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文学研究科ロビーの展示替えをしました

江戸時代の庶民のくらし~柄鏡という視点から~

   今回の展示は、文化財学研究室の学生さんが三浦正幸教授の監修のもと、展示物の選定・キャプション作成等を担当し、展示を完成させていただきました。

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文化財学研究室です。
   「モノ」という観点からいろんな情報を発信していく私たちは、此度三浦研究室所蔵である江戸時代の柄鏡を中心に展示します。
   鏡が上流階級の人々から庶民へと普及していく中で、どのような変化を辿ってきたのか。江戸時代の人々の暮らしを少しでも感じて頂ければ幸いです。文様の一つ一つまで、じっくりとご覧ください。

【鏡の発展】
   お化粧用の鏡は、平安時代に中国から伝来し、やがて国産化しましたが、古くは支配者階級だけが所持する高貴な器物でした。江戸時代になると、姿見として庶民にも普及しました。形も、円鏡や八稜鏡(はちりょうきょう・八角形の花弁形)から持ち手がついた柄鏡へと発展していきます。

【鏡の制作方法】
   鏡は鋳型に銅と錫などの合金の白銅を流し込んで作ります。江戸時代の鏡の鋳型は、粘土板に直接文様を彫ったり型板を押し当てたりして作られます。

【鏡の使用方法】
   お化粧には、下図のように2枚の鏡を用います。正面が主鏡、手に持つ方を合わせ鏡と呼びます。18世紀に入り島田髷という大きな髪型が女性に流行したことに伴い柄鏡も大きく径8寸(24.2cm)になりました。

合わせ鏡
蓬莱円鏡

蓬莱円鏡
   大名家の嫁入り道具として制作されました。文様が立体的で、鏡体が小さくて厚いことが特徴です。柄鏡が主流になった江戸時代でも、円鏡はこのような姿で命脈を保っていました。文様は、海中の岩山に松竹梅が生え、鶴2羽と持ち手の紐をつける霊亀(れいき)1匹が接吻する、14世紀以来の伝統的な蓬莱文です。
【鏡面の直径12.5㎝、重さ1071g、鏡面の厚さ1.5㎝、鏡縁の厚さ1.7㎝】

界圏青海波蓬莱柄鏡

界圏青海波蓬莱柄鏡(かいけんせいがいは)
   この二つの鏡は、どちらも蓬莱山と呼ばれる中国の空想上の山が題材です。松竹梅が密生した蓬莱山を霊亀が背負う図(右) と、松竹を配し州浜(すはま)で鶴が遊ぶ図(左)の2種類があります。霊亀とは、歯と耳があり尻尾が房毛になる想像上の亀のことです。縁起がよくおめでたい吉祥文様として用いられます。

【(右)鏡面の直径14.5㎝、重さ213g、鏡面の厚さ0.2㎝、鏡縁の厚さ0.4㎝、柄の幅2.6㎝、柄の長さ9.0㎝】
【(左)鏡面の直径21.0㎝、重さ567g、鏡面の厚さ0.1㎝、鏡縁の厚さ0.4㎝、柄の幅3.9㎝、柄の長さ9.8㎝】

蓬莱柄鏡

この二つの鏡は似た構図がとられています。どんな違いが見られるでしょうか。
【ニつの鏡の違い】
・右の鏡の方が砂目地(すなめじ)や鶴や松などの文様が鮮明である
・左の鏡の方が一回り小さい
・左の鏡の方が赤味(銅色)がかっている

   なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。それは一品生産の鏡と、「踏み返し法」で作られた鏡の違いによるものです。踏み返し法とは、既成の鏡を粘土に押し付け、文様を写し取る、いわば偽物の制作法です。右の鏡は鋳型を個別に作った一品生産品なので、文様が鮮明です。左の鏡は踏み返し法で作られた粗悪品で、文様が不鮮明になり、鋳型より収縮するので小さくなり、厚さも薄く、材質も悪くて錫が少なく銅が多いものです。値段は10倍以上の差がありました。
【(右) 鏡面の直径24.2㎝、重さ1171g、鏡面の厚さ0.4㎝、鏡縁の厚さ0.7㎝、柄の幅4.3㎝、柄の長さ10.4】
【(左) 鏡面の直径23.5㎝、重さ806.5g、鏡面の厚さ0.2㎝、鏡縁の厚さ0.5㎝、柄の幅4.0㎝、柄の長さ9.3㎝】

南天柄鏡ほか

南天柄鏡(右)
   南天はその名称が「難を転じる」と解せることから縁起物とされ、柄鏡に多く用いられました。
【鏡面の直径24.2㎝、重さ1442g、鏡面の厚さ0.35㎝、鏡縁の厚さ0.5㎝、柄の幅4.6㎝、柄の長さ11.2㎝】

福寿文字入宝尽柄鏡(左)
  【宝尽文様】如意宝珠、打出小槌(何でも願う物を出せる槌)、隠蓑(着けると姿が見えなくなる蓑)、金嚢(中のお金を使っても減らない袋)、宝鑰(どんな錠でも開けられる鍵)などの魔法の道具が表されています。
【鏡面の直径24.2㎝、重さ1231g、鏡面の厚さ0.3㎝、鏡縁の厚さ0.6㎝、柄の幅4.6㎝、柄の長さ10.5㎝】

 

花月文字入梅雪輪柄鏡【右】
   雪輪とは六角形の雪の結晶を円形に表したものです。江戸時代の人々は雪の形をこのように思っていました。
【鏡面の直径23.9㎝、重さ877g、鏡面の厚さ0.2㎝、鏡縁の厚さ0.5㎝、柄の幅4.1㎝、柄の長さ9.7㎝】

源氏文字入柄鏡【中】
   大文字で「源氏」と記されているように、源氏物語の三場面が扇・蹴鞠・色紙の中に表されています。
扇の中の図は第45帖「橋姫の段」に基づいています。17世紀半ばに刊行された『絵入源氏物語』の絵に似た構図が見られ、また本文中にも「あやしき舟どもに柴刈り積みおのおの何となき世の営みどもに行き交ふさまどものはかなき水の上に浮かびたる誰れも思へば同じことなる世の常なさなり」という記述があります。図中の舟に積まれたものは柴であることが分かります。
【鏡面の直径23.8㎝、重さ949g、鏡面の厚さ0.3㎝、鏡縁の厚さ0.5㎝、柄の幅3.7㎝、柄の長さ9.3㎝】

高砂文字入方鏡【左】
   携帯用の鏡です。財布などに紐で縫い付けて持ち歩くため、背面に小さな鈕が上下1個ずつ付いています。
高砂とは松に因んだ能の曲目で、『古今集』の序の「高砂、住江の松も相生のように覚え」という言葉を核としています。この能は、祝言曲として祝儀の席でもよく詠われるものです。そのため、松と高砂の文字を組み合わせて用いられています。【縦14.7㎝、横7.1㎝、重さ208.5g、鏡面の厚さ0.3㎝、鏡縁の厚さ0.4㎝】

 

サテライト展示ケース右
サテライト展示ケース左
サテライト展示

入替作業をする学生

サテライト展示

展示を担当していただいた文化財学研究室の学生さん


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