メールマガジ No.47(2012年1月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.47(2012年1月号)
2012/1/18 広島大学大学院文学研究科・文学部   

□□目次□□
1.フィリピン渡航記
2.「ドイツ語授業コンテスト」に参加して
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より
      
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【1.フィリピン渡航記 欧米文学語学・言語学講座准教授 稲葉治朗 】
 
 昨年11月30日から12月4日までフィリピンに行ってきました。私の専門はドイツ語を中心とする言語学で、知っている方には「なぜ?(特に授業期間中なのに)」と言われそうなので、その経緯も含めてお話ししようと思います。
   
 昨年度、山内文学部長が現職にお就きになった後、広島大学平和構築連携融合事業(HiPeC;ハイペック)の文学部代表委員の後任になってくれないかと依頼されました。山内学部長とはドイツ繋がり、それにお酒の席などでも普段からお世話になっている先生なので、お引き受けし、2010年度の途中から現在に至っています。
   
 HiPeCとは大学(副学長)直属の組織で、一言で言うと、今の世界で起こっている紛争に対して、「『現地主導の平和構築』という角度からアプローチし、その道筋を見いだそうとする」ことを目指しています。実務関係者とも連帯しながら、紛争解決のためにアカデミックな立場からどのような貢献が出来るかを模索するのがHiPeCの特徴です。実際の運営には国際協力研究科の先生方が中心になっていますが、全学的運営という意味から、各学部から委員が出ています。海外にはトリブバン大学(ネパール)およびフィリピン大学ミンダナオ校にオフィスを持ち、HiPeCのメンバーも研究滞在しており、現地での会議なども開催しています。
   
 HiPeCの実際の活動としては、国内外の大きな国際会議の他に、学内での研究会、および月に一度の事業実施委員会が開かれています。場所は国際協力研究科で、バスの通行ルートよりも外の南側、文学部からは徒歩でゆうに15分はかかるのですが、山内学部長の後任ということで、文学部での仕事と重ならない限りは出るように努めていました。そんな折り、10月の実施委員会の時に、この度の会議「和平協定調印後のミンダナオ」への参加の話をいただきました。私自身は東南アジアは行ったことがなく、こんな機会でもなければフィリピンなんて一生行くこともないだろうと思って、好奇心から参加することにし、一ヶ月ちょっとの間に本も読んで、付け焼き刃の勉強も少ししました。
   
 会議の場所となっているのは、フィリピンのミンダナオ島、ここには分離独立を目指す少数派のイスラム教徒がいて、武力衝突やテロなどがしばしば起こっているところです。我々が滞在したのは、島最大の都市ダバオですが、出発の一週間ほど前には、同じミンダナオ島で爆発物を用いたテロがあって、死者も出たようです。まあ、まさにそのようなところであるからこそ、本当に「平和」というものが切実に望まれるわけです。(ちなみに、記憶に新しいところでは、2011年12月に台風がミンダナオ島を襲い、1000名におよぶ死者・不明者をもたらしましたが、それは我々の島滞在のちょうど2週間後でした。)
   
 一緒に広島を出発し、旅程を共にしたのは、HiPeCの事実上のトップである吉田修先生(アジア政治学)と、ネパール出身で在日30年以上になるマハラジャン先生(農村経済学)。フィリピンの専門家である関恒樹先生(文化人類学)、現地に研究滞在している研究員の香川めぐみさん・院生の安部雪乃さんとは現地で落ち合いました。11月30日の午後に広島空港から成田に向かい、マニラには夜に到着、ホテルで一泊し、翌朝、空路でミンダナオ島のダバオに向かいました。本格的な寒さが到来していた日本とは異なり、フィリピンはTシャツがぴったりの気候で、ホテルは冷房がばっちり効いていました。
   
 12月1日午後からの会議では、ダバオ市長やフィリピン大学(日本の東京大学に相当)ミンダナオ校の副学長を始め、フィリピン側からは当該の問題を代表する面々が出席していました。そのような本格的な会合であったにも関わらず、プログラムでは12時半開始となっていたのが、その時刻を過ぎてものんびり昼食を取っている人もいて、実際に始まったのは1時だったことには驚きました。それでも、終了予定時刻にはきちんと終わりました。
   
 会議は翌日の昼までで、午後から夜にかけては現地のフィリピン人HiPeCメンバーとの打ち合わせでした。ここでは予算の使い方に関して、日本側とフィリピン側とで見解の相違が問題となり、異なる文化的背景・習慣を持つ者が集う共同プロジェクトの難しさの一端が表面化していました。ちなみにフィリピン大学ミンダナオ校はダバオ市中心部から車で40分ほどの「ジャングル」の中にあり、のどかな風景や原生林、竹でできた今にも壊れそうな家並みを見ながらの、スリリングなドライブでした。
   
 二日間の会議を終えた翌日、我々日本組3人は午前中の便でマニラに戻りましたが、それほど大きな空港でもないのに、預けた荷物がベルトの上に出てきたのは、飛行機が到着してから1時間近くも経ってからでした。その間になんのアナウンスもなく、会議での時間のルーズさとともに、なんてのんびりした国民性なんだと感じました。夕方から食事を兼ねて町を散策し、シーフード料理の店で夕食をとって、翌日早朝の成田往きの便に備えました。成田到着時には、我々が荷物受け取りのバンドのところに到着した時には荷物はすでに現れていて、マニラとの落差に笑ってしまったものです。
   
 そんな感じで、スケジュールがびっちり詰まっていた今回のフィリピン滞在でしたが、その間に垣間見た世界は、私にとっては全くのカルチャーショックでした。冷房完備の近代的なホテルやショッピングモールを一歩出ると、そこには日本では見ることのない光景。小さい子供たちがお金をせがんで近づいてくる、人通りの多いホコリだらけの路上で子供を寝かせておむつを替えているお母さん、最もショッキングだったのは、夜になって路上の段ボール上で寝ているお母さんと六ヶ月にも満たない赤ちゃん。ただ、それでも活気があって、人なつっこいフィリピンっ子たち。ここでは逞しくないと生活できないと思いました。
   
 それにしてもひどいのは交通道徳。タクシーを含む自動車・バイク・自転車ともに交通ルールや信号などないに等しく、広島では歩行者としてはあまり信号を気ににしない私も、ここでは道を歩くのも命がけでした。走行する車は車線など全く無視でクラクションは鳴りっぱなし、日本でいう原付にノーヘルで3人乗りしている親子、はては逆走しているバイクまでたびたび見かけました。ホコリや排気ガスもものすごく、暑さや気疲れもあって、マニラでの町歩きではヘトヘトになりました。ただ、同行の2人の先生がフィリピン通だったおかげで、例のジプニー(ジープを改造した乗り合いバスで、乗車・降車ともルート上ならどこでも可)やトライサイクル(バイクに幌のようなサイドカーを付けた「タクシー」)にも乗ることが出来ました。ともかく若い時にここで生活したら逞しい精神力が身につくだろうと思いました
   
 そんな中、物価は安く(おそらく日本の4~5分の1程度)、食べ物も、多少甘過ぎの感がありつつも、しっかり楽しむことが出来ました。暑い気候のせいか、お酒は専らビールのみのようでしたが、地元のサンミゲルは安くて美味しく、同行の2人の先生も割と飲む方だったので、私もついつい飲み過ぎてしまいました。マンゴー、パイナップル、バナナなど特産の果物も美味しかったですが、初めてチャレンジしたドリアンは、東南アジア初心者の私にはまだまだ敷居が高かったようです。舌触りは独特でよいのですが、香りは噂通りすさまじく、食べた後に自分でしたゲップの臭いで気分が悪くなりました。フィリピンでの格好のままで日本に戻った私は、当然ながら寒さにたじろぎましたが、時差わずか1時間の「近場」からの帰国とは思えないほどホッとしたのを覚えています。
   
 海外渡航といえばドイツが中心で、そこでもいつも日本との違いを感じている私ですが、こんな近いアジアにも、日本と似ている部分もありつつも、これほどの別世界があるということ、この歳になって初めて直接的な経験として実感することが出来ました。陳腐な表現を使えば、「世界を見る目が広がった」と言えそうです。それと同時に、まさに広島大学肝いりのプロジェクトであるHiPeCの活動の重要さ、および現地の当事者の方々がそれに寄せる期待の大きさを感じました。個人や個々の組織が「平和」に対してなし得る貢献は微々たるものですが、それぞれの立場でそれぞれが出来る貢献をする。理想論かも知れませんが、ある意味「平和ボケ」している我々には想像も付かないような境遇にいる現地の人々に思いをはせると、ともかく出来ることからやっていくしかありません。そうしたHiPeCの活動を皆様にも温かく見守っていただきたいのと同時に、専門外の私も微力ながら、文学部の代表として少しでも貢献できればという思いを新たにいたしました。
   
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【2.「ドイツ語授業コンテスト」に参加して】
欧米文学語学・言語学講座 博士課程前期2年 浦上あさひ
  
 この度は、ゲーテ・インスティトゥート主催のドイツ語授業コンテストにて、2位入賞という結果を残すことができ、大変嬉しく感じています。このコンテストは日本の小学生を対象としたドイツ語授業を構成し、実際に行うというものでした。1年間のドイツ留学を経験し、ドイツという国の文化に魅了され続けている私は、自分の体験した文化の一端を人に紹介したいという思いから、同じく2年間ドイツに滞在し、今年日本へ帰国した柚田さんと共にこのワークショップに挑戦しました。とはいえ、ドイツ語の「ド」の字も知らない子どもたちにどうすれば興味を持ってもらえるのか、更には自分からより詳しく学ぼうとしてもらえるのか、という点は頭を悩ます問題でした。最終的にはドイツの文化に関するクイズやドイツのポップソングの合唱といった、参加型の授業を目指す構成が出来たと思います。
  
 実際に授業を行ってみると、子どもたちが目を輝かせて授業に参加し、予想以上のスピードでドイツのポップソングをマスターしてみせ、私は小さな子どもたちの持つ積極性や習得の早さに驚かされました。授業が終わった後、配布したカードに書かれているドイツ語の意味やCDについて子どもたちから多くの質問を受け、また授業をしに来て欲しい、というコメントを貰った時は、改めてこの授業を企画して良かったと感じたのを覚えています。
  
 2月にはドイツにてアジア各国の代表チームによる相互発表のワークショップに参加する予定です。各国のドイツ語学習者が子どもたちに対しどのようなアプローチを行ったのか、意見交換することを楽しみにしています。最後に、このような貴重な機会を与えて下さった稲葉先生にこの場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。
  
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【3. 文学研究科(文学部)ニュース】
  
○「2012 リテラ ウィンターコンサート」広島大学大学院文学研究科主催
リテラ ウィンターコンサート 2012 WINTER CONCERT

【日時】平成24年2月18日(土)14:00開演(13:30開場)
【会場】広島大学サタケメモリアルホール(広島大学東広島キャンパス内)
【ステージ構成】
  1部=邦楽グループKAMO
  2・3部=広島交響楽団弦楽四重奏
☆入場無料
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【4.広報・社会連携委員会より 瀬崎圭二】
  
 これまで私がこのメールマガジンに書いてきたことと言えば、いつも広島カープのことばかりですのでお忘れの方もいらっしゃると思いますが、私は実は日本近現代文学の研究者なのです。カープの応援ばかりして全く研究していないと思われてはまずいので、たまには自分の研究のことを書きたいと思います。
    
 私は、現在、国立歴史民俗博物館の共同研究「歴史表象の形成と消費文化」というプロジェクトに加わっていて、年に数回開催される研究会のため、国内各地に出向いております。博物館は千葉の佐倉にありますので佐倉で研究会が行われることが多いのですが、研究テーマに関わる地域で開催されることも時々あり、益子や金沢で研究会が行われたこともあります。この研究会で何よりも面白いのは、参加メンバーのほとんどが歴史学や民俗学を専門とする方ばかりであるということです。私の専門は文学ですから、この研究会に参加すると、自分が文学研究の枠の中でしかものを考えられていないことにいつも気づかされます。そういう意味で、私にとっては非常に刺激的な研究会です。
  
 この共同研究では調査も行っていて、長野県の須坂にある田中本家という家の所蔵調査を継続的に行っています。これまで日程や距離の問題から参加できずにいたのですが、昨年末に初めてこの調査に参加することができました。私は主に戦前の雑誌類の所蔵調査をしたのですが、私たちの世界では貴重な資料とされるものが相当数所蔵されていました。そして、10年くらい前からずっと見てみたくてかなわなかった、ある雑誌を見ることができました。その雑誌は、私も古書店で大部分買い集めたのですが、重要な巻号の一冊だけ見つからず、ずっと気になっていた代物です。もちろん全頁写真撮影し、この調査を何らかの形で報告することに決めました。また、当時のこの家の雑誌の買い方や読書傾向もイメージすることができ、その意味でも大変有意義な調査となりました。所蔵量があまりに多すぎて全てを見ることができないのが残念ですが、文芸書の類も多く所蔵されていて、機会があればそれらも是非見てみたいと思っています。
  
 夏目漱石も参詣した善光寺にお参りし、暮れも押し迫った30日の夜、無事、帰宅いたしました。
    
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オーナー:広島大学大学院文学研究科長  山内廣隆
編集長:広報・社会連携委員長  井内太郎
発行:広報・社会連携委員会

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