メールマガジン No.71(2016年1月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.71(2016年1月号)
2016/1/22 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.リテラ「21世紀の人文学」講座2015に参加して
2.広島大学公開講演報告
3.第34回 内海文化研究施設 季例会・公開講演会報告
4.今月のコラム
5.文学研究科(文学部)ニュース
6.広報・社会連携委員会より

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【1.リテラ「21世紀の人文学」講座2015に参加して 広報・社会連携委員会委員長  吉中孝志】

  本年度のリテラ「21世紀の人文学」講座は、「『終活』を哲学しよう―生と死の幸福論―」と題して例年通り広島市袋町にある市民交流プラザで12月5日(土)に行われました。広報・社会連携委員会では、魅力的なキャッチ・コピーをつけることができたとはいえ、受講募集時には一抹の不安を抱えていました。例年の受講生には年配の方々が多いこともあって、老いや死といったテーマがあまりにおどろおどろしすぎて人が集まらないのではないか、と懸念したからです。しかし、募集を始めてみるとむしろ大反響で、100人の定員に対し121人の申し込みがあり、抽選で受講生を選ばねばならなかったほどでした。

   講師は、本学大学院研究科応用哲学・古典学講座の松井富美男教授と根本裕史准教授でした。まず最初の90分は、松井先生が「新たな人生の出発としての老い」について話されました。中国での老いの概念や実例と比較しながら、「老い」が社会的に、他者の視点で創出されること、我々の身体的なレベルと精神的な認識のレベルでは老いや死に対する捉え方が違うこと、そして生命倫理からみた終活について話され、老いの心構えとして内省的生活を重んじて現在を生きるべきだという提案をされました。いかなる死に方がよいか、という議論では「ぽっくり死ぬ」という多くの人の望みは、死ぬ直前まで元気でいたいということだから、実際は元気でいればその時には死にたくないのかもしれない、「ぽっくり死にたい」というのは「死にたくない」という意味だ、という鋭い指摘や、老いの心構えとして「若い」という言葉に舞い上がらないで老いを自然に受け止めるべきだというユ-モアあふれる指摘は会場を沸かせていました。

  個人的には、松井先生が引用されたボーヴォワールの『老い』の一節が収穫でした。社会や他者は「老人たちに押し付ける彼らの崇高化された姿、それは白髪の後光をおびた、経験豊かな尊敬すべき賢者のイメージ」を強要し、「老人が若い人々と同じ欲望、同じ感情、同じ欲求を示すと、彼らは世間の非難を浴びる。老人の場合、恋愛とか嫉妬は醜悪あるいは滑稽であり、性欲は嫌悪感を起こさせる」という件です。画一化し、硬直した考え方に対する警鐘だと思います。

  続く90分は根本先生が、日本学術振興会の海外特別研究員として一年間滞在調査された東チベットの写真を紹介しながら、「チベットの臨終儀礼に学ぶ死の迎え方」について話されました。チベット仏教にある「居場所を変える」という意味の「ポア」の儀礼が、かつてオウム真理教によって使われた用語、実態とどのように異なるかを教えていただきました。厳しい環境にあるチベットの人々が死を「ドライに捉える」とともに、臨終儀礼が死者の意識を浄土に向かわせるためにどのような教えを伝えているか、特に、死んで生まれ変わるまでの間の「中有」と呼ばれる期間にどのような体験をするかをチュサン・ラマの『ポワの作法』から引用、翻訳されて話されました。チベット仏教のお葬式では、まだ死者の霊が近くに存在しているため、残された者たちが泣いたり争ったりすることは、霊が浄土へ旅立つのを妨げてしまうため厳禁であること、死者は、財産や身体への執着を捨てるべきであることといった教えが印象に残っています。身体レベルでは、人は死にたくないと思っている、という松井先生の指摘と、宗教的、霊的なレベルでは、人は身体を離れることをむしろ喜んでいるという根本先生の指摘は、二つのお話を連続して聴くことで新たに考えさせられた問題でした。質疑応答の時間も、講義終了後も多くの受講者が感想や質問で講師をすぐには離してくれませんでした。

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【2.広島大学公開講演報告 歴史文化学講座教授 八尾隆生】          

  昨年11月7日から3週にわたり、広島市まちづくり市民交流プラザにて『広島大学公開講演』「神になった?東アジアの英雄達」が開催されました。

  この講演ですが、歴史文化学講座にお話しが来たとき、共通テーマ策定が最初の問題となりました。若い世代の歴史離れが進んでいるといわれていますが、歴史上の「英雄」をとりあげると高校生もひょっとして聴きにきてくれるのではないか?将来うちの分野に来てくれるのではないか?という切実なる野望のもと、上述のテーマに従って東洋史学の教員三人(太田出、金子肇両先生に私こと八尾隆生)が講演役を勤めました。

  太田先生の講演人物は、『三國志』の英雄関羽と、台湾の基礎を築いた鄭成功です。最近のある調査では日本人の好きな歴史人物の中で中国人では曹操がトップだとか。しかし中国での神としての信仰では関羽がダントツです。かたや鄭成功は日本人の血も引いているなじみの深い英傑です。

  金子先生の講演人物は、中国近代史には欠かせない孫文と蔣介石。最近中国で毛沢東の像をあちこちで建て始めて問題になっているという話しが漏れ伝わってきます。毛沢東は何故出てこないんだあというお声もありましょうが、そこはやはり先生のこだわりでしょうか。

  八尾の講演人物は、13世紀のモンゴル軍との戦いでベトナムの英雄となったチャン・フン・ダオ(陳興道)と、フランス・日本・アメリカと闘い、現ベトナムの建国の父とされるホー・チ・ミンです。後者はともかく、前者はマイナーすぎ
て聴いてもらえるか、とても不安でした。元寇つながりだけが頼り・・・

  各回の聴衆は50名前後で、どの講演とも、盛況のうちに無事終了いたしました。どこかの教室とは違って居眠りする人などいません。「今度、関帝廟にいってみよう」「孫文と蔣介石も意外と評価逆なんだね」「蒙古ってどこまで攻めこんだの」など、歴史通らしい感想も沢山いただきました。八尾の場合はベトナムの話し自体が珍しいのか、講演が終わっても「旅行に行きたいんでいろいろ教えてください」と帰してもらえないモテ期がおとずれました。他の両先生も同様で、恐怖の反中意見が出るかとびびっていましたが問題なし。一般の方々の中国への興味は大いにあるのです。マスコミが騒ぐほど日本人は愚かではないと安心いたしました。不安なのはやはり・・・うちの学生でしょうか。勉強しろよ~                            

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【3.第34回 内海文化研究施設 季例会・公開講演会報告 歴史文化学講座教授 中山 富広】

  昨年11月30日、「幕長(長州)戦争と厳島」と題して、季例会が大会議室において開催された。講師は広島大学名誉教授・三宅紹宣氏である。氏は明治維新史研究者として著名で、当日は大詰めを迎えていたNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の影響もあってか、来場者が50名をこえるという盛況ぶりであった。

  三宅氏はその「花燃ゆ」の時代考証を担当されたので、導入としてNHKの時代考証の内幕をまず披露してくれた。1回の放送につき脚本の点検を3回行うとのこと(つまり3度郵送されてくる)、しかしあらすじに「いちゃもん」を付けることはできず、史実と違うといっても聞入れてもらえないとのことであった。主に身分的上下関係に留意しながら、セリフの言い回しに間違いがないかということをチェックするのが、時代考証の仕事だと述べられた。しかも驚いたのは、その脚本を公開してはならず、古本屋に持ち込むことも禁じられており、ご自宅に約50回分☓3冊が書斎の本棚のスペースをかなりぶんどっているとのことである。

  さて講演内容は、慶応2(1866)年の第2次長州戦争を中心に話された。パワーポインターに加えA3のレジュメが9枚用意されて、その点でもわかりやすく充実した内容であった(当然だが)。私たちは長州藩の奇兵隊が洋装で、幕府軍が旧来の甲冑姿の軍勢を想像していたが、何と幕府軍もフランス式の洋装であったのである。また長州軍の散兵戦術の巧みさを詳細に解説され、長州軍勝利の理由が示された。そのほか、さまざまな興味深いエピソード、たとえば幕府軍和平交渉責任者であった勝海舟が、厳島神官たちに、どこの馬の骨だかと思われて奉納の短刀を受け取ってもらえなかったことなどなどを交えながら(メモをとらなかったので忘れてしまった、すみません)、盛会のうちに無事終了した。

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【4.今月のコラム】
真のねらい −たおやかプログラムに参画して− 地表圏システム学講座(地理学)教授 友澤和夫

  博士課程リーディング・プログラムは、「大学院教育の抜本的改革を支援」する事業と定義されている。私がかかわる「たおやかプログラム」も発足してから2年が経過し、抜本的改革の意味するところが徐々に分かってきた。

  たおやかプログラムの公用語は英語であり、授業も当然ながら英語で行う。これまで英語による授業の経験がなかった当方も、本プログラムが対象とするフィールドの1つがインドであることに対応して、Geography of Contemporary Indiaという授業を新たに立ち上げることになった。どのような内容を、どのように教えるかについてはかなり考えたが、実習や演習的要素も取り入れることにした。たとえば、インド・センサス局のウェブサイトからデータを入手し、州ごとに人口ピラミッドを作成させて、それが大きく異なる要因を議論したり、大規模工業団地の周辺村落において過去10年間で人口や就業構成がどのように変動したのかを数値に基づいて議論したりしている。近い将来インドでオンサイト研究を行うに際して、学生にはどこにどのようなデータがあるのか、それはどう活用できるのかを知っておいてもらいたいからである。学生の英語力には差があること、当方の英語もかなり怪しいことから、一方的な講義形式だと授業の生産性が大きく低下してしまうので、このような方法を採った面ももちろんある。

  また、授業のみならず、学生の公式・非公式の研究指導も英語で行っている。こうしたこともあって、自分の英語力の客観的位置づけを知るために、53歳を目前にして初めて英語の資格試験(TOEIC)を受けてみた。マークシート方式の試験を受けるのは共通一次試験以来であり、広島女学院大学の試験室を見渡しても私より年長の人はおらず、かなり場違いな感じであった。試験自体も、最後まで解くには時間が全く足りず、しかも途中でそれがはっきりと分かってくるので、相当な焦りを感じてしまった。この話を浪人中の子供にしたところ、「その感覚はよく分かる。はははー。」と笑顔で一蹴されてしまった。結果は良くもなく悪くもなく、やはり怪しいスコアだった。私より1ヶ月前に受験した妻のスコアを5点下回ってしまったことを発憤材料に再度受け直すか、それとも誤差の範囲とみて開き直るか思案している所である。

  また、私は本プログラムの中では、文化創生コース主任・入試委員長という役目をいただいている。だからといって他の学内業務が免除される訳ではなく、むしろ増える傾向にあり、半分は体力勝負の日々を送っている。体力と健康の維持のために前々から水泳に取り組んでいたが、今年度から泳ぐ距離を1回当たり2000メートルに増やした。週2回のペースでプールに通っており、良い気分転換になっている。この効果は健康面にもストレートに表れ、先日受けた人間ドックの検査項目の中で、血圧を除いて前年より数値が悪化したものはなかった。

  このように、たおやかプログラムに参画することにより、私は教員個人として、英語による授業の遂行能力向上、英語に対しての意識向上、血圧は上がり気味であるが体力・健康の増強という形で、少なからずの効用を得たことになる。リーディング・プログラムの定義で言うところの「大学院教育の抜本的改革を支援」は、「大学院教員の抜本的改革を支援」と同義なのである。文部科学省の真のねらいは、ともすれば日常に流されがちな50歳台教員の鍛え直しにあったのかもしれない。

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【5. 文学研究科(文学部)ニュース】

○2016リテラ芸術鑑賞会 バレンタイン狂言会を開催します
【日時】2月14日(日)13:30開場 14:00開演 (終了予定時刻16:30)
【場所】東広島市民文化センター アザレアホール(サンスクエア東広島3階)
【プログラム】
■第1部 ミニ講義
「入試に役に立つ(かもしれない)古典の言葉」
講師:妹尾好信(文学研究科 教授)
■第2部 バレンタイン狂言会 出演:茂山千五郎家
「御茶の水」「濯ぎ川(すすぎかわ)

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【6.広報・社会連携委員会より  硲 智樹】

  今年は暖冬傾向にあって極寒の地と噂される(?)ここ西条でも冬が来たと実感することがなかなかありませんでしたが、ようやく最近になって本格的に寒くなり冬の到来を感じるようになりました。しかし、どれほど寒くなったとしても、文学研究科の先生方による諸講演とそれを熱心に受講する方々の熱気を冷ますほどではないようです。
  今回のメルマガは、リテラ「21世紀の人文学」講座、広島大学公開講演、内海文化研究施設・季例会・公開講演に参加した諸先生方によるご報告、友澤先生によるコラム、文学研究科のニュースと、読みごたえのあるご報告が揃っており、いずれからも文学部・文学研究科の活動の様子がよく窺えるものとなっております。是非ご味読いただければ幸いです。
                    
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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長 勝部 眞人
編集長:広報・社会連携委員長 吉中 孝志
発行:広報・社会連携委員会

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