メールマガジン No.74(2016年7月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.74(2016年7月号)
2016/7/27 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.新任教員挨拶 Part2
2.内海文化研究施設第36回季例会・講演会レポート
3.第14回「文藝学校」講演会レポート 「文藝学校」はカレーの匂いとともに
4.広島大学大学院文学研究科(博士課程前期)新プログラム 社会人学び直しプログラム特別選抜のご案内
5.広報・社会連携委員会より
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【1.新任教員挨拶 Part2】

  文学研究科では、4月に4人の教員が着任いたしました。前回につづき2人の新任教員のコラムを掲載いたします。
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○今年4月に総合人間学講座に着任しました中村平です。

 台湾に対する帝国日本の植民地統治について考えたいと思い、教育社会学を専攻していた学部を卒業後、台湾の大学の修士課程に留学し、山地の先住民を中心にお話を聞いてまいりました。現在の「出会い」から切り込む人類学に魅力を感じ大学院での専攻とし、5年ほどを台湾で過ごしました。その後、「植民主義(colonialism)」と「脱植民化(decolonization)」という問題系の深さを知り、また台湾からいったん身を引きはがすべく、日本の大学院博士後期課程に進学しました。

 日本の大学院では「日本学」という研究室で、植民主義・脱植民化あるいは抵抗について「書く」実践についての議論などを行いました。博士論文では「(植民)暴力の記憶の分有」という切り口から、先住民タイヤルと「日本」が前景化するフィールドワークの現場に到来する記憶や、脱植民化を意識しながら問い直される先住民の歴史についてまとめました。その後、職歴として、韓国の大学(日本言語文化学科)で4年間、関西の私立大学(神戸国際教養学科)で3年間教えました。

 現在も引き続き上の問題系を考えていますが、「民族自治」と「歴史認識」「植民地責任」というテーマについてさらに焦点化し、脱植民的な想像力の展開という点で、津島佑子などポストコロニアル文学の記述実践についても関心を持っています。同時に、日中戦争に赴き負傷した祖父と自分の家族史に向き合うことにより、なぜ自分が暴力の記憶と脱植民化の問題系に憑りつかれるのかを考えています。起きてしまった過去、起こしてしまった問題を語りなおすことの重要性をかみしめます。

 台湾先住民の近現代史や記憶の到来を植民主義の観点から研究してきましたが、これまで人文学の教育研究に携わってきた経験から、専門分野「比較日本文化学」その他の教育研究活動に取り組んでまいりたいと思います。今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。

☆中村平准教授のプロフィールはこちらをご覧下さい。

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 ○ボンジュール!4月1日より、フランス文学語学講座に着任しましたオリヴィエ・ロリヤール(Olivier Lorrillard)と申します。
 私は約20年前に来日し、九州大学、大阪大学、京都大学、立命館大学などで教鞭をとってきました。
 私は、古典文学(フランス文学、ギリシア・ラテン文学)と外国語としてのフランス語教育を専門としています。現在の研究は後者の方で、フランス語教育における文脈への適応の問題を考え、日本の学習者に適した習得段階を考案することを研究目的としています。そのために、日本語からフランス語への口頭による翻訳練習とオーラル・コミュニケーションとの関係について考察しています。この関係づけには驚かれることと思いますが、思うほど矛盾していません。私は、伝統的に対立してきたこれらの方法をうまく折衷し、この「会話式翻訳練習」の技術を練成しようと試みています。

  この練習を簡単に説明すると、まずは、日本語で書かれた、ある一つのテーマに関する一連の質問が書かれた「カード」を出します。学生は、まずはお互いにフランス語でこれらの質問をし、それから答えなければならないというものです。もちろん、このカードは、会話の方向性を示すものでしかないので、学生は、少しずつ自分の力で自分の作った質問を加え、会話をスムーズにすすめるようになります。この方法は、学習に対して非常に抵抗を示す学習者やごく内気な学習者も、徐々に会話の論理的な流れの中に入ってゆくことができ、また、初期段階においては、限られた自由しか与えないため、既に知っている概念や語彙を優先的に使う方向へと学習者を導くことができることから、その有効性が明らかになってきました。   私の研究は、習得の改善状況を数値化すると同時に、分析することにあります。習得成果が具体的に改善されたことと、学生が素早くこの学習ゲームに参加できているという事実は、この教授法をより先鋭化させようという意欲を沸き立たせてくれます。

☆オリヴィエ・ロリヤール准教授のプロフィールはこちらをご覧下さい。

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【2.内海文化研究施設第36回季例会・講演会レポート 地表圏システム学講座 伊藤奈保子准教授】

  蜜と混ざり合った侍従(じじゅう)、そして黒方(くろぼう)の薫りが部屋いっぱいに拡がってゆく。内海文化研究施設による、季例会・公開講演会も今回で36回を数えます。6月27日(月)に、広島女学院大学総合研究所客員研究員の田中圭子氏をお迎えし、「―芸州厳島ゆかりの人物と薫物(たきもの)―受け継がれる王朝のみやび―」についてご講演をいただきました。当日は会場の会議室を埋める約60名の聴講者が薫物の世界にいざなわれ、幽玄なひと時を過ごしました。
  先にあげた侍従、黒方とは、平安末の文献「薫集類抄」(『群書類従』十二輯)に記される高貴な六種の薫物の銘のことです。今回これら二つの薫物の由来を訪ね、文献資料に従い調合されたものに聴講者が蜜を加え、練り上げました。
 
   さて、侍従とは、平清盛の父、忠盛の筆とされる「拾遺」の方(名古屋市蓬左文庫所蔵「香之書」)にその調合法の詳細をみることができます。忠盛は舞踊、音楽、和歌をはじめ貴族的教養に明るく、仁明天皇皇子八条宮本康親王とその孫にあたる八条大将藤原保忠の処方に学びながら、平安中後期の薫物に関する資料を蒐集した人物と考えられています。  

   次に黒方は、室町後期の文献「御室御所任助入道親王の「黒方」の勅方(京都大学附属図書館菊亭文庫所蔵「薫物秘蔵抄」)にその調合法をみることができます。任助入道親王は御室(仁和寺)に入室し、逗留先の芸州厳島にて病により遷化されました。その墓所は現在JR宮島口駅近辺にあります。 
 
   いずれも芸州厳島にゆかりある薫物です。聴講者の多くが手にその薫りを残しながら、完成した練香を持ち帰ることとなりました。
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【3.第14回「文藝学校」講演会レポート「文藝学校」はカレーの匂いとともに 日本・中国文学語学コース3年 長内綾乃】   
                                          
   今年も7月18日(日)に、鳥取県米子市の今井ブックセンターにて、「海の日にも、人文学。」のキャッチコピーのもと、文学研究科・文学部とNPO法人「本の学校」の共催による第14回「文藝学校」講演会が開催されました。私の地元での講演会ということもあり、受付やスナップ写真撮影、受験相談会対応などの仕事をもらって、今年も参加させていただきました。

 月日の流れは早いもので、米子東高校二年の秋に初めて「文藝学校」を受講してから5年が経ち、今年の参加者の中に懐かしい制服を見つけては「若いなぁ」とうらやましく思いました。古典文学に興味を持ち始めたころに、広大出身の先生から「行ってみないか」と誘っていただき、なんとなく参加した1年目は、志望大学も広大ではありませんでした。しかし、翌年2度目の受講をして、やはり広大文学部の授業が受けたいと思って受験を決意、センター試験で手応えを得て受験したのがついこの間のようですが、今ではもう3年生になりました。広大進学の決め手がこの「文藝学校」講演会だったのだと思うと、深い縁(えにし)を感じます。

  今年は当時のわたしのような高校生はもちろん、かつて高校生だった方々や熱心なリピーターの方も多く参加してくださり、急遽席を増やすほどの大盛況となりました。 今年も午前と午後の2部構成。午前中は、本研究科を修了されて今は松江工業高専の講師をされている小川陽子氏による「米子のお寺が小説に―鳥取出身の国文学者・池田亀鑑―」と妹尾好信教授による「『和泉式部日記』の不思議」の2つの講演がありました。古典文学を研究する人なら知らない者のない大学者である池田亀鑑博士が書いた小説の話は大変興味深いものでした。また、『和泉式部日記』の日記文学とも物語文学とも言い難い不思議な性質について、ワクワクしながら聴いていた高校生も多かったことでしょう。

 さて、1階のカフェからカレーのいい匂いがしてきたところでお昼休みです。実は午前の講演の前からかすかに漂っていたのです。来年はぜひこのカレーを食べてみたいものです。   午後からの講演は、今林修教授による「英語の歴史は面白い」と勝部眞人教授による「ムラ社会は“悪”なのか?!―「ムラの日本史」=中国との対比のなかで―」の2つでした。わたしはあまり英語は得意でないのですが、今林教授のお話は、「なるほど!そうなのか!」と口元で英語をつぶやきながら楽しく聴いていました。また、勝部教授は、日本における「ムラ社会」の特色について話されました。初めての歴史学の講演とのことで、質問も多く出て、活発な講演会になりました。

 講演会のあとは高校生の皆さんとの受験相談会。ほとんど雑談で終わってしまいましたが……。夏休み前で進路に迷っている後輩たちに、先輩大学生としてあまりいいアドバイスはできなかったかもしれませんが、私がそうだったように、この「文藝学校」をきっかけとして、「広島大学文学部に行きたい!」と思ってくれる子が出てくれたらいいなぁと思います。来年の入学式での再会が楽しみです。

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【4.広島大学大学院文学研究科(博士課程前期)新プログラム社会人学び直しプログラム特別選抜のご案内】
1. 概要
 社会人学び直し特別選抜は、現職中・高・大学教員以外の向学心を有する社会人を対象とした特別入試です。 高齢化が進む現代社会において、生涯学習のニーズがますます高まってきており、自己実現を図る機会や修士の学位の取得をめざして、よりレベルの高い学習活動を企図する方に、主に東千田キャンパスで開講する科目を履修することによる弾力的な修学プログラムによって体系的な教育研究の機会を提供します。
 なお、社会人学び直しプログラムの課程は、東千田キャンパスでの履修だけでは完結されません。一部東広島キャンパスでの履修が必要となります。
2. 募集人員 若干名 3. 出願手続
(1) 入学願書受理期間
 平成28年9月29日(木)から10月5日(水)午後5時まで(必着)
(2) 願書受付場所
 広島大学文学研究科支援室(大学院入試担当)
  〒739-8522 東広島市鏡山一丁目2番3号
  TEL:082-424-6615、6616
  E-mail:bun-gaku-sien@office.hiroshima-u.ac.jp
(3) 出願書類
 出願書類等の詳しい情報は、学生募集要項をご覧ください。
 以下のURL(7月20日以降に掲載予定)からご確認いただくか、上記の広島大学

文学研究科支援室(大学院入試担当)にお問い合わせください。
 http://hiroshima-u.jp/bungaku/admission/g_admission/graduate_boshu
4. 学力検査等実施日程
日時:平成28年11月19日(土)14時~ 口述試験
場所:広島大学東千田未来創生センター
   〒730-0053 広島市中区東千田町一丁目1番89号
5. 入学者選抜方法 学力検査(口述試験),入学後の研究計画書及び志望理由書を総合
して選考します。
6. 合格者発表
平成28年11月25日(金)12時の予定。
7. 照会先
願書受付場所と同じ。
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【5. 広報・社会連携委員会より 末永高康】

  まずは事務的な連絡から。次号から文学研究科HPへのリンクを案内する形でみなさまにメールをお届けすることになりました。具体的には、

メールマガジン00号をお届けいたします。
下記URLにアクセスして下さい。
→文学研究科メルマガページのURL

の形のメールがみなさまのお手元に届くことになります。文章だけではなく写真等もアップしていく予定ですので、より充実した内容のメルマガとなるかと思います。ご期待ください。

  さて、先日、西条駅近くの飲み屋で「暑気払い」と称した広報社会連携委員会の団結会を行いました。出席率100パーセント。当初予算を大幅に上回る飲みっぷりで、今年の本委員会の気合の程がうかがえます。

  今年から本委員会に加わったわたしはまだ広報のしごとをよく理解しておりませんが、「正しく」ものごとを伝えるのも広報の使命のひとつではないかと思っております。
  「必ずや名を正さんか。」ことばを大切にする文学部の広報としては、ものごとの本質を伝えることばを丁寧に選んでいく必要があります。たとえば最近とかく話題の「3+1」、これも「4-1」と言い換えた方がことがらの本質がよく伝わるのではないでしょうか。文学部の学生にとって、卒業論文とはまさに4年間の学習の集大成です。みずから課題をみつけ、その課題を解決する方法をみずから考え、その結果を他者に伝わる形でまとめていく。具体的に何を学ぶかも大切ですが、この課題発見・課題解決の能力を身に付けることもまた文学部で学ぶことの大きな宝のはずです。その力を養う教育を放棄して、どこの誰とも知らない指導者の下に一年間学生を送り込むのですから、われわれからすればこれは「4-1」でしかありません。これを「3+1」と表現するところに、この言葉を考え出した者の教育に対する無責任さを感じます。いたずらにことばを増やすこともまた賢人の戒めるところですから、「4-1」を定着させるつもりはありませんが、欺瞞に満ちた語がプラスの語義をもって流通することのないように見守る一委員でありたいと思っております。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  久保田 啓一
編集長:広報・社会連携委員長  高永 茂
発行:広報・社会連携委員会

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FAX (082)424-0315
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