メールマガジン No.114(2023年3月号)

メールマガジン  No.114(2023年3月号)
リテラ友の会 メールマガジン  No.114(2023年3月号) 2023/3/31

□□目次□□

1.文学部/人文学プログラム退職教員あいさつ
2.2022年度卒業論文優秀者による発表会報告
3.ハリー・ソルヴァン先生へのインタビュー
4.文学部ニュース
5.広報委員会より

1.文学部/人文学プログラム退職教員あいさつ

「29年間、数々の出会いに感謝、感謝。」 妹尾 好信 教授【日本・中国文学語学コース(日本文学語学分野)】

 平成6年(1994)4月、36歳で着任以来29年の歳月が流れ、定年退職の時を迎えました。私は広島大学文学部で学びましたから、着任の時は7年ぶりに母校に戻ったわけなのですが、ちょうど文学部が広島市の東千田町から現在の東広島市鏡山に移転してきたのと同時でしたので、学生時代とは全く違う郊外の広々としたキャンパスで、懐かしくもあり懐かしくもなしという一種不思議な気持ちながら、すがすがしい思いで新生活を始めることができました。それから30年近く経って、まっさらだった建物はかなり古びてきましたが、同様に私も古びました。
 さすがに29年間にはいろんなことがありましたが、メールマガジンの読者の皆さんとお目にかかる場があったとしたら、さまざまなイベントのお世話をしたり、登壇したりする機会がわりとあったことによりましょうか。
 文学部附属の内海文化研究施設の運営委員を長く務め、厳島をはじめとする瀬戸内海域の歴史や文化を研究するとともに、研究で得られた知見を公開し、また厳島に関わりのある人々をお招きして開催する公開講演会「季例会」の企画・運営を行いました。講演会には学内外から多くの方々がご来聴くださいました。
 また、文学部が鳥取県米子市に本社のある老舗書店今井書店とNPO法人「本の学校」と共催して毎年開催してきた「文藝学校」講演会のお世話もさせていただきました。山陰地方の高校生や一般市民の方々に広島大学文学部で行われている授業や研究の一部を出前するという企画で、広島大学と山陰地方を文化的につなぐ役目を少しは果たせたかなと思っています。
 そして、これらのイベントを通じて、さまざまな人々と出会い、親交を深めることができました。そこで得られた人脈は、私にとって貴重な財産となりました。そのような機会を与えてくれた広島大学文学部に、そして29年間に出会ったすべての人々に感謝しつつ、退職したいと思います。皆様、本当にありがとうございました。
 

2018年8月開催の「第16回文藝学校講演会」

2.2022年度卒業論文優秀者による発表会報告

 2022年度の卒業論文優秀者発表会が、2月16日(木)13:00から文学部B251教室において去年と同じくハイブリッドで行われました。発表者は12分野から12人選出されました。参加者からの質問も多く飛び出し、たいへん熱を帯びた活発な会となりました。発表内容も、これでこそ文学部と胸を張れるものばかりで、普段、自分が聴くことのない分野の発表が聴けて非常に新鮮な刺激を受けました。今から来年の発表会が楽しみです。

 今回のメルマガでは、発表者の中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。あわせて、指導教員からのコメントも紹介いたします。

○中山式土器の型式分類―刷毛目同定を中心とした中山貝塚出土土器の再検討―
 地理学・考古学・文化財学コース(考古学分野) 舩越 雅子

 私は、安芸地域の弥生時代前期の指標である中山Ⅰ・Ⅱ式の甕形土器を研究した。中山式土器は頸部下にある沈線の条数により型式分類される。これは、沈線の条数を時間軸に置き換え、沈線の多条化につれて時代が下っていくという前提に基づいたものであり、この前提に基づいて研究が蓄積されてきた。一方で、中山式土器には「出土層位」を詳細に検討することができないという課題があった。そこで、本研究では土器製作にかかわる複数の属性、特に刷毛目の同定に重点を置いて分析した。刷毛目工具は属人工具であり、同じ刷毛目が施された土器同士は、ある程度厳密な同時期性を示していることから、中山式土器に対して重要な定点を与えることができる。
 その結果、同じ刷毛目が施された資料同士では、粘土帯接合方法と器面調整が一定の対応関係にある一方で、沈線条数は一致していないことが明らかとなった。したがって、同じ土器製作者でも個体によって異なる条数を施しており、条数の多寡をそのまま新旧に言い換えることができない。土器製作者の沈線条数に対する意識は固定されず緩やかなものであったと想定できる。
 私は来年度より、本学人間社会学研究科に進学する。本学の考古学研究室には、広島市中山貝塚出土の中山式土器が大量に保管されている。このような資料を整理するとともに、その他遺跡出土の中山式土器にも目を向けることで、弥生時代前期における安芸地域の様相について考察を深めていきたい。

【指導教員コメント 有松 唯 准教授】

 舩越雅子さんは日本列島で農耕がはじまる弥生時代に関心をもってきました。卒業論文では、この時代に作られた弥生土器について、その表面にのこされた刷毛目とよばれる工具痕に着目した研究に取り組みました。
 当時の土器や工具は人の手で作られているので、工具痕には、土器を作った人物の癖や工具ごとの細かな特徴が表れているはずです。つまり、刷毛目の微細な違いから土器製作者の手癖や工具の個別特徴をとらえて、それぞれの土器で比較ができれば、同一人物あるいは同一工具で作られた土器を特定できるのです。
 この方法による弥生土器の研究事例はまだ少なく、課題も多くありました。舩越さんはこの挑戦的な研究に粘り強く取り組み、研究方法を改良した上で、中国地方で最初期の弥生土器とされる中山式土器について、新たな知見をもたらしました。今後も本学の大学院で卒業論文での成果を発展させていく予定です。

発表する舩越さん

○韓国語における었(-ess-)のアスペクト的用法について―存在詞있다(iss-ta)を用いたアスペクト形式との比較を通して―
 欧米文学語学・言語学コース (言語学分野) 織田 真由

 私は「韓国語における었(-ess-)のアスペクト的用法について―存在詞있다(iss-ta)を用いたアスペクト形式との比較を通して―」という題目で卒業論文を執筆しました。
 本研究で取り上げた文法範疇のうち、テンス(時制)とは発話時を基準に「過去・現在・未来」というように事態を時間軸上の点として認識する文法範疇のことをいいます。一方でアスペクト(相)はテンスに対して「動詞が表す動きの時間的局面に注目する文法範疇」のことで具体的なアスペクトの種類としては進行相や結果状態相、反復相などがあります。
 韓国語においては、主に存在詞있다(iss-ta)を用いたアスペクト形式である「-고 있다(-ko iss-ta)」や「連用形+있다(iss-ta)」を用いて進行相や結果状態相を表すことができます。ところが、本研究で取り上げた「닮다(talm-ta)」(似る)という動詞は存在詞を用いたアスペクト形式ではなく、過去時制を表す形式である「었(-ess)」を用いて「似ている」という現在の状態(アスペクト的な要素)を表します。卒業論文では、「었(-ess)」がアスペクト形式としての機能も持ちうることを指摘し、コーパスを用いて新聞・雑誌・文学作品などの言語資料を収集・分析しました。その結果、「었(-ess-)」が二つ重なって結びつく用例が必ず過去時制を表した上で何らかのアスペクトを表すということを根拠に、「었(-ess)」には「テンス形式としての었(-ess-)」と「アスペクト形式としての었(-ess-)」が存在すると設定することが有効であると結論付けました。
 卒業後は、広島市の自動車学校で教習指導員として勤務します。これまでの学業で養われた丁寧さを大切にし、論理的で分かりやすい指導を目指します。

【指導教員のコメント 上野 貴史 教授】

 織田真由さんは、2年生の頃から一貫して韓国語に強い関心を持ち続け、卒業論文では韓国語のアスペクト助動詞についての考察を行っています。
 継続相アスペクトを表す日本語の「ている」という助動詞に相当する韓国語には、<他動詞-ko iss-ta>と<他動詞・自動詞連用形+iss-ta>という助動詞選択を行う二種類の形式が存在します。織田さんの卒業論文では、このような助動詞に加えて、一般的に過去時制を示すとされる<-ess->に同形で異なる機能を有する二種類のものがあり、その一つがアスペクトを示す助動詞であると論じるものです。
 織田さんの卒業論文の良さは、このような問題を提起した着眼点と、何度も推敲を重ねた努力にあると思います。論文作成に当たっては、指導したことを十二分に理解し、深く言語学の知識を習得しながら、柔軟に仮説を変更して論を展開したことが優秀な論文となって現れたと思います。
 

発表する織田さん

3.ハリー・ソルヴァン先生へのインタビュー 上野 貴史 教授【欧米文学語学・言語学 (言語学) 】

 2022年11月3日,令和4年秋の外国人叙勲にて旭日小綬章を受章されたハリー・ソルヴァン先生は,かつて広島大学文学研究科(現:人間社会科学研究科)の修士課程および博士課程で言語学を専攻されていました。
 そのご縁のもと,在学当時からのご友人であり,本研究科の言語学分野の教授でもある上野先生を通じて,インタビューをさせていただきました。
 ソルヴァン先生はノルウェーのベルゲン大学外国語学科日本語科にて,長年教鞭をとられており,この度の受章も,日本・ノルウェー間の学術交流及び相互理解の促進に尽力された功績によるものです。
 本インタビューでは,先生と日本語の出会いをはじめとし,4つの質問にご回答いただいております。第二言語を学ぶ楽しさやアドバイスについてもお伺いしておりますので,第二言語を学ばれている方はもちろんのこと,すべての方にぜひともご覧いただきたい内容となっております。
 以下,インタビューの質問と回答です。

質問:
 ソルヴァン先生はノルウェーのご出身だとお伺いしました。先生と日本語の出会いについて教えてください。

回答:
 1986年8月に日本語講座が初めてノルウェーのベルゲン大学に設置されました。その時、あらゆる面で日本に関する知識がなかった私は,単なる好奇心に駆られて、他の50人ぐらいと一緒にその講義に出ました。
 ちなみに、新聞に掲載されていた,日本語講座についての長さ五行ぐらいの広告みたいなものを見逃していたら,この講座に出なかったことになったのは確かです。つまり、私と日本語の出会いはとても偶然でした。

質問:
 先生はどのようなご縁で広島大学文学研究科にいらっしゃったのでしょうか。また,広島大学文学研究科での思い出などありましたら教えてください。

回答:
 初めて日本に行ったのは1988年でした。その時に広島を訪れ、平和記念資料館を見学しました。大変印象的な写真や様々な資料を見たら,大惨事が起きた歴史的な場所にいることを痛感しました。その時に「日本に留学することになる機会があれば絶対に広島に行きたい」と心に決めました。その7年後、広島大学文学研究科言語学専攻の入学試験に挑戦して合格しました。
 広島大学言語学での思い出は、当然ながら、たくさんあります。まずは大学院生として初めて発表する時の緊張感、二度と経験したくない,恐ろしい時間でした。
 また、指導教官の古浦敏夫先生からいただいた熱心なご指導や励ましを懐かしく思っています。私にとって大切な恩人で、一生忘れられません。今も先生のことをよく思い出したりすることがありますが、その時は心の中で感謝の言葉を言っています。
 そして最後に、研究室の皆の,私に対する温かい歓迎や親切な態度があったため、常にアットホームな雰囲気だった研究室に行くことを,いつも楽しみにしていたことを強調したいと思います。

質問:
 先生は広島大学文学研究科在学時,ノルウェー語話者の日本語習得過程を中心として第二言語習得に関する研究をされていたとお伺いしました。先生の研究の楽しさや難しさを教えてください。

回答: 
 修士論文や博士論文のテーマは確かに第二言語に関するものでしたが、具体的にはノルウェー語話者が日本語の条件文を学習する時の困難さを予測できるかどうかということに焦点を当ててみました。もっと具体的に言えば、「と、たら、ば、なら」の四つの条件接続詞の使い分けに関する第二言語習得の困難さになります。博士論文では、ノルウェー人の日本語学習者を対象に調査を行い、その調査によって示された困難さを,二つの理論的な枠組みの観点から説明しました。とは言っても、その理論的な枠組みを設定するには大分苦労しました。
 博士号を取得してから間もなく、京都にあるATR(国際電気通信基礎技術研究所)に勤めさせていただきました。所属した部門の主な研究テーマは英語の発音に伴う、いわゆる「L」と「R」の区別・発音問題でしたが、条件文の研究にも専念できました。そして、条件文の先行研究で知られる日本人の何人かの先生に連絡を取って、共同研究ができるようになりました。その時は、同じ分野に興味がある研究者と接触する大切さと楽しさを実感しました。面白いことに、先行研究が多かったのに、「と、たら、ば、なら」それぞれの成立条件の判定は研究者自身の内省に頼った主観的な研究が目立ち、実証的な見地から調査を行った研究は非常に少なかったことが分かりました。その少ない先行研究の中に、4形式の使い分けには年齢的な揺れがあり、地域差も大きいという報告があったため、関東地方出身者の大学生を対象に,大規模な調査を,学習院大学の前田尚子教授と一緒に行いました。その結果を様々な学会や学会誌に発表しました。
 ちなみに、その後は研究を拡大して、京都にある立命館大学、同志社大学、神戸大学の諸先生方の同意や協力を得て、類型論的に異なる母語を持っている日本語学習者(中国語・韓国語・英語の母語話者)を対象に大規模な調査を行いました。それもこの研究を通じて楽しめたことです。

質問:
 現在でも多くの学生たちが第二言語の習得のために日々勉強をしております。また,これから留学や研究のために学び始めようとする学生もいます。第二言語を学ぶことの楽しさや,学びのコツなどありましたらアドバイスをください。

回答: 
 ある第二言語を学習していると、その言語を使い、それを母語としている話者に何かを伝達しようとするものが通じた時の嬉しさは得も言われぬものです。しかし、残念ながら、自分の母語ではない言語を身に付けることは容易なものではありません。言い換えれば、相当な努力が必要ということを念頭に置かなければならないということです。成功するため、何よりも動機付けが大切だと思います。つまり、「楽しいからやりたい」というのを基にしていれば、失敗や退屈な時があっても諦めたい気分に負けないでしょう。
 また、目標言語が伝達の手段として使われている地域に滞在しなければならないことも強調したいです。勿論、滞在しなくても日本で文法や語彙などを勉強すれば目標言語をある程度身に付けることができますが、使いこなすと言えるレベルまで達するのが難しいでしょう。今となっては、交換留学プログラムがたくさんあります。もし留学する機会があれば、その機会を掴んでいくことを強く推薦します。そして、留学先にいる間、なるべく同胞との接触を控え、あらゆるきっかけをつかんで目標言語の母語話者と積極的にコミュニケーションをとることが重要だと考えています。

インタビューは以上になります。
お忙しいところインタビューにご回答いただいたソルヴァン先生に,改めて心よりお礼を申し上げます。

4.文学部ニュース

○令和5年度広島大学入学式について

【日時】2023年4月3日(月) 11時 開式(12時頃終了予定)
【場所】東広島運動公園体育館
【入場者】学部・専攻科・大学院・専門職大学院新入生のみ(※ご家族の方は会場内へお入りいただけません。) 

※ 詳細はこちらをご覧ください。

5.広報委員会委員より【キツニック・ラウリ】

 1月末の記録的な寒波の後、桜が全国で例年より1週間も早く満開になり、ほとんど予期せず春が訪れたようです。この対照的な天候のおかげで、わずかな期間に、豊富な降雪と見事な桜を楽しむことができましたが、しかし、その一方で、人新世とも呼ばれる時代に、人類が自然環境に及ぼし続けている気候変動などについて、これまで以上に真剣に考えるきっかけにもなるはずです。
 今回お届けするメールマガジン第114号では、内海文化研究施設において瀬戸内海域の歴史や文化の研究を長く担当してきた妹尾先生の退職あいさつ、卒業論文優秀者2名の発表会報告及び指導教員のコメント、上野先生によるノルウェー・ベルゲン大学のハリー・ソルヴァン先生のインタビューにおいて、人文学ならではの諸観点から、人間が作り出す生活環境やコミュニケーションの問題に触れています。新学期を迎える今、コロナ禍がようやく沈静化に向かい、3年間の不満の後、いよいよ全面対面式授業に戻ることを願うばかりです。

 

////////////////////////////

リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学文学部長  友澤和夫
編集長:広報委員長  末永高康
発行:広報委員会

広島大学文学部に関するご意見・ご要望、
メールマガジンへのご意見、配信中止・配信先変更についての
ご連絡は下記にお願いいたします。
広島大学人文社会科学系支援室(文学)
電話 (082)424-6602
FAX (082)424-0315
電子メール bun-koho@office.hiroshima-u.ac.jp

バック・ナンバーはこちらからご覧いただくことができます。

////////////////////////////


up