メールマガジン No.91(2019年 5月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.91(2019年 5月号) 2019/5/22

□□目次□□
1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ
2.集中講義「総合人間学」レポート
3.文学部オリエンテーションキャンプレポート
4.文学研究科(文学部)ニュース
5.広報・社会連携委員会より

 

1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ

 文学研究科では、4月に3人の教員が着任いたしました。今号では、3人の自己紹介をお届けいたします。

○応用哲学・古典学講座(インド哲学分野)川村 悠人 准教授
  新任教員の川村悠人と申します。
  古代インド語であるヴェーダ語やサンスクリット語およびその言語文化を軸に展開したインド思想(仏教思想を含む)の研究をしています。学生時代に各分野の入門授業を受けていたとき、見たことも聞いたこともなかった「サンスクリット語」という得体が知れないものに惹かれ、この広大な森に迷い込みました。

  もともと言語的関心が強かったため、サンスクリット語それ自体の文法研究がこれまでの研究の核となっています。現在は、難語の語源研究、とりわけ宗教儀礼賛歌集『リグ・ヴェーダ』(紀元前1200年頃)に現れる神々の名の語源分析に研究の主眼があります。神々の名に潜む真の意味が明らかになるにつれて、当時の人々が神にどのような思いを込めたのか、当時の人々は自分たちが生きる世界をどのように見ていたのかなど、我々とは異なる時代と文化に生きた人々の生の声が聞こえてきます。文献学の醍醐味の一つです。神の名の意味を問う議論は、おそらくどの文化体系においても最も白熱しかつ緊迫するものの一つで、将来的に他領域との比較研究も視野に入れています。

  古代インドの言語と思想はアジア地域に果てしない広がりを見せており、我が国にも仏教を通じて伝播しています。所属するインド哲学仏教学研究室では、アジア諸地域の文化に興味を抱く学生諸氏が日々サンスクリット語やパーリ語(仏教聖典語)と格闘しながら研究を進めています。国際性も豊かで、現在、中国・チベット・スリランカから多数の学生を受け入れています。自身が果たすべき使命を自覚し、知の創出(研究)、知の伝達(教育)、知の応用(社会貢献)に積極的に取り組んで、研究室と研究科ならびに本学のさらなる発展に寄与していく所存です。

  家族の支えなくして今の自分はありません。自分にできることを通じて少しずつ恩返しをしていきたいと思っています。
■川村准教授のプロフィールはこちらをご覧ください。

○日本・中国文学語学講座(日本文学語学分野)白井 純 准教授
  2019年4月に文学研究科日本・中国文学語学講座に着任した白井純です。どうぞ宜しくお願いします。

  私の主な研究分野は、日本語の歴史、特に、16世紀末から17世紀初めに日本で布教活動を行ったキリスト教宣教師の残したキリシタン版の日本語の研究です。外国人が日本語を学習し、ヨーロッパの活字印刷機で出版したというユニークな資料で、そうした特徴が日本語表現にどう影響したのかという課題に関心を持っています。

  キリシタン版は日本国内の禁教と弾圧により殆ど残っていません。三十点あまりが残存していますが、世界で一冊しかない本も珍しくないのです。日本よりも海外の図書館に多く所蔵されているので、調査のため海外出張に出る機会が多いです。昨年はサンパウロ大学での集中講義の合間に出かけたリオ国立図書館で、幸運にも中南米大陸で初めてとなるキリシタン版を発見しました。日本から地球の反対側までどうやって移動したのかは謎ですが、そこにはいくつかの偶然と、それを可能にする歴史的な必然があったように思います。

  もう一つの研究分野は、江戸時代の藩校蔵書の形成と、明治時代の利用のされ方についての研究です。元々は勤務先の信州大学の古典籍の整理から始まり、そこから信州各地の図書館、博物館に対象を拡大して、松本藩をはじめとする信州の藩校蔵書の全体像の把握に努めてきました。藩校蔵書には全国的に共通する部分と、地域固有の特徴を発揮した部分があるようです。今後は広島でも学生さん院生さんと協力して文献調査を行い、比較研究を進めたいと思います。

  出身は愛知県豊橋市です。北海道大学に入学して7年間、その後、講座の助手として6年間、信州大学に移って14年間を過ごし、この度、広島大学に勤務することになりました。北海道、信州という自然が豊かな土地で暮らしていたので、山登りが趣味です。家族が暮らす実家の豊橋市には週末に帰省して、近くの浜名湖や伊良湖岬で釣りを楽しんでいます。

  これからは広島大学で、良い教育と研究を行うよう努力したいと思います。お世話になりますが、よろしくお願いします。
■白井准教授のプロフィールはこちらをご覧ください。

○歴史文化学講座(日本史学分野)奈良 勝司 准教授
  はじめまして。4月に着任した奈良勝司と申します。
苗字は奈良ですが、京都府生まれの滋賀県育ちです(琵琶湖の西岸で比良山とのコントラストが綺麗です)。学部・大学院を立命館大学で学び、京都で暮らしていましたが、この10年ほどは学外研究や就職でドイツや韓国、オランダでも生活しました。韓国・漢陽大学校の国際文化学部や立命館大学の文学部で奉職した後、広島大学でお仕事するご縁を頂きました。微力ながら教育、研究、運営、社会貢献などに私なりの貢献ができればと思っています。

  専門はもともと幕末政治史で、末期の徳川政権(私は幕府という言葉を使いたくないのでこう言います)の改革派の活動実態を研究していました。その後、対象を他の政治勢力にも広げ、近年は明治維新そのものを考える作業に取り組んでおり、明治維新の語られ方(史学史)も分析しています。

  また、昌平坂学問所の教学が幕末の幕臣に与えた影響についても、世界認識の観点から検討しています。「公議」という概念や、後期水戸学者による情報ネットワークの解明なども進めています。さらには、近代東アジアの国際秩序や人々の世界観に明治維新が与えた影響、西洋国家との比較史にも関心をもっています。

  背景には、現在の日本社会の特質・構造を解き明かしたいという、昔からの関心があります。たとえば、論理よりも情が優先される気風、「空気」の支配、勤勉性と同居する内向き志向。言葉や約束(契約)の相対的軽視、異質性が同居せずむしろ高い同質性が志向されることの意味。このような、日本文化論の代表的テーマについて、歴史学の観点から説得的に説明したい。そのためには近代日本の出発点である明治維新の解明が必要、と考えています。

  広く自然豊かなキャンパスで(ぼーっと考えごとしたりロックを聴いたりしつつその辺を歩いているかもしれません)、伝統ある学部の熱心な学生・院生の皆さんと、学問の喜び、こだわり掘り下げる楽しさを共に味わっていければと思っています。
■奈良准教授のプロフィールはこちらをご覧ください。

2.集中講義「総合人間学」レポート

  大学院博士課程前期の最初の講義は集中講義「総合人間学」が行われます。
今年度は4月6・7日の両日、8人の講師による「研究と実践から人文学を考える」という共通テーマで集中講義が行われました。受講生の中から二人の学生の感想を掲載します。

○集中講義「総合人間学」を受けて

【地表圏システム学講座 文化財学専攻 安藤裕之】
  学部2年生の時に専攻に分かれてからは他専攻の講義をあまり受講する機会がありませんでしたので、この総合人間学の講義は非常に興味深いものでした。今回他専攻の先生方の研究内容を拝聴することで自分とは異なるモノの見方や研究の手法を知ることができ、他分野への関心を深めることができました。
  講義の後のグループワークでも専攻が異なる学生が集まっているので、先生方とも異なった考え方、テーマに対するアプローチを知ることができました。これらが全て今後の自分の研究に活かせるというわけではないと思いますが、多くの視点や考え方は研究以外の場でも問題解決の一助となってくれるのではないかと思います。

【欧米文学語学・言語学講座 英語学専攻 門永 望】
  この授業を受けた率直な感想は、「とても刺激的で新鮮だった」ということです。
院生になってここまで自身の専攻外の話を聞ける機会はそうそうないと思っていたので、貴重な経験ができたと思います。今回のテーマは「研究と実践」。自分の中に専門知識の前提が存在しないために、表面上の言葉を追うだけで精一杯なこともありましたが、先生方の多彩な話は今回のテーマの昇華形態を表していたと思います。普段の授業であれば、その題材は必ずしもその先生の一番の専門とは限りませんが、今回は様々な分野のコア部分に次々と触れることができました。そこで得た、新しい発見に出会う、ぎゅっと実のつまった果実をいくつも摘んだような感覚は、自身の研究の中でも大切にしたいと感じました。

楊小平さん(島根大学国際交流センター特任講師)

  4月23日には楊小平さん(島根大学国際交流センター特任講師)をお招きして、総合人間学特別講義が開催されました。
総合人間学講座教務補佐員 徳間一芽さんに特別講義をレポートしていただきました。

○楊小平さん講演会
「平和研究と人類学的実践 
      ―戦争遺構や平和モニュメントに囲まれる私たちといま―」

  広島大学と平和研究ーー今年で第8回目を迎えた総合人間学講座は、講演者と広大が見事なマッチングを果たしたものとなりました。講師には本学で博士学位を取得された楊小平さんをお迎えし、集中講義の一環として講演いただきました。演題に則して主に三つの観点からお話いただきましたが、今年の集中講座のテーマである「研究と実践から考える人文学」という趣旨が見事に反映された講演となりました。

 まず「戦争遺構や平和モニュメントのいま」の中では、ベルリンユダヤ博物館の紹介に始まり、立命館大学平和ミュージアム(アジア・太平洋戦争時、学徒出陣により1,000名以上が死亡)などの解説がありました。戦争遺構を訪れた人々への体験共有の試みは、これらを観光資源にとどめない、平和学の実践的試みであること、これら遺構が過去のものでなく、いまに続くものであることが示されました。そして、東広島市に9か所もの戦争遺構が存在することについて触れていただいたのは、地域在住者としても戦争が身近に感じられる、有意義な情報提供でした。

 「『戦争の記憶』と『平和への希求』」の話では、まず「記憶」に対する定義と理論についての説明がなされた後、平和学についての話がありました。暴力の対象となるのは直接的、肉体的なものにとどまらず、より広くジェンダー的差異、貧富の差などという、構造的暴力をも「平和学」の範疇に含むという説明は、平和の意味をより広義なものへと昇華させる重要な指摘でした。

  楊さんは平和記念資料館で唯一の外国人ボランティアとして、11年もの間活動に従事してこられました。「メタファー/方法としてのヒロシマ」ではそんな楊さんの平和的実践として、ご本人の体験を交えた話をしていただきました。資料館での活動中、実際の被爆者との出会いもあれば、核兵器を称賛する立場の人との出会いもあったといいます。被爆者の語りの中では、放射線の影響以外にも、例えば「自分のみが生き残った」という罪悪感を背負い続ける人がいるという話からは、戦争あるいは原爆体験が現在進行中であることが窺われました。

  素晴らしい講演をつたない文章で無碍にしている感も否めませんが、「広大で研究する意義って何だろう?」と日々苦悶する、当日の多くの学生参加者の目は、輝いていたように思います。

【楊小平さんのご紹介】
島根大学国際交流センター特任講師
広島大学大学院総合科学研究科外国人客員研究員
中国哈爾浜師範大学特任教授

3.文学部オリエンテーションキャンプレポート

  文学部では毎年、年度始めに新入生歓迎行事として「オリエンテーションキャンプ(通称「オリキャン」)を行っています。今年は4月27・28日に新入生と2・3年生、文学部の教職員を含めた約300名で「国立山口徳地青少年自然の家」へ行き、親睦を深めるための様々なイベントを学生が主体となって行いました。

 オリキャン1日目は新入生による出し物から始まります。班ごとに工夫を凝らした出し物で、会場は大いに盛り上がりました。そして夜はキャンプファイヤー!全員で輪になって踊るダンスでは会場中が熱狂。ダンスの後は班のリーダーが班員への思いを語り、温かい雰囲気で1日目は幕を閉じました。

 オリキャン最終日となる2日目の目玉はオリエンテーリングです。自然豊かな山道を地図を頼りにポイントをまわり、ポイントごとに課されるクイズや伝言ゲームなどの課題を班で協力して乗り越え、得点を競います。その後の閉会式で2日間の成績発表があり優勝した班には豪華な景品が送られました。

 この他にオリキャンでは先輩による専攻紹介や、宮島・尾道への小遠足など様々な活動を通して、新入生の大学生活の第一歩をサポートしています。今年のオリキャンも新入生含め学年の垣根を越えて参加者全員で盛り上がり、交流を深めることができました。オリキャンで生まれた交友関係は今後の生活をより充実したものにしてくれるでしょう。新入生たちの大学生活が素晴らしいものになるよう願っています。

 最後になりましたが今回のキャンプを最後まで支えてくださった教職員の方々をはじめ、参加してくれた新入生、運営に協力してくれた学生スタッフなど。オリキャンに関わる全ての方々に感謝申し上げます。多くの方々のご協力のおかげで今年も大成功で終わることができました。学年の垣根を越えた交流と、大学生活にはないと思っていた青春を味わわせてくれたオリキャンのますますの発展を実行委員一同心より願っております。
(文学部新入生歓迎行事実行委員会 総局長 小田 直弥)

6.文学研究科(文学部)ニュース

○文学研究科ロビーの展示替えをしました
今回のテーマは「先輩たちの卒業論文」です。展示されている論文は、遥か遠い昔に提出されたものではありませんが、ワープロソフトを使って書くことが一般的な現在の論文と比べるなら、隔世の感があるかもしれません。
   手書きならではの欧文と和文の併記の方法や図の挿入の工夫、多種多様な原稿用紙や表紙の装丁など、ぜひご覧になって楽しんでみてください。

7.広報・社会連携委員会より【広報・社会連携委員会委員長 宮川朗子】

2019年度の最初の「リテラ友の会・メールマガジン」をお届けします。
このメールマガジンでは、文学研究科の活動やニュース、所属の先生方や学生さんの研究の成果や活躍を発信しています。
今回は、文学研究科に今年度より着任された先生方のご紹介、オリキャンや集中講義「総合人間学」といった年中行事のレポートをお届けしました。
 次号も引き続き、新任の先生方のご紹介や、文学研究科の最新情報などをお届けしますので、どうぞお楽しみに。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  久保田 啓一
編集長:広報・社会連携委員長  宮川 朗子
発行:広報・社会連携委員会

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