者との対話は自分を見つめなおすいい機会になるようだ。田口さんと出会って学んだ大切なことである。
  
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【3.初!院生同士による北京大との研究会 歴史文化学講座准教授 本多博之】
   
 広島大学大学院文学研究科と北京大学歴史学部の合同研究会が本年6月28日(火)・29日(水)の2日間、北京大学静園二院108室を会場として開催されました。
  
 これは、5年前に締結した部局間協定により始まった学術交流事業であり、一昨年4月に広島大学を会場として開催した合同研究会では、両大学の教員が研究報告をおこなう形でしたが、今回は両大学の大学院博士課程に在籍する学生が研究報告をおこなう形で実施しました。本学からは、日本史2名・東洋史2名・西洋史1名という構成で学生5名が参加し、引率教員3名の計8名で北京大学を訪ねました。
  
 初日は、総合司会の王新生教授(歴史学部副主任)による出席者の紹介、勝部眞人教授の挨拶後、劉峰(北京大学歴史学部博士課程後期4年)「明治初年維新政府の租税管理機構」、玉井絵里香(広島大学博士課程後期2年)「中近世移行期の国家と地域社会」、平下義記(広島大学博士課程後期2年)「前工業化期日本の国家財政と農村社会―中国社会との比較を念頭に―」、李洋(北京大学歴史学部博士課程後期3年)「明治憲法の制定と伊藤博文」、劉世剛(北京大学歴史学部博士課程後期3年)「近代日本「統帥権独立制」研究」、鈴木昭吾(広島大学大学院研究生)「清末の軍制改革における兵員補充制度改革について」の6本の研究報告がおこなわれました。個別の研究報告ごとに相手国学生のコメントがあり、その後、全体での質疑応答という形で順次進められました。
  
 2日目も同様の形式で、津坂貢政(広島大学博士課程後期3年)「書法家蔡襄の背景―宋代における福建の「儒教化」と朱熹による評価」、張衛忠(北京大学歴史学部博士課程後期3年)「北宋前期試銜(しかん)研究」、李暁霞(北京大学歴史学部博士課程後期2年)「植民統治時期パンジャブの水利灌漑発展1851-1926」、平澤正樹(広島大学博士課程後期3年)「19世紀初頭における英領インドの形成とチャールズ・グラントのインド統治論」の4本の研究報告と、それに対するコメント・質疑応答がおこなわれました。
  
 前回来日された宋成有教授・王新生教授に加え、現在北京大学で前近代日本史の授業を担当されている井上亘先生(歴史学部研究員)も参加され、報告者以外の北京大学歴史学部の学生も見守る中、活発な議論が展開しました。最後に、本学教員の本多博之・太田出両准教授が締めくくりの挨拶をおこない、2年後の学術交流(会場は本学)の実施を確認し合って、2日間にわたる合同研究会の幕を閉じました。その日の夜には、高毅教授(歴史学部主任)も参加されての懇親会が開催され、日中双方の教員・学生の間で親交を深めました。
  
 翌30日(木)は、北京大学院生崔金柱さんのご案内により、擁和宮・頤和園・故宮博物院・紫禁城等の史跡を巡見し、中国の歴史や文化について深く学びました。7月1日(金)早朝、北京大学構内の勺園ホテルを出発し、天候不良のため北京空港での出発時間が大幅に遅れたものの、同日夜、大連経由で広島に無事戻りました。
  
 初の試みである大学院生同士の研究報告を中心とする学術交流は、報告内容の事前翻訳など問題点も幾つか見つかりましたが、今回の学術交流が将来を担う若い学生の貴重な経験となったことは間違いなく、その点で大きな成果を収めたと思われます。懇親会の場での宋成有教授の「若者は希望である。」という言葉は、出席者全員の心に深く刻まれました。
 参加した大学院生の感想を紹介いたします。
  
○鈴木昭吾 研究生   
 今回の合同研究会では若手の研究者による研究発表と相互交流を目的として、日中の報告者を二人一組として研究報告とそれぞれの報告をコメントし合うという手法が採用されました。筆者は中国近代史を研究分野としていますが、日本近代史を研究分野とする北京大学歴史学部の博士課程後期所属の劉世剛氏とコンビを組んで報告を行いました。奇しくも中国史を研究する日本人と日本史を研究する中国人という組み合わせになったわけです。参考とする研究や分析手法をみると共通する部分もあれば相違点も存在するのですが、私自身が常日頃から直面している「日本人が中国史を研究するということ」という問題意識を「中国人が日本史を研究する」という方向からも考える機会になりました。そして自分の中国史の報告を中国人研究者の方々に読んで・聞いてもらった上で意見をいただくという貴重な機会を得る事が出来ました。
 報告者が多かった事もあり、それぞれの報告時間が25分と制限された時間になってしまいましたが、それを差し引いても得る所の多かった二日間であったと考えております。今回の合同研究会では、日本史、東洋史、西洋史といった各分野での相互報告がなされたというのも重要なポイントであったと思います。両国の大学院生による報告と相互コメントというこの形式により、得られた所は多々有ったというのが私の感想です。
     
○平沢正樹 博士課程後期3年   
 日中における着眼点や研究スタイルの違いといった点も直接感じることができ、海外に研究を発信する際に配慮すべき点を体験的に学ぶことができた点なども、個人的には大きな成果であったと考えている。史跡を巡りながら、変わりゆく現代の中国も目の当たりにでき、そうした中国の変化や日本について、案内して下さった大学院生と様々な会話をすることができたことは、個人的には非常に貴重な体験となった。
  
○津坂貢政 博士課程後期3年   
 北京大学の院生からは、中国における最新の学会動向を踏まえたコメントを得、また談話の時間では、北京大学歴史系の院生とともに中国歴史学会の研究動向を論じあい、双方の情報をやりとりするなどの成果があった。北京大学歴史系には中国宋代史の専家である鄧小南教授がおられるが、研究会当日には教授ご本人こそ海外出張のため臨席されなかったが、その指導学生が参加されており、私の専門である中国宋代史に関する情報を交換することもでき、また今後の交流についても約束することができたのは何よりの収穫である。
   
○平下義記 博士課程後期2年   
 日本近代史に対する中国人研究者の問題関心の所在を知り、彼我の歴史認識の差異・歴史研究の方法論の相違点が明確になってきた、などの成果があった。カウンターパートを努めていただいた北京大学の劉峰氏をはじめとして、多くの大学院生の知己を得て、たいへん友好的な時間を過ごすことができた。また、中国語の日常会話を練習するための良き機会ともなった。
   
○玉井絵里香 博士課程後期2年   
 近年、日本において、時代の移行に着目した研究が盛んであるが、中国がこれらのテーマにどう取り組んでいるのかが注目される。今後は、両国それぞれの、最新の研究動向を踏まえた議論が必要になってくるであろうと考える。北京大学学生との対話のなかで、彼らの問題関心を知ることができた。北京大学の学生が日本史を研究する理由について、今後も知っておく必要があると感じた。

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【4.カープ観戦記 -あるいは、文学的広島東洋カープ論- 日本・中国文学語学講座准教授 瀬崎圭二】
  
 6月24日金曜日、毎年恒例の互助会カープ観戦ツアーに参加してきました。昨年に引き続き、熱狂的カープファンである私が光栄あるこのカープ観戦記を担当することとなりました。昨年は、カープに対する私の強い愛情のため、長文の観戦記となってしまいましたが、今年の観戦記も短くコンパクトにまとめることなどとてもできそうにはありません。「またか…」と思われる読者の方もいらっしゃるでしょうが、我慢しておつきあいいただきたくお願い申し上げます。
  
 今シーズンのカープは、開幕当初、春の椿事とも言えるような快進撃を見せてくれました。首位争いをしていたこの頃、私は、「今年はもしかしたら優勝してしまうかもしれない…優勝が決定する日には何が何でも球場に行かなくてはならない…そして球場で号泣してしまうかもしれない…」と本気で期待(心配?)しており、毎日の試合結果に一喜一憂しておりました。そのような期待が失望に変わったのは、パリーグとの交流戦に入り、5月下旬から6月上旬にかけて50イニング連続無得点という失態をさらし、10連敗した頃でしょうか。この頃、私はいても立ってもいられなくなり、家族を引き連れマツダスタジアムに応援に行きましたが、応援むなしく負けてしまいました…。
  
 カープが12球団最弱であることをものの見事にさらしてしまった、その忌まわしき交流戦が終わり、再びセリーグでのリーグ戦が開始される最初の試合を今年の互助会は観戦日に選んだのでした。この日は金曜日、私は16時過ぎまで授業を行っているため、試合開始時間である18時には間に合いません。家族を連れてマツダスタジアムに到着したのは18時30分頃だったと思います。相手は中日ドラゴンズ。交流戦最下位に終わったカープにとっては少し手強い相手かもしれません。しかも球場に着いたときには0対1で中日のリード。ただ、なぜでしょう?今日は不思議と負けるような気がしていませんでした。
    
 試合は0対1のまま、中日のネルソン投手と我が広島カープのバリントン投手の好投が続きます。やっと試合が動いたのは、地元出身期待の若手岩本選手が犠牲フライを上げ、同点に追いついた6回の裏でした。 同点に追いついた後もチャンスは続いたのですが、最近のカープの傾向に違わず、一気呵成の追加点とはいきません。今年のカープは、投手陣はまずまずなのですが、調子が良かった春先はともかく、交流戦前あたりから点が取れなくなりました。とにかくホームランが打てず、主砲栗原選手もまだ1本しか打てていないという状況です。もういつものことなので、このイライラは我慢するしかありません。7回の裏もチャンスに栗原選手が凡退したのですが、ドラマは8回の裏に起こりました。立役者は3人の選手です。
  
 8回の裏、中日のピッチャーが左腕の三瀬投手に代わったため、岩本選手の代打として右の赤松選手がバッターボックスに立ちました。赤松選手はシーズン開幕直後、肋骨の疲労骨折で一軍を離れて以来、久しぶりの登場です。思い起こせば、赤松選手がカープにやって来たのは、フリーエージェントで阪神に移籍した新井選手の人的補償のためでした。大学時代全く無名であった新井選手をカープは我慢に我慢を重ねて育て上げ、ホームラン王を獲得するまでに成長させたにもかかわらず、新井選手は「辛いです…カープが好きだから」と記者会見で号泣しながら阪神への移籍を決めました。カープが一から育て上げた地元出身選手のFA移籍は、私にとってショックの大きいものでした…。その人的補償でカープにやって来た赤松選手は、阪神時代からその俊足と守備力は高く評価されながらもよくボーンヘッドを犯し、当時の岡田監督から「アホ松」と罵られてもいました。しかし、カープに入団してその俊足と守備力が開花し、今や一軍には欠かせない存在となっております。特筆すべきは、2010年8月4日の対横浜戦、村田選手のホームラン性の当たりを追いかけてフェンスへよじ登り、見事キャッチしたプレーです。このプレーの映像はアメリカにも渡り、一夜にして赤松選手は有名人となったのでした。ちなみに、この試合をマツダスタジアムで観戦していた私は、この歴史的プレーを生で目にしてしまい、試合には負けはしたものの大満足で帰宅したものです。その赤松選手から始まる8回裏、三遊間にボテボテの内野ゴロを放ち、内野安打で出塁です。俊足のこの人が出塁すると、それだけで相手チームには脅威です。
  
 次の小窪選手が送りバント、天谷選手が四球で一死一二塁です。ここで出ました!代打前田選手。この選手については…語りたいことがあり過ぎて…もう何を語って良いのか分かりません…。イチローや落合博満氏が「天才」と呼ぶその打撃センス、ヒットを打っても「僕はもうダメです…」、アキレス腱断裂の大怪我をしたときには「前田智徳は死にました…」、声援を送った女性ファンには「お前に言われんでも分かっとる!」…。こうした奇妙な発言のためか、前田選手はいつしか「孤高の天才」と呼ばれるようになりました。私がこの選手の特異性を知ったのは1992年9月13日、東京ドームでの対巨人戦でした。私はこの試合をテレビで観戦していたのですが、センターを守っていた前田選手は、飛んできた打球を後ろにそらすというひどいエラーをしてしまいました。しかし、その後の打席で、前田選手はエラーを取り返す見事なホームランを放ったのでした。ホームランなど狙って打てるものではないでしょうし、それだけで私は「この選手はすごいな…」と思ったのですが、なんと、前田選手は泣きながらダイヤモンドを一周しているのです。自分のミスが悔しかったのもあるでしょうし、好投を続けていた北別府投手に申し訳ないという思いもあったのでしょう。そのような前田選手の姿を見て、何だか他の選手とは少し違う次元で野球をやっているように思いました。ご存知のように、その後前田選手は2000本安打を達成して歴史的大打者となりますが、今年40歳、出場機会も徐々に減り、今シーズンは代打でもあまり結果を残せておりません。祈るようにその打席を見守っていると…カーンという乾いた音…打球は右中間に転がります…ツーベースです…タイムリーヒットです…3対1で勝ち越しです…。もうなんというか…。泣きそうです…。前田…ありがとう…。
  
 さらに続きます。また代打が起用され、松山竜平選手が登場です。この選手、毎年2軍で一定の成績を残していながら肝心なところで怪我をしてしまい、なかなか一軍に上がることができませんでした。今年はスタメンで起用されることもあり、まさに飛躍のシーズンです。まんまるの顔からチームでのあだ名は「アンパンマン」。さらにもう1点…と祈っていると、うまくセンター前にはじき返し、追加点です。二軍で苦労した選手が活躍すると本当にほっとします。これで4対1のリード、最後はサファテ投手が剛速球で抑えて試合終了です。昨年に引き続き、互助会のカープ観戦は勝利を飾ることができました。
  
 ヒーローインタビューはもちろん前田選手。久しぶりの活躍で本人もうれしかったのでしょうか、いつもより饒舌で、ファンへのサービス精神旺盛なコメントだったように思います。感心したのは、「若い選手が一歩一歩悔しい思いをしながら成長しているので、我慢して若い選手を応援してやってください」という最後のコメントでした。いつも素っ気ない受け答えしかしない前田選手が若手を気遣うなんて…。こういう形でこれからもチームを引っ張っていってほしいものです。ヒーローインタビュー後、前田選手は、我々互助会メンバーが座るライトスタンドまでやって来て帽子をとり「ありがとう!」とファンに挨拶してくれました。変わったなー…前田…。
  
 というわけで互助会のカープ観戦ツアーは見事な快勝で幕を閉じました。広島出身の私が広島大学に赴任することになり、およそ15年ぶりに再び広島で暮らすようになって、マツダスタジアムに度々足を運ぶようになったのですが、やはりホームグラウンドでの応援はいいものだと改めて思います。カープがひどい試合をすると、汚い野次は飛びますが、カープファンは決してカープを見捨てません。それは、この球団の根本が市民球団だからでしょう。1975年のカープ初優勝のとき、広島市民球場に原爆で亡くなられた方々の遺影が遺族によって持ち込まれたという逸話もこの球団のそうした性質を物語っていると思います。確かにカープは資金にも戦力にも乏しいですが、それはこのチームが強い資本に支えられたプロ野球の球団などではなく、市民球団であり、「我らがカープ」であるからなのです。そして、その“市民性”は、関東のカープファンの熱心さに如実に表れているように、既に広島という地域から離れています。各地の“市民”がこのチームを強く支えているのです。交流戦最下位に終わり、12球団最弱の位置にあっても、このチームには12球団最強のファンがいます。だから、がんばれ、カープ!私は20年ぶりの優勝を夢見ています。

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【5.文学研究科(文学部)ニュース】
  
○平成23年度(2011)広島大学オープンキャンパス
  平成23年8月8日(月)~8月9日(火)に 開催します。
         
○文学研究科・文学部主催公開講座 リテラ「21世紀の人文学」講座2011
テーマ「司馬遼太郎を読む」
  
【日時】平成23年9月17日(土)13:30~16:30
【場所】広島市まちづくり市民交流プラザ 研修室A・B
【内容】本研究科は2004年から「21世紀の人文学講座」を毎年開催し、広く市民参加型の公開講座として実績をあげてきたました。 近年『竜馬がゆく』『坂の上の雲』など、司馬遼太郎の作品が再び、注目を集めています。司馬小説の何が私たちを惹きつけてやまないのでしょうか。そこで、本年度の講座では、彼の作品をいくつか取り上げながら、司馬独自の歴史や文化に対する考え方、また日本人とは何ものなのか、についてみなさんと一緒に考えてみたいと思います。
【講師】 
  中山 富広(広島大学文学研究科 歴史文化学講座教授)『菜の花の沖』を読む 
  河西 英通(広島大学文学研究科 総合人間学講座教授)司馬遼太郎は「東北」をどう読んだか
【対象】 一般市民(高校生以上)
【受講料】750円    

○サテライト展示1階ロビー【コレクション企画展示】のご案内
6月から「歴史と文学を彩る「花物語」」と題して展示しています。    
 歴史や文学に登場する花に注目。夏の花は、蓮の花を選びました。古代の仏教寺院の瓦に彩られた蓮華文で、広島県伝吉田寺の出土遺物です。そして、中国文学からは『詩経』や『紅楼夢』に登場する花、フランス文学からはデュマ・フィスの『椿姫』を選びました。 お近くにお越しの際は、是非ご覧下さい。

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【6. 広報・社会連携委員会より 稲葉治朗】
  
 いよいよ夏がやってきました。今年も厳しい暑さになりそうなことに加えて、節電も声高に叫ばれており、体力的にはもっともしんどい季節になりそうです。
  
 ただ8月というのは、多くの大学教員にとっては、研究以外の大学の仕事からは最も解放される時期です。ということは、学期中と比べると比較的自分のペースで生活できる、普段はまとまった時間がなかなか取れない自分の研究や趣味、旅行や家族サービスなど、皆それぞれの8月を過ごすことになるでしょう。私などはどうしても、朝はぐうたら、外の暑さにさらされたら冷たいビールを一杯、それが一杯では済むはずもなく・・・という悪いパターンが目に見えています。
  
 たまたま私は今日、4年生の卒論指導で、「秋冬に慌てないように、夏休みだからといって遊びすぎずに、夏休みの間にこそ実際に書き始めて、構想をまとめるように!」なんてことを言っていました。これは私自身の勉強の仕方にそのまま跳ね返ってきますね。「休みをもっと有意義に過ごすべきだった」と後から思うのは、学校に通っていた頃から変わりません。
 ともかく、メルマガ読者の皆様におかれましては、熱中症などにご注意の上、よい夏休みを過ごされることをお祈りしています。

    
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編集長:広報・社会連携委員長  井内太郎
発行:広報・社会連携委員会

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