メールマガジン No.107(2022年1月号)

リテラ友の会 メールマガジン  No.107(2022年1月号) 2022/1/26

□□目次□□
1.リテラ「21世紀の人文学」講座2021レポート
2.2021年度広島大学公開講座レポート
3.第18回「文藝学校」講演会に参加して
4.オンライン講演会「時事通信社·パリ特派員が見たフランス」レポート
5.広島独文学会主催 第2回レクチャー講演会レポート
6.オリキャン主催運動会レポート
7.広報委員会より

1.リテラ「21世紀の人文学」講座2021レポート【哲学・思想文化学コース(中国思想文化学分野)教授 末永高康】

  2021年12月4日午後にリテラ「21世紀の人文学」講座2021が合人社ウェンディひと・まちプラザ(まちづくり市民交流プラザ)で開かれました。今年は『疫病の時代を生きる』をテーマに、西洋史学分野の足立孝准教授と中国思想文化学分野の有馬卓也教授が講演をされました。まさに疫病の時代を生き抜くことを強いられているわれわれの現況に即したテーマであったこともあり、会場はほぼ満席で(コロナ対策で座席は一つ置きに指定されていましたが)、受講者も演者の話に熱心に聞き入っていました。

  足立先生は「中世ヨーロッパにおける予防医学とその実践」と題して、ペストの流行した14世紀の中世ヨーロッパの状況を、特にスペインのカタルーニャ地方の諸都市に焦点を当てて話されました。中世医学はペストの治療に関してはほとんど無力であったものの、公衆衛生観念の発達を促し、疫病の予防に大きく貢献していたとのことで、最初にペストが流行した1348年にリェイダ大学教授の医師ジャウマ・ダグラモンがカタルーニャ語で執筆した『ペスト予防法』をとりあげ、そこで主張されていた患者の隔離、遺体の城壁外への埋葬、汚物や屠殺された家畜の処理等のペスト予防法が、当時の都市当局によってどのように実現されていったかについて具体的に話をされました。

  有馬先生は「古代予防医学の世界」と題して、原因不明な病気に対する古代中国の予防医学について近年の出土資料による最新の知見を含めて紹介するとともに、江戸後期から明治初期における疫病への対応の様子を当時の錦絵を示しつつ話をされました。原因が解明できない病気に対して呪術的な治療で対処するという思考が、明治維新の頃まで根強く残っていたことに驚かされるとともに、疫病予防策による経済的犠牲者となった芸者や魚売りたちが強訴する錦絵などにどこか既視感を覚え、時は変われども人は変わらないと感じさせられました。

足立孝准教授

足立孝准教授
「中世ヨーロッパにおける予防医学とその実践」

有馬卓也教授

有馬卓也教授
「古代予防医学の世界」

2.2021年度広島大学公開講座(後期)の報告【地理学・考古学・文化財学コース(地理学分野)准教授 後藤秀昭】

 2021年度の広島大学公開講座(後期)では、文学部からは「フィールドから読み解く地域の特徴と文化」というタイトルで3回の講義を行った。昨年度は新型コロナウイルスのパンデミックにより中止となり、今年度はオンラインでの実施となった。オンラインの講座は大学の事情もあり、無料での開講となった。以下、簡単に講座の内容を紹介し、ご報告したい。

 最初となる11月27日(土)には「古建築から地方を読み解く」と題し、中村泰朗先生から古建築には地方ならではの独自性すなわち「地方色」が現れる様子を解説した。古建築の基本的な見方を解説するとともに、中国地方の建物に見られる地方色を考えてもらう内容であった。12月4日(土)には、「日本の「村おこし」を地理学から考える」と題し、後藤拓也先生が、現代日本では農村の過疎化が深刻な問題となり、各地で「村おこし」と呼ばれる地域振興が行われてきた様子を解説した。日本の「村おこし」がどこから発祥し、どのように広がっていったのかを、農業・農村地理学の視点から考える内容であった。最後は後藤秀昭が、12月11日(土)に「土砂災害を地理学から考える」として、平成30年7月豪雨によって発生した土砂災害の概要やその要因について解説するとともに、今後、増加が予測されると考えられる豪雨に対し、その向き合い方について地理学からの考えをお話しした。

 受講登録者は70名程度であったが、実際の受講者は半分以下とやや小規模なものとなった。オンラインという性格上、双方向のやり取りが難しく、受講者の様子はよく解らなかったが、途中で退出される方はなく、90分間、熱心に聞いていただいたと思っている。オンラインのため、参加者は関西など広域的になり、新たな可能性が感じられた。また、市民の方々からは何が求められているかを考える貴重な機会となった。参加された方々に感謝申し上げたい。

3.第18回「文藝学校」講演会に参加して【日本・中国文学語学コース(中国文学語学分野)教授 川島優子】

 令和3年12月25日(土)、第18回「文藝学校」講演会がオンラインで開催されました。前年度は新型コロナウィルスの感染状況をにらみつつ、8月の開催を模索しておりましたものの、やむなく中止となりました。今年は二年ぶりの、かつ初めてのオンラインによる開催です。

 今回のキャッチフレーズは「困ったときこそ、人文学」。コロナ禍の今だからこそ、聴きたい話が並びました。講師と講演タイトルは、発表順に、前野弘志教授(西洋史学分野)「パルテノン神殿の宝物庫を覗く―古代ギリシア語碑文学への誘い―」、今林修教授(英米文学語学分野)「『不思議の国のアリス』を英語で楽しく読もう」、川島優子(中国文学語学分野)「中国の小説と日本人」、そして位藤邦生名誉教授(広島大学名誉教授)の「新出『源氏物語』「若紫寸見」」でした。

前野弘志教授
「パルテノン神殿の宝物庫を覗く―古代ギリシア語碑文学への誘い―」

今林修教授
「『不思議の国のアリス』を英語で楽しく読もう」

 初めてのオンライン開催ということで不安もありましたが、25名ほどの方にご参加いただきました。前野先生は、古代ギリシア語のミニ講座を交えながら、神殿内の碑文の解読をされました。貴重な写真も多数ご披露いただき、海外渡航が自由にできない中にあって、遠いアテネの地に思いを馳せることができました。今林先生は、『不思議の国のアリス』誕生の背景を丁寧に踏まえられた上で、美しい朗読とともに、原文の一部を解説なさいました。知っているつもりの作品に、いくつもの新たな発見がありました。川島は、中国の小説、特に『水滸伝』『金瓶梅』といった明代の小説が、江戸時代の日本人にどのように受容されたのかについて、お話しさせていただきました。位藤先生は、会場からの質問にも答える形で、『源氏物語』の様々な魅力について、和歌を、また外国文学との関わりをも交えながら語られました。長年研究を重ねてこられた先生のお言葉ひとつひとつには、大変な重みが感じられました。

川島優子教授
「中国の小説と日本人」

位藤邦生広島大学名誉教授
「新出『源氏物語』「若紫寸見」」

 思えば、人類の歴史は感染症との闘いでもありました。そうした中でも、文学は絶えることなく、人々に希望を与え、読み継がれてきたのです。コロナ禍のような非常時において、人文学は何の役に立つのか、人文学に何ができるのか。我々が日々直面している問いでもありますが、その答えの一端が窺えた一日だったように思います。ただ、オンラインには利点も多くあるものの、受講者の方々のお顔が見えないのはやはり寂しいところがありました。一日も早くコロナが終息し、次回はぜひ米子で開催できるよう願っております。

4.オンライン講演会報告:時事通信社・パリ特派員が見たフランス【欧米文学語学・言語学コース(フランス文学語学分野)教授 宮川朗子】

  2021年11月30日18時より、フランス文学語学教室の主宰で、時事通信社・パリ特派員の櫻田玲子氏によるオンライン講演会が開催され、50人ほどの聴衆が、現在のフランスの状況を伝えるお話に耳を傾けました。フランス文学語学研究室によるオンライン講演会は、マリ=ノエル・ボーヴィウ准教授の尽力によって昨年から始まり、今回で4回目(第1回目は日本フランス語フランス文学会中国・四国支部会との共催)となりました。

 櫻田氏は、最初に自己紹介をしながら、通信社や新聞社、テレビ局などで働く記者のうち、海外を拠点に活動する記者である「特派員」の仕事について述べられた後、元日産自動車社長のカルロス・ゴーン氏の事件の際、氏の拘留に関して、習慣の違いから誤解を招きかねない報道がなされてしまったことを例に上げ、文化的背景の違いもふまえた上での報道の難しさをお話しされました。

  続いて、新型コロナウイルス感染拡大後のフランス国内の様子や人々の暮らし、来年行われる大統領選挙の候補者と現段階での評価など、時事的な話題をわかりやすく解説してくださいました。

 会場からは、特派員に必要な資質や予審という日本には馴染みのない裁判の制度、パリの治安などについての質問があがりました。

 時事的なニュースは、テレビやインターネット上で簡単に知ることができるとはいえ、報道のプロの社会情勢の見方を知り、かつ直接質問できたことで、参加者にとっては、遠いフランスの問題を、身近にある手段で学ぶ貴重な機会となりました。

時事通信社・パリ特派員  櫻田玲子氏

時事通信社・パリ特派員  櫻田玲子氏

5.広島独文学会主催第1回、第2回レクチャー講演会報告【欧米文学語学・言語学コース(ドイツ文学語学分野)教授 小林英起子】

 広島独文学会は1980年、谷口幸男先生を代表とするドイツ語学文学の先生方による呼びかけで発足し、広島から研究を発信する学会です。この学会はドイツ文学、語学ならびにドイツ語教育の研究と発展につとめて、昨年は発足から40周年を迎えました。かつて総合科学部に大勢ドイツ語教員がおられた頃は隔月で研究発表会を行なっていました。近年は1年に2回程度行ない、海外から来日中の教授や作家を招いて講演会や朗読会も行なってきました。大学院生など若手研究者が研究発表できる入り口にもなっています。

 コロナウィルスの影響で2020年来日予定のドイツ人教授の講演会が中止になり、緊急事態宣言下で例会をオンライン開催に切り換えました。渡航はもとより、隣の町への移動も厳しく制限された状態が続くと、遠いヨーロッパで話されるドイツ語やドイツ文学を学ぼうとする学生のモティベーションが上がらないようです。私にはここ2年くらいの間で学生の外の世界に対する興味が急速に失せて、意識が内向きになっているのを感じます。広島独文学会として何かできることはないか検討し、ドイツ語教育振興のために、オンライン手段を活用して遠方や外部の専門家を講師にお迎えして、学生や一般人向けのレクチャー式の講演会を企画しました。事前のポスター作成には文学部情報企画室の山本庸子さんにもご協力いただきました。

田中雅敏教授 スタジオ録画風景

田中雅敏教授のスタジオ録画風景

第1回レクチャー講演会ポスター

第1回レクチャー講演会ポスター

 広島独文学会が誇れることの一つに、独文専攻の優秀な卒業生が全国で活躍していることです。第1回の講師として東洋大学の田中雅敏先生(独文出身)に白羽の矢をたてました。田中先生はNHKラジオ講座「まいにちドイツ語」の講師を2回務められました。2021年11月27日土曜日午後、「ドイツ語(再)発見の旅」と題して、田中先生の密度が高く熱いレクチャー講演会が行なわれました。広島大学と東洋大学、福山、松山、東京、京都などにいる会員や学生とオンラインで繋がりました。田中先生は豊富な画像、動画を駆使し、初級から上級ドイツ語学習者まで対象とするくらい巧みな話術で講演をすすめました。日独文化の違い、留学したザルツブルクの様子やドイツ各地の様子、クリスマス文化を時折、クイズも交えて紹介されました。学生達には先生の話題の豊富さと映像の魅力が大変好評でした。教員も授業をするうえでの示唆をいろいろと受けました。

第2回レクチャー講演会ポスター

第2回レクチャー講演会ポスター

 2021年12月18日第2回レクチャー講演会は、総合科学部河合信晴先生による「1990年以降の東ドイツイメージの変遷-映画を手がかりに」でした。隣接する歴史学や政治学分野の専門家から東ドイツの実情について直接お話を聞けるメリットも大きく、ベルリンの壁を知らない世代の学生と合わせて教員からも期待が高まりました。著作権の関係でオンラインでは映画を流せませんでしたが、河合先生は画像資料や写真、統計などを示して熱く語りました。先生は旧東ドイツにおけるネオナチのイメージは、旧西ドイツ側のメディアが作り上げた部分もあり、メディアのイメージをうのみにせず客観的に検証したり、現地の一般の人々の声を聴くことも大切であると指摘されました。学生は広島大の他、福山大、愛媛大、松山大などからも参加しました。各地の会員、特に旧東ドイツを訪ねた経験のある年配会員が熱心に参加し、一般の方数名も加わり、白熱した質疑応答でした。レクチャー講演会への各方面からの関心の高さを知りました。

 今回の講演会を聞き逃した方も期間限定でYoutubeで見られるように、編集作業中です。コロナウィルス変異株が再び猛威をふるっています。私どもは、大学でせっかくドイツ語を学んだ学生がコロナ危機によって学びの気持ちを惑わされることなく、さらにドイツ語やドイツ文化、文学に関する知識を磨いてほしいと期待しています。

6.オリキャン主催運動会レポート【文学部新入生歓迎行事実行委員会 総局長 北村紘大】

  文学部では、毎年、新入生歓迎行事である「オリエンテーションキャンプ(通称オリキャン)」の活動の一環として春のイベントに続いて秋には運動会を開催しています。学生同士の新たな関係の構築と交流の深化、学生生活での不安の解消を図ることを目的としています。昨年度は新型コロナウイルスの影響で運動会の代わりにオンラインイベントを行いましたが、今年度は広島大学の指針に則り、感染対策を徹底しながら各班が教室で交流をし、集大成として、2021年12月11日(土)に東広島キャンパス内の体育館で運動会を行いました。

オリキャン

オリキャン運動会の1シーン

景品でしょうか?

  競技としては借り人競争や大縄跳びなどの誰もが小さい頃にやったことがあるような競技から、100cm走といった少し変わった競技も行いました。どの競技でも、マスク越しに笑顔を見ることができ、学生たちの楽しそうな雰囲気が伝わってきました。運動会では春に行ったイベントの時と違うグループでの活動だったのですが、全てのグループが楽しそうに競技に取り組んでおり、とても良い雰囲気で運動会を行うことができました。

 私が入学した時、新型コロナウイルスの影響でオリキャンの開催が見送られ、不安を抱えたまま1年間を過ごしましたが、新入生にはそのような思いをさせないという一心で春のイベントを開催し、それだけでなく秋にも運動会を開催することができました。これはひとえに学生たち、支援室の方々、先生方の支援によるものです。誠にありがとうございました。

  オリキャンでの活動が、参加してくれた学生の学生生活の忘れられない思い出の1つになっていれば幸いです。次は令和4年度入学の新入生がよりよい学生生活のスタートを切れるように活動を進めていきたいと考えております。

オリキャン

さて何の競技でしょうか

7.広報委員会より【広報委員会委員 白井 純】

 メルマガ107号をお届けします。
 オミクロン株の拡大により、またまた制限された生活を強いられるこの頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。広島大学文学部では、人類がかつて直面した疫病とその予防を取り上げたイベントから、リモートであっても従来と変わらない活動を目指すイベントまで開催されており、充実したメルマガをお届けできたことをうれしく思います。

 リテラ「21世紀の人文学」は「疫病の時代を生きる」と題し、中世ヨーロッパのペスト流行や、古代中国・近世日本での疫学を取り上げた講義が展開されました。歴史学としての興味もさることながら、疫病という恐怖に直面した際の人間の思考や行動、また、それが社会にどのような影響を与えたのかという知見は、現代を生きる私たちがコロナ禍にどう対処すればよいのか、または、そのような対処をした場合にどのような結果が予想されるのか、といった視点をもたらすものでしょう。科学では十分に「正解」の出せない難問に対し、参考とすべき事例から類推してより良い判断をもたらすものが、人文学的な知性のあり方だと思っています。

 広島大学公開講座では「フィールドから読み解く地域の特徴と文化」と題し、古建築、村おこし、土砂災害をキーワードとしたオンライン講座が展開されました。2年半前に私が大学近くの「ががら宿舎」に移り住んだ際には付近の土砂崩れがそのまま残っているのが不安で、近隣住宅の屋根瓦が茶色いことも気になりました。ところで報告にも書かれていますが、オンライン講義では聴衆の顔が見えないため雰囲気が分かりにくい事があります。やはり対面の方が良いという意見はもっともなのですが、私が参加する研究会でも、オンライン化によって参加者の顔ぶれが多彩になった、ということがあるようです。大学が開催する市民講座はこれまで主に大学近郊に在住の方を対象としてきましたが、地域貢献という役割を果たしつつ、オンライン講義の良さが活かせるような広報活動、講義内容を工夫するという新しい方向性もあると感じました。

 同じくオンライン開催の「文藝学校」は「困ったときこそ、人文学」と題して、コロナ禍を意識した講座でした。古代ギリシアと不思議の国のアリス、そして源氏物語が並ぶ講座は壮観ですが、一体、話にどういう繋がりが生じ、どのような結末を迎えたのでしょうか。そういった意外性もまた、人文学の醍醐味だと思います。

 その他、フランス文学語学分野、ドイツ文学語学分野からのイベント報告もありました。こうした活動がふつうに行われている日常があることを、同じ学部に所属する教員としてうれしく感じています。

  新入生歓迎行事の運動会も、開催できて良かったですね。不遇続きだった自分たちの経験から「新入生に同じ思いをさせない」と考えて実施してくれた上級生の皆さんに感謝したいと思います。

  ところで私といえば、2020年7月のメルマガ98号でオンライン講義のヨレヨレぶりを白状しましたが、最近はそれなりに慣れてきて、渡日できない留学生のためのオンライン併用授業も特に気張らず進めています。それが日常になったということですが、あまり慣れたくはないものだ、などと皮肉は言わず、それによって生まれる新しい関係もあるだろうと、前向きに考えるようにしています。

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オーナー:広島大学文学部長  友澤和夫
編集長:広報委員長  末永高康
発行:広報委員会

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