メールマガジン No.66(2015年3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.66(2015年3月号)
2015/3/19 広島大学大学院文学研究科・文学部
  
□□目次□□
1.文学研究科(文学部)退職教員・職員あいさつ 
2.平成26年度優秀卒業論文発表会
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より
    
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【1.文学研究科(文学部)退職教員・職員あいさつ】

○「退職にあたって」日本・中国文学語学講座 中国文学語学分野 教授 富永一登

 このところ、空いた時間は、図書館和装資料室で漢籍の整理をしています。
  平成6年に西条に移転したとき、倫理・東洋史・中文・中哲の研究室から図書館に大量の漢籍を移管しました。その後も何回か移管し、3万冊を超えるほどの分量になっています。これらを全部合わせて文学部旧蔵漢籍として、四部分類にしたがって排架し直し、目録を作成する作業です。3月末の退職までには終了して、誰でもどこに何があるのかがわかるようにしますので、ご活用願います。

 学生時代の10年間を含めて31年間、この漢籍が研究の源になっていました。特に、活字本が少なかった学生時代、研究室に大量の漢籍があり、自由に手に取ることができたことが、研究意欲を持続させるのに随分役立った気がして、目にしたことのある本を見つけると懐かしさがこみ上げてきます。あの当時は、他大学の学生からは、広島大学は研究環境がすばらしいと、羨ましがられていました。

 しかし、まったく見たこともない本の方が圧倒的に多いのです。3万分のいくつしか見ていないのかと考えると、自分の研究の狭小さを痛感させられます。それに気づかされただけでも、自分にとってこの作業をした価値は十分にあります。冷めがちだった研究への情熱が戻り始めたのですから。

 時代の流れでしょうか。近年、文学研究は、ますます片隅に追いやられています。これを打開するには、個々人がそれぞれの分野で力を発揮するしかないのではと思っています。長い間、たいへんお世話になりました。心よりお礼申し上げます。皆様方の今後ますますのご健勝とご健筆をお祈りいたします。

○「文学研究科を去るにあたって」地表圏システム学講座 考古学分野 教授 古瀬清秀

 このところ、土日なしの連日、自分の研究室の片付けに追われている。さすがに30年以上にわたって収集した書籍数は膨大なものになっているが、きちんと整理して配架していなかったものだから、分類しながらの箱詰め作業は実に大変なことになっている。まあ、平生往生とはこのことだろう。ところで、この作業を通じて、思い至ることが二つある。

 一つ目は、もう23年も前になる、文学部の東広島移転である。今の文学研究科にはあの当時のことを知る方はだんだんと少なくなってきたが、あの移転に伴う、研究室の片付け作業が今の状況と規模の違いはあれ、まったく同じであることに気づいた。当時、片付けも終了近い2月末のある日、グラウンド隅にオオイヌノフグリの小さな青い花を見つけ、大いに癒されたが、今回もまた同じ花に世話になった。東千田の片付け最後の日、文学部構内を1階から3階まで散策したが、西洋史教室前の廊下に片付けられた廃棄物の中に、まだ3分の1ほど中身の残るブランデーを見つけ、ガランとした考古学教室で一人、チビチビとなめた。今回はとっておきの40年ものの貴腐ワインで景気をつけよう。

 二つ目は箱詰めした書籍の行く末である。家にも置けず、どうしたものかと思案していたところ、救い神が現れた。郷里の市立図書館で受け入れてくれるというのだ。ちょうど、市ではある古墳群の史跡整備中で、そのガイダンス施設に図書室を併設してやろうという有難い思し召しであった。とはいえ、箱詰めしながらも1冊1冊に思いのこもった本を手元に残さず、すべて寄贈することに最後まで抵抗感があった。私に娘はいないが、娘を嫁に出す父親の気持ちとはこういったものだろうかと想像した。彼女らの第二の人生(?)に大いにエールを送ることにしよう。

 文学研究科の皆様方には長い間本当にお世話になりました。衷心よりお礼申し上げます。私は4月からは当面、晴耕雨読のサンデー毎日を楽しむつもりです。皆様方、ごきげんよう。

○「感謝をして前へ」文学研究科支援室 学生支援担当主査 山田章弘

  42年間お世話になった大学をやっと卒業いや退学することになりました。
 最後の5年間を少し楽させてもらったのはありがたかったです。普段は平静を装っていても目は近くも遠くも見えにくく、耳も遠くなり、夕べ言ったことも全く思い出せない自分に愕然とする近頃ですから、老兵は静かに消え去るのみと自覚していました。しかしまだ扶養家族を抱えておりシルバーエイジを楽しむ余裕もなく、もう少し再雇用でお世話になります。でも大丈夫、今度は体を使う仕事がメインだから。

 今から昭和の時代を思い返すと、良くも悪くも何とのんびりした時代だったかと思います。仕事は毎回同じことの繰り返しで面白くもなんともないと思った時期もありましたが、いつの間にか仕事・生活に追われるようになりました。私なりに思うことは、答えの見える仕事はどんなにたいへんでも時間をかければ何とかなりますが、答えの見えない仕事はしんどいものです。これも自分に学の無さと漫然と過ごしてきた付けがきたと反省していますが遅すぎますね。若い人には事務屋のプロとしての自覚と覚悟でこれからの大学や部局運営をリードできる人材に育って欲しいと願っています。

 これから急激に変わるであろう教育・研究環境の変化に戸惑いを覚えます。長い時間をかけて成果を積み上げていく人文学分野の先生方の対応を見ずに去れるのはある意味幸いです。文学研究科が10年後どうなっているか想像できませんが、人類の科学技術の発展には貢献できなくても、現在の民族・宗教対立など人類の課題に取り組むことができる、なくてはならない学問分野だと信じています。皆様お世話になりました。

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【2.平成26年度優秀卒業論文発表会】            

  2月19日(木)文学部大講義室(リテラ)におきまして、「平成26年度優秀卒業論文発表会」が開催されました。今回のメールマガジンでは、その中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。また、指導教員からも一言添えていただきました。

○「フィールドワークに基づくケラビット語バリオ方言の記述的研究―音素分析を中心として―」 欧米文学語学・言語学コース 言語学専攻 武内康佳
                                                                
 マレーシアにおいては、西マレーシアではマレー系の人口が多く、主にマレーシア語や英語、中国語、タミル語が用いられている一方で、東マレーシアは先住民族の人口が多く、ボルネオ島の先住民族の言語も盛んに用いられています。そのような先住民族のひとつであるケラビット人の言語、ケラビット語は、言語学的な観点からの調査が十分に行われていません。本研究の目的は、フィールドワークを通じてケラビット語バリオ方言の基礎語彙を収集し、音素分析を行うことにより、危機言語としてのケラビット語の保存に貢献することです。

 ケラビット語に関する先行研究では、数多くの「音素」(意味を区別する機能を持つ音の単位)が認められています。しかしながら、ケラビット語の実際の発音を聞く限り、先行研究で認められている母音と子音の一部は、実は音素ではなく、音素が表れる環境に従って形を変えた実現形である「異音」である可能性が示唆されます。更に先行研究によるIPA(国際音声記号)表記と実際の発音を比較してみると、表記が必ずしも妥当ではない可能性が示唆されました。これらの可能性を検討するために、借用されづらいと考えられる基礎語彙400語からなる調査語彙表を作成し、これを用いてマレーシアでフィールドワークに基づく言語調査を二回行いました。調査地は、ケラビット語が話されている地域の中でも特にケラビット人の故地とされているバリオという村です。複数の話者が発音した基礎語彙400語を録音するとともに、IPAで書き取ることにより記録しました。調査によって得られた音声を分析した結果、ケラビット語は4の母音音素と15の子音音素を持つこと、母音音素うち2つは条件異音をもち、環境によりその形を変えることが明らかになりました。 今回は音素分析を中心とした研究を行いましたが、ケラビット語の文法についても、さらなる調査が必要です。今後、ケラビット語やその周辺言語に関するより詳細な記述的研究を進めていくことにより、文化としての言語の保存を行うための新たな段階へ進むことが出来ると思います。

[指導教員のコメント:五十嵐陽介准教授]
 武内康佳さんの研究は、マレーシアの先住民族の言語のひとつであるケラビット語の基礎語彙調査です。ケラビット語は十分な辞書も文法書もない言語ですが、このような言語を記述するためには現地調査(フィールドワーク)が欠かせません。フィールドワークには、言語学的技能や媒介言語(マレー語と英語)の運用能力が必要なのはもちろんですが、気力と体力、高度なコミュニケーション能力、人間に対する好奇心や寛容さ、異文化を尊重する心など高い人間性が要されます。ケラビット語の包括的な記述のためには、言語学的技能を更に磨き、継続して調査を行う必要がありますが、武内さんの高い人間性と今回の調査に要した多大な努力を評価して、言語学研究室では武内さんの卒論を優秀論文に選出いたしました。

○「砺波平野西部の変位地形と地形発達」地理学・考古学・文化財学コース 地理学専攻 向野拳史

 北陸地方に分布する平野の山際には逆断層が通過しており、平野と山地との地形分化に関与しています。砺波平野も例外ではなく、東西両縁に逆断層が通過しています。しかし、砺波平野西部では明瞭な地形の発達に乏しいことから,実証的な研究はありません。

 そこで本研究では、変動地形学・地質学的な研究を行い、砺波平野西部の活断層とそれに影響を受けた地形発達を検討しました。

 研究の結果、砺波平野北西部には傾動する孤立丘とその南北延長に活断層によって変形を受けたと考えられる地形が認められました。本研究では、高岡断層と新称しました。普通、河川は高いところから低いところに流れ、それに伴い地形も上流から下流に向かって傾くはずです。しかし、これらの変形はその傾斜に逆らっています。

 さらに、高岡断層の近くには隆起運動を示す海成段丘が発達し、その旧汀線が変形しています。旧汀線とは、昔の海岸線が隆起して陸化したものです。海岸線は水平なので、もし一様に隆起すれば同様に水平になるはずです。しかし、ここでは傾いていることから、高岡断層の運動によって変形したと考えられます。

 高岡断層は、地質学的にもその存在が支持されます。地質断面から、最終氷期極相期(約20,000年前)から現在にかけて堆積した沖積層に変形が見られます。高岡断層の隆起側と沈降側で、沖積層の分布高度が異なり、その連続性が食い違っていることが確認できました。

 これらのことから砺波平野西部では、従来報告されていない活断層が存在し、その活断層の影響を受けながら様々な地形が形成されてきたことが分かりました。さらに、高岡断層は高岡市街地を通過することから、防災の観点からも重要であり、今後さらなる検討が必要だと考えられます。

[指導教員のコメント:後藤秀昭准教授]
 向野拳史君は、活断層に関する新しい知識を生み出し、自分の子どもに名前を付ける前に、活断層に名前を付けました。名付けの親として大変熱心に研究を行いました。
 向野君の研究した北陸の平野では、日本列島の平野周辺でみられる典型的な変動地形が発達しています。出身地でもない富山県に出向き、合計約3週間に及ぶ野外調査を行うとともに、粘り強い室内での分析作業により,これまで十分に知られていなかった砺波平野の西縁に分布する活断層について実証的な研究を行いました。
 ゼミでは鋭い指摘も受けることもありましたが、クラブ活動で鍛えたサッカーのゴールキーパー
らしく、最後まで粘り強く、仮説を立て直しながらデータを追加して、検証を行いました。
 卒論研究に注いだ努力は高く評価できると思います。今春からは希望の職種で働くことになっています。研究を通して得た経験が、社会人としての生活の助けになるものと信じています。新天地での活躍を祈っています。

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【3. 文学研究科(文学部)ニュース】

○広島大学応用倫理学 プロジェクト研究センター ミヒャエル・クヴァンテ氏
講演会を開催します

【日時】2015年 3月27日(金)・ 28日(土)
【場所】広島大学文学研究科(文学部) 1階大会議室

詳しくは、文学研究科HPをご覧ください。

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【4.広報・社会連携委員会より 水田 徹】

  今年もまた、別れと出会いの季節がやってまいりました。
 文学部・文学研究科でも将来有望な多くの学生が巣立っていき、将来に向かって大きな夢を持った多くの学生が入学してきます。その受入れ側であります教職員の方では、今年度は教員2名、事務職員1名が、定年退職を迎えられ、この度のメルマガにご投稿いただきました。それぞれの想いが込められた内容であり、読者の皆様は、感慨深く読まれたのではないでしょうか?

 さて、話は変わりますが、日本の大学は変革の渦の真っただ中にあること、このことは、関係者ならば間違いなく誰もがそう感じていると思います。そういった中で、広報・社会連携委員会の役割とは?広報の部分を改めて考えてみました。あくまで私見ですが、、、

 広報とは?どうすべきなのでしょうか?まずは、世間の人に文学部・文学研究科のことを伝えることなのでしょうが、何を、いつ、誰に、どこで、どのように、何のために伝えるのか?伝える相手のことをよく考えて、それなりの手段、方法を駆使して広報していく必要があると思っています。ところが、部局の財政状況も年々悪化の一途をたどっており、いろいろなところで、経費削減策が講じられています。広報・社会連携委員会でも同様な状況で、潤沢にお金がある訳でもなく、限られた中でやりくりをしながら活動を行っているのが実状です。そのような状況の中ではありますが、委員一同、新年度に向けて新たな企画を考えています。
 読者の皆様!次号以降のメルマガも、どうぞお楽しみに!!!

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長 勝部 眞人
編集長:広報・社会連携委員長 吉中 孝志
発行:広報・社会連携委員会

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