メールマガジン No.101(2021年1月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.101(2021年1月号) 2021/1/26

□□目次□□
1.特別講義「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」レポート
2.リテラ「21世紀の人文学」2020講座レポート
3.文学部ニュース
4.広報委員会より

1.特別講義「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」レポート【日本文学語学分野 妹尾好信教授】

   能楽師 鈴木啓吾さんによる特別講義「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」が開催されました。

 昨年10月28日、東京で活動する観世流能楽師シテ方、鈴木啓吾さんが「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」という題目で特別講義をしてくださいました。

 一乃会という一般社団法人の代表理事である鈴木さんは、一般社会や教育現場への能楽の普及に努めておられ、毎年全国の小中学校などで巡回公演をなさっています。今回は、広島県をはじめとする中国地方の学校を巡る公演旅行の途中に、特別に広島大学に立ち寄って文学部で講義をしていただくことになりました。

 能とはどういうものか、その発生と歴史的展開、曲目の分類などについて、基礎的な知識をわかりやすく解説してくださったあと、『伊勢物語』の「筒井筒」を題材にした謡曲「井筒」を朗読、さらにはそのさわりの部分を謡い舞って実演を披露してくださいました。受講者は、間近に見聞きするプロの発声や優雅な所作に感動しきりでした。

 講義には、マネージャー役をなさっている奥様の秀子さんが能装束や面、扇などを持って東京から駆けつけてくださり、豪華な能楽関連グッズを会場に展示して、実物を見ながら解説を加えていただくこともできました。

 コロナ禍でほとんどの催し物が中止になってさびしい中で、今回の特別講義はふだん触れることが難しい古典芸能を実見できる貴重な機会になりました。また、講義は中国から来日できないでいる留学生たちにもオンラインで配信され、海外にいながら日本の伝統芸能を知ることもできました。

 まったくのボランティアで至れり尽くせりの特別講義をしてくださった鈴木さんにはただただ感謝するばかりです。これを契機として広島大学文学部とのご縁がこれからも続くことを願っています。

復曲能『鈴木三郎重家』鈴木啓吾
(平成30年3月29日、第19回一乃会特別公演、国立能楽堂)/撮影・駒井壮介

『藤』鈴木啓吾
(平成28年5月8日、観世九皐会定例会、矢来能楽堂)/撮影・駒井壮介

   講演していただきました鈴木啓吾氏から感想をいただきましたので、掲載いたします。

広島大学文学部にての特別講義
「日本の伝統芸能・能と謡の世界」を終えて   観世流能楽師 鈴木啓吾

 妹尾好信先生、西原大輔先生、久保田啓一先生のお計らいにより昨年の10月28日、文学部と教育学部の学生を対象とした、能楽に関する特別講義をさせていただきました。

 広島県には、宮島の厳島神社能舞台、福山市に喜多流の大島能楽堂、そして広島市の文化複合施設アステールプラザの中ホールに移動式の能舞台があります。しかし、残念ながら公演の数が少ないので、多くの方が能楽を享受出来るとは言い難く、よって広島大学に通う学生も、そのほとんどが能楽との接点を持てぬ状況である事から、「能楽とは?」という入り口からお話を申し上げました。能の根本である『翁』の話から「五番立て」といわれる能の演目の分類や、典拠となる歴史や文学作品の資料のこと、また「初心忘るべからず」など世阿弥の残した幾つかの有名な言葉を取り上げて解説し、『伊勢物語』を典拠とする世阿弥作の夢幻能『井筒』について解説、最後に『井筒』の仕舞をご覧いただきました。

 もとより能を演ずるのが私の本業でございます。研究者ではありませんので、学術的というよりは感覚的なお話が多く、どれほど学生の皆さまのお役に立つことが出来たかは疑問ですが、今回の講義をキッカケに学術の面でも、また趣味の面でも能楽と接点を持ってくださる若い方々が増えて頂ければ何よりもって幸いに存じます。

 妹尾先生、西原先生、久保田先生はじめ、講義にお力添えを賜りました諸先生、そしてサポートしてくださいました学生の皆さまに心より御礼申し上げます。

〈鈴木啓吾氏 プロフィール〉
観世流シテ方能楽師。1963年生れ。
重要無形文化財認定(能楽総合)保持者。
一般社団法人日本能楽会会員。公益社団法人能楽協会会員。
公益社団法人観世九皐会所属。三世 観世喜之に師事。
一般社団法人一乃会代表理事。一乃会 神楽坂 遊楽スタジオ代表。
著書『能のうた―能楽師が読み解く遊楽の物語―』(新典社、2014)
『続・能のうた―能楽師が読み解く遊楽の物語―』(新典社、2020)
明治大学文学部文学科卒。

展示された能装束を説明する鈴木氏

鈴木氏の講演の様子

舞いを披露する鈴木氏

展示された面や扇

2.リテラ「21世紀の人文学」2020講座レポート【比較日本文化学分野 劉 金鵬助教】

   令和2年度の「21世紀の人文学」は、2020年12月5日(土)に、ウェンディひと・まちプラザ(まちづくり市民交流プラザ)で無事に開催されました。今年は、ソーシャルディスタンスを確保するため、例年より人数が少なく定員50名の開催となりました。講師を務めた中村平先生と私は、「戦後・アジア・広島」という3つのキーワードをテーマに講義を行いました。

  先に登壇した私は、一般市民に向けての講座に参加するのははじめてでした。本当は緊張を抑えながらですが、老舎の『駱駝祥子』という作品のことで話を切り出して、広島にも縁が深い日本語訳者である竹中伸氏のことを引き出していきました。戦後しばらく広島文理科大学で教員を務めていた竹中伸先生は、様々な苦難を経験し、広島で暮らした日々を日記に記しました。その苦境のなか、精神的な支えとなったのは外交官時代に出会った老舎の文学でした。一時活動の舞台を東京へ移しましたが、最後に念願の日本語版『老舎小説全集』を完成させたのも、やはり広島に戻ってからでした。受講者の方に聞いたところ、ほとんど竹中伸について知られていませんでしたが、なんと一名の方だけ、知っていると手を挙げてくださいました。驚きでした。

   第二部では、台湾で長らくフィールドワークをされている中村平先生が、台湾先住民の方から直に聞いた話を解説しながら紹介しました。戦前、日本人と先住民との間で対抗と「和解」が繰り広げられる物語が、いまの創り出されている「平和社会」に生きている人々には知られてこなかったことは、まさに植民地支配に対する認識の現状を象徴しています。興味深いのは、「平和」を訴える広島でも、帝国日本の経験において台湾と結びついていると考えられることです。日清戦争の勝利を記念して作られた「凱旋碑」が、戦後そのまま「平和塔」に変身したことや、様々な「平和」言説に帝国の拡張によって犠牲とされたアジアの人たちが不在であることなど、外部からの視点で広島を捉え直すときに、これまで構築されてきた「平和都市広島」の弱点がはじめて見えてきました。中村先生の講義を聴き、いま「原爆が平和を奪った」という認識について教室にいるみんなで一緒に問い直している、その場の雰囲気を強く感じました。
 
  特に中村先生の講義は人気を博し、「台湾の先住民からの聞き取りに特に興味を持った」、「広島の平和言説の意義、改めて考えさせられました」など、受講者からたくさんのコメントを寄せて頂きました。講義の直前から広島市でコロナ感染症が広がる兆候が見えていたため、質疑応答の時間は設けられませんでしたが、「広島から考える歴史・広島から考える世界」の良いきっかけとなったのではないかと、思った次第です。

劉 金鵬 助教(比較日本文化学分野)
『駱駝祥子(らくだのシアンツ)』からの始まり
―老舎と竹中伸―

中村 平 教授(比較日本文化学分野)
台湾と広島を結ぶ:帝国日本の植民地と戦争、平和

3.文学部ニュース

○令和2年度広島大学学位記授与式(卒業式)を開催します。
今年度は、新型コロナウイルス感染症対策のため、学部卒業生と大学院修了生で2回に分けて開催いたします。
※ 詳細は広島大学HPをご覧ください。

4.広報委員会より【広報委員会委員 白井 純】

 メールマガジン第101号は、新型コロナウイルス対策をとったうえで実施された、能楽師の鈴木啓吾さんをお招きしての特別講義「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」の妹尾先生による紹介と、劉先生・中村先生の講義「リテラ「21世紀の人文学」2020講座」のレポートを掲載いたします。
 「日本の伝統芸能・能と謡(うたい)の世界」には私も参加しましたが、能を楽しむための解説だけでなく、衣装の展示や謡曲の実演もあり、とても充実した講義でした。能楽師としての裏話には度々笑いが起こり、時間が無くなるのが惜しいという雰囲気で、私などは自分の講義の様子を思い出して反省しきりでした。
 リテラ「「21世紀の人文学」2020講座」は、ソーシャルディスタンスに配慮したためいつもより少ない人数でしたが、「戦後・アジア・広島」をキーワードとする講義は、広島に、そして広島からつながる歴史や世界を改めて思い起こさせるもので、盛会だったと聞いています。
 新型コロナウイルスの拡大は収まらず、様々なイベントが中止になったり規模を縮小したりしています。そのなかで開催された二つのイベントは、市民の皆様や学生院生・大学関係者の、学びを楽しむことへの熱意が強く感じられるものでした。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学文学部長  友澤和夫
編集長:広報委員長  末永高康
発行:広報委員会

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