メールマガジン No.90(2019年 3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.90(2019年 3月号) 2019/3/28

□□目次□□
1.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ
2.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ
3.日本史学研究室主催「古文書を見る会」レポート
4.平成30年度優秀卒業論文発表会
5.『第34回2018年ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」』優秀賞受賞報告
6.文学研究科(文学部)ニュース
7.広報・社会連携委員会より

 

1.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ

○『邯鄲の夢』       歴史文化学講座教授 勝部眞人

  23年、過ぎてしまえば長かったのか短かったのか…。

  37年前紅顔(厚顔?)の一少年は、高校日本史の教員を目ざして広島大学文学部に入学し、まもなく「なぜ歴史を学ぶのだろう」と悩み始め、チューターだった後藤陽一先生に「なぜ歴史を勉強するのですか」と疑問をぶつけ、卒業時に後藤先生から「それは一生考え続けなさい」と言われ、大学院を経て念願だった高校教員の職に就き、ようやく見つけた研究方向と校務の激甚との狭間で苦悩し、25年前和歌山高専に移った時に「なんて天国なのだ…」と思った2年後に、ここ広島大学に職を得たわけです。

  そこからいわば盧生の夢が始まるのですが、当初2~3年は和歌山高専以上の「天国」でした。授業の合間に史料調査に出かけたり、学生を調査に連れて行ったり、それが公務として認められる…、そういう幸福感に満ちあふれていました。

  たぶん文部省が文部科学省に替わり、国立大学が法人化された頃から、潮目が変わってきたでしょうか…。「貧すれば貪す」の大学政策に振り回され始め、学問を取り巻く環境そのものが悪化してきました。国内全体の大学から、余裕という2文字が消えていった気がします。ポピュリズムの蔓延からか、社会全体の教養程度も低下してきたように思えます。

  ただ、“明けない夜はない”。まだしばらくは冬が続くかもしれませんが、いつか必ず花咲く春が訪れると信じています。聊か無責任な希望ではありますが、皆様のご奮闘を心からお祈りしています。

2月5日に行われた最終講義の様子

最終講義終了後、花束を贈られる勝部教授

○『広島大学と私』   総合人間学講座教授 河西英通

  12年間お世話になりました。あっという間に過ぎ去りました。まさか西国の広島まで来るとは思ってもみませんでした。知り合いといったら教育学部の古賀一博さん(前任校の同僚)が唯一人、と思っていたら薬学部に高校時代の同級生櫨木修さんがいらっしゃった。通勤が面倒くさいので構内のががら第二宿舎の住人になったのはいいものの、ほとんど研究室との往復だったため、なかなか「広島県人」の意識も持てず、たまに「市内」に出ると完全に観光客と化してました。ほんとうは(!)それほどカープのファンでもないのです。

 (日本の)東北のことを調べてきた人間を迎え入れてくれた広島大学には感謝しかありません。『軍港都市史研究・呉編』や『広島市被爆70年史』に関わることで、ほんの少しだけ広島の歴史を勉強することが出来ましたが、近代日本における東北の位置づけと広島市への原爆投下の問題をしっかりむすびつける研究をしなければなりませんでした。12年では足りなかったのか、私の頭が悪かったのか、いずれにせよ大きな宿題が残りました。

  私にとって、広島大学は世界一の大学です。トップ100など目じゃありません。それは広大が世界最初の被爆大学だからです。狙われた大学として広大は戦争に反対し、平和を実現する責務があります。広大に12年勤務したことは私の誇りです。また会いましょう!

3月15日に行われた最終講義の様子

最終講義終了後、花束を贈られる河西教授

2.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ

  このたび考古学研究室に着任しました有松唯(ありまつ・ゆい)と申します。考古学の中でも、中近東を主に研究しています。

  中近東は日本ではあまり馴染みが無い地域かと思います。報道でも、エネルギー問題、テロや紛争といった文脈で話題になってしまうことが多いかもしれません。しかし、中近東には極めて豊かな歴史と文化があります。私たちの遠い祖先がアフリカ大陸からユーラシア大陸に移動した直後から、人類史が大きく転換する様々な出来事の舞台となってきました。それらは当然、私たちの社会や生活の礎となっています。つまり、中近東の歴史や文化を知ること抜きに、この社会、そして私たち自身のことを理解することはできないのです。

  そして、広島大学考古学研究室は1970年代、こうした中近東地域(現在のイラン・イスラム共和国)で、考古遺跡の学術調査を実施しました。それは当時、アジアの大学の中でも稀な、挑戦的な試みでした。文学研究科にはこの時に得られた資料の一部が所蔵されています。現在の研究情勢に照らしても、非常に価値の高い学術資料です。

  広島大学の文学研究科で中近東考古学の教育・研究に携われることを、光栄に思っております。貴重な資料と調査研究の歴史を継承し、発展させ、広島大学から人類史の新たな知見を発信していけるよう、取り組んでまいります。

イラン、北ホラサーン州 隊商都市遺跡

イラン、北ホラサーン州にて

イラン、ギーラーン州にて

3.日本史学研究室主催「古文書を見る会」レポート 歴史文化学講座教授 本多博之

   2月7日(木)、今年も大会議室を会場に「古文書を見る会」を開催しました。文学研究科には、約1700点の「猪熊文書」のほかに、日本史学教室(古くは国史学教室)で購入した様々な古文書が有り、毎年2月に学内外の方に公開しています。

  この催しは、教室の年中行事の一つで、学部3年の古文書係が過去の出典記録を参考に、出品古文書を選定します。最初60~70点の候補を決めたのち、近年の出品状況を勘案し、最終的に約30点に絞り込んで古文書個々のキャプション(解説文)を作成し、当日の展示作業をおこないます。今年は、南北朝期から江戸時代中期までの31点でした。

  例年展示していた秀吉・家康など天下人の発給文書は無かったものの、今回初公開であったものが多くありました。たとえば、今川氏真書状はその一つであり、東国の戦国大名と毛利氏など西国の戦国大名の発給文書の違いが理解できたと思います。料紙(古文書の用紙)や署名・花押の大きさの違いや、料紙の折り目跡を見ることで折りたたみ方がわかります。さらに、花押と本文の墨の濃さの違いなど、原文書でしかわからない情報がたくさんあります。

   当日は、西条およびその周辺からお越しになった一般市民が多数いらっしゃいました。ガラスケース越しではなく、すぐ目の前で古文書を観ることができる本会をこれからも続けて参りますので、今回見逃した方も来年ぜひとも足をお運び下さい。

展示された古文書
『毛利元就書状 (年未詳)11月23日』

展示された古文書
『足利義詮袖判下文 生平7年(1352)2月23日』

市民の方に説明をする本多教授(右端)

4.平成30年度優秀卒業論文発表会報告

  2月15日(金)文学部B251講義室におきまして、「平成30年度優秀卒業論文発表会」が開催されました。今回のメールマガジンでは、その中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。また、指導教員からもコメントをいただき、あわせて掲載いたします。

「De Positione Clementiae in Doctrina Senecae Morali(邦題:セネカの道徳論におけるclementiaの位置づけ)」
哲学・思想文化学コース(倫理学専攻) 中西捷渡

  この研究では、現代における不和の問題を許しの観点から考えるための予備的考察として、ローマ期のストア派哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカの著作『寛恕について』(後半散佚)に述べられた「寛恕(clementia)」の概念が、彼の道徳論においてどのような位置を占めているのかを、初期ストア派の学説(断片のみ現存)を参照しつつ考察しました。

  この論文ではまず、「徳のみが善であり、悪徳のみが悪である」「情念は理性の承認によって成立する」などの、セネカが前提としている初期ストア派の正統的な学説を確認し、これを踏まえてセネカの記述を解釈しました。そこで取り出されたセネカの主張の骨子は、「寛恕とは、相手の更生のために、怒りによる過剰な罰も同情による野放図な放免も避け、厳格さを保ちつつ、必要最小限の罰を科すことである」というものです。

  この骨子の構成要素のうち、本研究が位置づけの確定にあたって注目したのは「相手の更生のために」という部分です。相手を更生させるということは、相手が今後よい人生を送る手助けをするということであり、ここには通常の報復とは異なる動機が働いています。この動機についてセネカは現存部分では明示していませんが、彼の他の著作や初期ストア派の断片を参照することで、寛恕の根拠は「人間は本性上社会的であり、この社会性が寛恕をはじめとした慈善行為を導く「人間愛」の徳目を要請している」という洞察であり、ここから相手への慈愛という動機が寛恕に結びつけられていると本論文は結論しました。

  今後は、この研究によって得られた寛恕の概念を現代的な許しの議論と総合することによって、不和と許しの問題について研究していきたいと考えています。

[指導教員コメント 衞藤吉則]
  中西君は、入学当初から大学院への進学を考え、研究活動の手段となる外国語の習得に努めてきました。ドイツ語をはじめ、ギリシア語、ラテン語を身に付け、最近はフランス語の習得をめざしています。ドイツ語のレベルは高く、広島大学と大学間協定を結んだミュンスター大学のミヒャエル・クヴァンテ副学長が文学研究科で講演をした際、彼のドイツ語原稿の邦訳を中西君が担当しました。越智学長も学部生がこのような高いレベルの活躍ができることにたいへん驚いていました。

  今回の「古代ローマの哲学者セネカ」に関する卒業論文もラテン語で書いて提出されました。セネカとは周知のように暴君ネロに仕えた人物で、彼の徳論はネロに向けられた諫言でもありました。中西君は、セネカが説くclementia(寛恕)の徳を、同じストア派における徳概念の変遷や古代ギリシアのアリストテレスにおけるclementia理解との比較を通して、思想史的な位置を与え、その構造的を解明しました。clementiaの対極には「残虐さ」や「怒り」があり、慈悲深い人間愛としてのhumanusがclementiaを涵養するとされました。今日、些細な「怒り」の増幅が「残虐さ」として現れる事件をしばしば耳にします(「あおり運転」など)。博士後期課程で、clementia概念の〈現代的アップデート〉をねらう中西君の今後のセネカ研究にこの問題の倫理学的克服を期待したいと思います。

発表する中西捷渡さん

「東京国立博物館所蔵 砧蒔絵硯箱について」
地表圏システム学コース(文化財学専攻)二宮千奈美

  砧蒔絵硯箱は、蓋表に枕、蓋裏に男女の砧(きぬた)の場面を描いた硯箱である。砧とは人が衣を叩く道具、またはその行為を差す。蓋表の枕の側面には悪夢を食す獏が描かれ、秋草や岩には、『千載和歌集』所収の和歌「衣うつ音をきくにぞしられぬる里とほからぬ草枕とは」の一部が隠れるように表現されている。それぞれ蓋の枕が結句の「草枕」、砧の場面が初句の「衣うつ」をあらわすと考えられる。
百人一首愛好会に所属していた私は、かねてより文学意匠を用いた工芸品に関心を持っていた。本品を初めて見た時、枕と砧から人間の生活が垣間見える点で関心を抱き、卒論に選んだ。

  先行研究では、制作年代を室町時代と比定するが、その論拠を検証するため、本論では同時代作の硯箱21点を挙げ、形状、技法、構図の3点から本品と比較を行った。また意匠について「砧」、「枕」、「秋草」を題材とする漆芸品・絵画資料・文献資料の確認を行った。

  その結果、上記の3点、及び本作の藤袴の表現などから、本作が室町時代の作であろうと導き出した。また「獏をあらわした枕」の実物作例の古くは桃山時代とされていたが、本作品を室町時代とみなせば覆るともいえよう。また蒔絵硯箱のうち、砧と獏が表現された作品は本品と江戸時代の「写し」しか管見の限り確認できず、この硯箱の特殊性がうかがえる。和歌の情景を、硯箱に独特な意匠表現を施した特徴ある貴重な作品と考えられる。

[指導教員コメント 伊藤奈保子]
  文化財学は実物調査を行い、文字資料だけでは見えにくい史実を専門的な知識をもって分析考察し、新知見を導き出す学問分野です。本論文はそれを満たしたものとして高く評価できます。

  二宮さんは先輩後輩からも信頼が厚く、文化財学の3泊4日の研修旅行の幹事を務め、奈良・京都・滋賀の古建築、仏像、工芸品を最適なコースで企画し、事故・ケガもなく、大きな成果を収めました。また伊藤研究室主催の「日本の手仕事・広島」をテーマとする展覧会、ワークショップに率先的に参加し、パンフレット制作からギャラリーでの伝統工芸品・学生考案のオリジナル作品(その内数点は広島県立歴史博物館で展示)を観覧者の動線を意識して展示しました。

  多くの製作工房を訪ね、職人の方々の話を聴き、技により「美しいもの」が生まれる瞬間を、身を乗り出して見ていた姿は忘れられません。これからもその感性と積極性を失わずに、元気にご活躍されることを祈ります。

発表する二宮千奈美さん

久保田研究科長を囲んで指導教員の先生方と記念撮影する発表者の皆さん

5.『第34回2018年ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」』優秀賞受賞報告 日本・中国文学語学 博士課程後期1年 渡橋恭子】

   この度、公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)が主催する、第34回ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」において優秀賞をいただきました。受賞論文の題目は、「オリンピックにおけるフェアトレード調達の推進 ―フェアプレーで築く消費者市民社会―」です。本論文では、2020年に行われる東京五輪を契機として全国の企業・消費者にフェアトレード製品の使用の促進と啓発を行うための方法を考察し、大会を通して消費者市民社会を実現させるべく提言を行いました。

  私はこれまで、社会の現状を鑑み、よりよい社会を築くためにはどのような課題があるのか、またこの課題を解決するためにはいかなる施策を講じる必要があるのかを継続して考え、提言論文としてまとめてきました。

  昨年にも、公益財団法人公共政策調査会と警察大学校警察政策研究センターが募集した「オリンピック・パラリンピック東京大会の安全安心な開催のための対策を考える」をテーマとした懸賞論文で優秀賞および読売新聞社賞をいただいております。この成果に対し、2月10日に東広島市より東広島アザレア賞を賜りました。

  私はこうした受賞を励みとして、これからも社会のあるべき姿を模索しながらその多様性を守り活かす方途について考え、発信していきたいと思っています。
最後に、私の活動を見守りまた激励の言葉をくださった諸先生方に改めて御礼申し上げます。今後も精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。

1月16日に東京で行われた表彰式の様子

6.文学研究科(文学部)ニュース

○平成31年度広島大学入学式

【 日 時 】4月3日(水)11時 開式
【 会 場 】東広島運動公園体育館(アクアパーク)

7.広報・社会連携委員会より【広報・社会連携委員会委員長 宮川朗子】

  2018年度最後の「リテラ友の会・メールマガジン」をお届けします。
  今回は、年度末恒例の定年退職を迎えられた先生方のメッセージや卒論発表会のレポートはもちろん、「古文書を見る会」のレポートや受賞報告など、盛りだくさんの話題を提供することができました。
  また、通常よりもひと足早い時期に着任された先生からも、ご挨拶をいただくことができ、新年度の幸先良いスタートが早くも切れたような気がします。
  2019年度の「リテラ友の会・メールマガジン」にも、すでにいくつか企画がありますが、文学部・文学研究科の学生、教員の受賞のニュースなど、随時お伝えしてゆきたいと思いますので、みなさまからの情報をお待ちしております。

 

////////////////////////////

リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  久保田 啓一
編集長:広報・社会連携委員長  宮川 朗子
発行:広報・社会連携委員会

広島大学大学院文学研究科・文学部に関するご意見・ご要望、
メールマガジンへのご意見、配信中止・配信先変更についてのご連絡は
下記にお願いいたします。
広島大学大学院文学研究科 情報企画室
電話 (082)424-4395
FAX (082)424-0315
電子メール bunkoho@hiroshima-u.ac.jp

バック・ナンバーはこちらでご覧いただくことができます。

////////////////////////////


up